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遅すぎた反撃

 相手は升田式石田流の出だし。僕は相振り飛車をためらって右の銀を運んだ。何とか流左玉の布石だ。相手はしっかりと美濃囲いに囲った。僕は銀を二枚横に並べてから位を取った。いつまでも角道を止めてこないのでこちらから交換した。僕は向かい飛車に振って玉を上がった。ついに左玉が実現した。相手は飛車の頭に銀を繰り出し桂も跳ねている。今にでも仕掛けてきそうな積極的な陣形だ。僕は一段飛車の構えを作り自陣を整えた。すると相手は石田流から歩を突いて攻めてきた。

 銀損の強襲だ! 少し無理では? しかし、美濃囲いが堅いこと、向かい飛車が眠っていること、受けが下手であることなどを考慮すると、不安の方が大きかった。金か桂かどちらで取るか? この応対に時間を使いすぎたことが後に響くことになる。悩んだ末に成銀を桂で取った。桂頭の歩攻めにグイッと銀を出てガードする。すると相手は桂を取り、銀をくれと桂を打ってきた。そこで僕は飛車の頭に歩を打った。これでまずは一安心か。以下色々あって自陣に成桂を作られる間に、石田の飛車を中段で圧迫する形となり少し手応えを感じた。

 飛車を追いながら向かい飛車の飛車先も伸ばすと中段に桂を据えた。美濃のこびん攻めだ。すると相手は玉を引いて先受けした。僕は構わず歩を突き捨てて攻めた。好調ではあるが決まるには遠い。何とか食らいつこうとするが、相手は玉を逃げ出し自陣に駒を投入して徹底抗戦する。ごちゃごちゃとした攻防の途中で、無念の時間切れ負けとなった。

 強襲への対応に時間を使いすぎたことが響き、よくなっても寄せ切るまでには至らなかった。時間であまりに離されてはチャンスは限りなく少なくなる。3分切れ負けは時間との戦いだ。



●戦術的無理攻め(ゼロ秒指し)について

 立ち上がりから守りもそこそこに、いきなり襲いかかってくるような相手と対戦することがある。多少無理でも、短い時間で正確に受けることは難しい。考えようによっては受けの勉強になる。
 中には無理を承知で攻めていると思われる時もあり、それは「戦術的無理攻め」に違いない。(攻めが失敗しても最終的に時間で勝つ作戦)
 その主な狙いとは、

・一方的に攻めたい
 受けは苦手。一手違いの寄せ合いには自信がない。だけど攻めには自信がある。攻めが好き。一方的に攻め立てるような展開になれば勝てるかもしれない。攻撃は最大の防御。攻めている間は攻められない。玉のない無敵状態となって攻め続けたい。

・自分のペースに持ち込む
 先に攻められるのは嫌だ。とにかく自分から先攻して主導権をつかみたい。相手よりも速く指して圧倒する。攻撃とスピードによって相手を浮き足立たせる。(守りは最小限。またはノーガード)

・受けに神経を使わせる
 間違ったらつぶすというプレッシャーを与えて時間を削る。形勢がわるくなっても、自玉が攻められていなければ時間勝ちを狙える。

・視野を自陣に限定させる
 攻め対受けという単純な構図に持ち込む。それによって本来の目的(玉を詰ますというゲームの本質)を忘れさせる。言わば催眠術だ。受けにいっぱいいっぱいでは、恐怖心も合わさって、自玉周りしかみえなくなることは考えられる。

 いつもいつも上手くはいかないだろうが、受けが嫌だという人には効果的かもしれない。時間でも将棋でも圧倒できれば爽快感もあるだろう。


~ゼロ秒指しのリズムとプレッシャー
 ノータイムで指す効果

 ・自信満々にみせる
 ・考える時間を与えないことによって無理が通る。
(0秒で指してくるということは時間でも圧倒しようとする意思があるので心して臨まねばならない)
 3分切れ負けは相手の時間と合わせて6分なのが、半分になってしまう。将棋は相手も考えてくれるから、ある程度の余裕が得られる意味がある。時間の使い方を手がかりに相手の状態を知ることもできる。自分の時間でのみ戦うというのは、相当大変ではないか。
 本当の早指しを相手にしては、極端な話3分で負かされる恐れがあるのだ。


~受け切らないということ
(攻める心を失わないこと)

 3分切れ負けというルールの中では、受け切って勝つというのはあまり現実的ではない。(そもそもそれは本来の目的でもない)
 形勢がよくなっていても、時間が切れれば相手はしめしめと思うかもしれない。凌いで終わりではなく、できれば最後にまくりたいものだ。

 大切なことは、苦しみながらも遠くをみておくことだ。
 防戦一方に追い込まれている状態でも、敵陣に目を向けておく。相手の攻めが伸びきったところ、ワンチャンスでのターンを狙う。自陣を安泰にして時間で負けることを思えば、リスクは冒さなければならない。
 一瞬の反撃機会をつかむことは、受けの醍醐味でもあるのだ。


#遠見の角

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