ためらいの宝物
洗面所に行き手に取った瞬間、離れた。落ちていく歯ブラシを手が追いかける。いつもなら追いつけるはずなのに、今日は駄目な日だった。歯ブラシは軽くドブの中に落ちた。3秒ルール! 拾おうとして歯ブラシは、更に深いドブの中に浸かった。調子がいい時はミスをしてもリカバリーできるのに、駄目な時はとことん駄目だ。
(もしもこれしかなかったら……)
最悪の事態を思いながら、下書き保存庫の中を探った。
あった! あったぞ!
2005年『歯磨き選手権』の参加賞にいただいた歯ブラシだ。
「こんなものいらない」そう言って、
自分から遠ざけていた歯ブラシを、ようやく使う時が訪れた。
あの日、躊躇われたものが今日の宝物になるとは……。
取っておいて本当によかった。
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