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見ているだけでは、鳥は殺せない」とは、アフロキューバの占いの中に出てくる格言だ。


じっと見ているだけでは鳥(獲物)は捕まえられない。矢を放つとか罠を仕掛けるとか、なんらかの行動を起こす必要がある。


いま、懸案(けんあん)事項になっているプロジェクトがあり、皆であれこれ意見を交わしたり、メリットやデメリットをめぐって議論を重ねているとしよう。


あるいは、あなたが恋愛中の相手と結婚するかどうか、迷っているとしよう。


もしこの格言が含まれる運勢が出たとしたら、私は今こそ実行に移す時期(とき)です、と伝えるだろう。

あるとき、私はメキシコのユカタン半島のメリダというところからタバスコ州の州都ビジャ・エルモ―サまで移動していた。そのときは大きなリュックを背中に背負ってメキシコ中を放浪していた。


情けないことに、手持ちの現金が少なかった。

ビジャ・エルモ―サの空港に着くと、ガイドブックを見て、町の中心までどのくらいあるのか確かめた。だいたい8キロぐらいだった。歩けば、2時間で行ける距離だ。


空港で大きなペットボトルに入った水を買い、トイレを済ませた。


空港のビルの前にある青空駐車場で、迎えにきた人たちが到着した家族や知り合いを車に乗せているのを横目に見ながら、市街地の方角に向かって歩き出した。


すると、200メートルも歩かないうちに、後ろから一台の自家用車がついてきた。


運転をしている品のいい中年女性が「どこに行くのですか?」と、私にスペイン語で聞いてきた。
私は「セントロ(町の中心地)ですが・・・」と答えた。
車の助手席には、若い女性が乗っていた。
「セントロならば、乗せていってあげる」と、運転手の女性が言った。


車に乗せてもらうと、私は下手なスペイン語で自分の旅のことを話した。
女性は、娘が夏休みで大学から帰ってきたので迎えにきたのだ、と言った。
若い女性は、コンピュータ・エンジニアをめざしているらしかった。


それにしても、犯罪のイメージのあるメキシコである。国中でギャングの抗争が絶えない。私もトラブルに巻き込まれたことがある。オアハカの市場では財布を掏(す)られたし、国境の町ティファナで白バイにスピード違反で捕まったときに、わいろを要求され、それに応じたこともある。ミチョアカンでは、いい加減なレンタカー屋から借りた車がパンクし、ホイールが外れてどっかへ行ってしまった。借りたときに保険に入っていたのに追徴金を払わせられた。


だが、旅をしていてわかるのは悪い連中ばかりではないということだ。悪い連中と同じくらい、いやそれ以上かもしれないが、こういう親切な人たちもいる。


わずかな時間を一緒に過ごしただけだが、いまでもビジャ・エルモ―サの母娘のことは忘れない。旅に出てよかった、と今でも思っている。

さて、ファッション・デザイナーのコシノ・ジュンコさんのお母さんの口癖も、アフロキューバの格言に似たものだったらしい。
お母さんはよくジュンコさんに「見ているだけでは川は渡れない」 と、説いたそうだ。

「石橋を叩いて渡る」慎重さも必要だが、勝負に出なければならない時もある出るべき時に出ないと、みすみすチャンスを逃すことになる。


 問題は、いつ行動を起こすかである

 迷ったときに、この運勢が出たら、絶対に勝負に出るべきである。

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