MYCT1は造血幹細胞における環境感知を制御する [Nature June 2024]

MYCT1は造血幹細胞における環境感知を制御する
原著: MYCT1 controls environmental sensing in human haematopoietic stem cells
Júlia Aguadé-Gorgorió, Yasaman Jami-Alahmadi, Vincenzo Calvanese, Maya Kardouh, Iman Fares, Haley Johnson, Valerie Rezek, Feiyang Ma, Mattias Magnusson, Yanling Wang, Juliana E. Shin, Karina J. Nance, Helen S. Goodridge, Simone Liebscher, Katja Schenke-Layland, Gay M. Crooks, James A. Wohlschlegel & Hanna K. A. Mikkola

簡単な要約

造血幹細胞(HSC)の自己複製能と免疫不全マウスへの生着能を制御する過程は完全には解明されておらず、機能が維持されたHSCを担保しつつ培養することは非常に難しい。ここで我々はHSCにおけるエンドサイトーシスと環境感知を調整する不可欠なHSC制御因子としてMYCT1を見出した。MYCT1は未分化なHSC、HSPC(造血前駆細胞)、内皮細胞に選択的に発現しており、培養で急激に低下する。レンチウイルスによりMYCT1をノックダウンさせるとCB(臍帯血)の増殖と生着能力を低下させ、対照的にMYCT1を過剰発現させるとその逆の効果が見られた。シングルセルRNAシーケンス解析により、MYCT1はETS因子の発現や低いミトコンドリア活性などHSCのステムネスに必要不可欠な制御プログラムと細胞特性を支配していることが明らかになった。MYCT1はHSCではエンドソーム膜に局在し、小胞輸送制御因子やシグナル伝達機構と相互作用する。HSPCにおけるMYCT1のノックダウンは、過剰なエンドサイトーシスと亢進したシグナル伝達反応を引き起こしたが、MYCT1の発現を回復させるとそれらが回復した。さらに、培養したCB由来のHSPCをエンドサイトーシス率の低さに基づいてソーティングすると、MYCT1の発現が維持されたHSPCが同定できた。以上からMYCT1が司るエンドサイトーシスと環境感知が、ヒト造血幹細胞の幹性維持に必要不可欠な制御機構であることが明らかになった。

実験内容

 まず、著者らはシングルセルRNA-seqのデータセットからMYCT1が内皮細胞と未分化HSCに限定的に発現していることを見出した。CB由来のHSPCを培養したところ、MYCT1の発現は培養開始とともに急激に低下した。また、CB由来のHSPCをMYCT1をshRNAでノックダウンして培養したところ、未分化HSCの細胞の増加が著しく阻害され、免疫不全マウスへの生着も低下した。培養していないCBのシングルセルRNA-seqの結果から、HLF+HSCでMYCT1の発現は最も高く、同時にMLLT3、HIF1A、MEIS1などの発現が高かった。MYCT1をノックダウンした場合はミトコンドリア活性が上昇していることが分かり、実際TMREやMitoSOXを用いたFACS解析でミトコンドリア活性が上昇していた。
 一方、MYCT1を過剰発現させた場合、未分化HSCはコントロールと比較して高い増殖を示し、免疫不全マウスへの生着率も増加していた。CBをin vitroで15日間培養を続けたあとに移植した場合でも高い生着率を示しており、Limiting Dilution Assay(LDA)において、MYCT1過剰発現群は対照群に比べ4.8倍の頻度で生着可能な造血幹細胞が認められた。
 MYCT1はPhobiusによるアミノ酸解析によると、2つの膜貫通ドメインを有しており、CB由来のHSPCにおけるMYCT1の免疫染色によって、クラスリンやRAB5などのエンドソーマルタンパクと共在していることが明らかになった。MYCT1-V5タグを過剰発現したKG-1細胞株でIP-MSを行ったところ、MYCT1は小胞体輸送や受容体シグナル伝達に関わるタンパクと相互作用していた。それらを確かめるためにデキストランの取り込み、およびSCF刺激によるKIT受容体シグナル伝達を確認したところ、MYCT1のノックダウンでは両者とも亢進していたのに対し、過剰発現においては両者とも低下していた。また、シングルセルRNA-seqの結果、デキストランの取り込みが低い細胞はMYCT1の発現が高かった。

感想

MYCT1の発現は培養開始とともにすみやかに失われてしまい、未分化HSCの割合が低下、さらに免疫不全マウスへの生着能も著しく低下してしまう。MYCT1を保つことができれば、それらを防ぐことができる。MYCT1がノックダウンされた場合でもHLF、AVP、MECOMなどの遺伝子発現は保たれており、これらの遺伝子が発現しているからといって、HSCの機能が保たれているとは言えない。したがってHSCを定義する表面マーカーは、あくまでもin vitroで培養していない場合の話である。どうして培養するとHSCの機能が急激に低下してしまうのか、この論文はその原因の一つを明らかにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?