そのガキは天使を騙る
飛び降りる為に適したビルを探し求めて、やっと丁度良さそうなビルを見つけた。良い感じに人通りが少なく、かつてテナントも入っていない廃墟同然な古びたビルだ。
真正面の自動ドアは反応せず、当然ながら入れない。からどうやって裏口から入れるかを知恵を絞り、無限に時間はあるからネットの動画を先生にして、サムターンを針金で回す練習をする事にした。
無職だからずっと朝昼晩と繰り返し続けて何だかこの技術だけはもしかしたら本職に迫れるかもしれないレベルに上手くなったと思う。
決行当日。
もう最後の朝食になるから、あのバーガーショップで自分の中では超贅沢なセットを頼んだ。ソーセージマフィンとハッシュドポテトとコーヒー。人生最後の飯なせいか、旨すぎて涙出てきた。コーヒーはぬるかったが……。
平らげて、店を出た後に早足で顔を伏せながら路地に入る。やっぱり誰も俺の事なんか気にしない。裏口に着いて針金を突き刺す。拍子抜けなくらい簡単に侵入出来た。当たり前だけどテナントも入っていないビルの中には俺以外誰もいないからかひんやりとしている。
階段を昇っていき、屋上へと出るドアの前に立つ。これも作りが古いからか、容易にドアを開ける事が出来た。屋上。何の個性も無い、鼠の額みたいに小さいビルの屋上。むしろ、俺に相応しい気がする。
こんなビルの屋上で、誰にも知られないまま飛び降りる。迷惑を掛けるとしたら、俺の死体を処理する人位だ。鉄柵に背中を押し付け、全体重を押し付けるとーーーーあっ。
鉄柵がボロいからか、俺の体はそのまま倒れて、宙へと放り出されて。
体が止まった。
もしかして死ぬ前だからか時間が止まったのかと思ったら違う。誰かが俺の足首を掴んでいて、無理やり助けやがってる。余計な事しやがって……と思っていると、不自然な位幼い子供の声が聞こえてきた。
「いらないならぼくにくれよ、そのガワ」
【続く】