夏の残像
麦藁帽が並んでいた商品棚は、今はもうかぼちゃのオブジェであふれていた。熱狂の蝉たちはもういない。替わって到着した虫たちが秋のクラシックを奏でている。十月の旅人が、クーポンを握りしめて街をさまよい歩いている。
素麺の包装がキッチンの隅で泣いていた。買い溜めした蒟蒻ゼリーも、まだたくさん余っている。「もっと夏は続くもの…」(夏は暑く長いもの)と思っていたが、気づいたら終わっている。何度終わりを経験しても、学習することができない。
扇風機を片づけに倉庫に行くと、出損ねたお化けたちが膝を抱えるようにして座っていた。思いの外、出番がなかったらしい。
「もっと冷やしたかったのに……」
女のお化けが怨めしそうに言った。彼女たちも学習の途中かもしれない。家の周りが湿っぽい空気で満ちていた。
「ハロウィンがあるよ!」
この街のハロウィンはカオスの中にある。何者でも入り込むことができるのだ。
「本当?」
お化けたちが、興奮したように浮き上がった。思った以上に大勢いる。そのまま出れば問題ないことを伝えたところ、ひゅーひゅーと喜んだ。
「土曜の夜にね」
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