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裏切りの夜の街
街が一段と暗くなったように思えた。夜の店の明かりが一つ一つ消されていくようだ。昨日は職場までたどり着くことができなかった。街が暗いせいかはわからない。一歩ずつ自分の記憶を確かめながら慎重に進んだ。いきなり記憶が飛んだ。目が覚めるとタクシーの中だった。
「どこへ行くんだ?」いったい誰が。運転手にたずねると男性の方でしたとの答え。僕は車を止めるように運転手に言った。料金はどうしても発生すると言う。(850円?)それほど遠くには来ていないようだった。
降ろされたところは見覚えのない街だった。少し歩いたが馴染みの看板は見えなかった。店先に並んでいるのは民族衣装のようだ。東アジアのどこかのように思えた。夜ではなく夕暮れだった。日本語はどこからも聞こえてこない。階段を上がったところで通行人にたずねた。
「駅はどこ?」
男はただ顔をしかめただけだった。英語、あるいは僕の英語は通じないようだった。