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元気ないんですけど

 青葱が安かった。どれも同じように見えるが、鮮度にばらつきがあるかもしれない。僕は2、3回やり直して、これという青葱を取ってカートに入れた。自己満足か。葱を取るというちっぽけな選択さえも、本当は最初からすべてが決まっていたのかもしれない。自由な意思に自信が持てなくなる瞬間があるのだ。レジはあみだくじのようだ。空いていれば空いているところに行く。どこもかしこも空いている時は、どこに決めればいいのか。ふらふらと一番端のレジに行き着く。あるいは、それも最初から決まっているのか。

 レジの人はどこか元気がないようだった。いつもの人かはわからないが、いつもよりも声が出ていない気がした。何かあった? それともそれが普通だろうか。どうせ会計のところはセルフなのだし。薄切り肉のパックがいつの間にか小袋の中に入れられていた。僕は何を求めているのか。スーパーに元気をもらいにきているのだろうか。おかしな話だ。

 夫婦のようだ。あとに黒い犬が続いた。道草を食いながら、彼らの足を引っ張っていた。僕は元気な犬にしばしみとれていた。顔を上げると信号は青だった。まだ点滅していない。

#冬の散歩道

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