君たちはどう生きるか
夏休みの始まり
子供と妻を送り出し、午前中には一人きり。
家の修理の為に業者が来て、それも30分で終わり。
昼前には予定がなくなる。
ビールを飲んで、臭いラーメンを食べに行く。
自分も臭くなって、何となく映画を観る事にする。
バスケ映画に続き、またもアニメ。
二千円。
高い。
劇場ではしきりに会員になる様に呼びかける宣伝。500円で観る事ができるとの事。
わずか20分ほどで、オトクと言う言葉を20回くらい聞いた気がする。
予告。
アントニオ猪木の映画をやるらしい。
幕が上がる。
サイレンを鳴らす拡声器。
線が太いと思った。
手書き。
火の粉が舞っている。空襲だろうか。
夏になると繰り広げられる、戦争の記録。
疾走する主人公。横からカメラもついていく。人の波が、文字通り波のように歪む。川を遡るような息苦しさ。僕もこんな感じで逸れた母を探し回った気がする。
そんな冒頭はあっさり終わる。
手書き、それも相当厚塗りの背景に、いつもの感じで主人公。声は発するが、何も言っていないに等しい。問いかけに、澱みなく簡潔に言葉を返す。ボタン操作で音が出ているようだ。
そんな中、例の鳥と主人公の出会い。
ピアノが一音鳴る。
そうか、テーマ曲や歌が引っ張っていくパートは無いんだ、と思った。
絵は更に暗く、タッチも荒くなっていく。
思春期の葛藤は当然訪れて、それでいて何も解決されずに通り過ぎて行く。
戦争の理不尽さえ、取り立てて何が訴えかけては来ない。
君たちはどう生きるか。
作者の先人に当たる方々の若かりし日を、誇張なく描いたんだろうか。
どうもこうも、朝起きて、夜寝るの繰り返しが、生きるなんだよ、と読み取って、妙に共感してしまった。
でも、そうではなかった。
忘れたことにしているが、君は、君の目的をいつも背負っている。
主人公がそれに気がついて、脳みそ経由して口から言葉が出るようになってから、画面が一変する。
厚塗りと荒い背景が、いつの間にか細密になっていた。
そっちじゃなくって、こっちだろって言われたようだった。
君たちは、お前は、明日からどうするんだ?
何がしたいんだ?どう思うんだ?
絞り出した何かは、大抵ポトリと地面落ちる。
ひょっとして、僕も誰かのそれを無理やり掴んで、手のひらをひっくり返りして落としていたのかもしれない。
この映画は、同じ事を問いかけるが、別に僕の答えを引き出そうとはしない。
そんなものは、自分がわかっていればいい。
世界はそれがどんなものであれ、ヨシと言うに決まってるから、見せる必要はないんだ。
そう言えば、初めてアニメを見て泣いたナウシカの物語で、空を飛んでいたムシが、遠くの方で横切った気がしたんだけど、あれはたまたまなんだろうか。