本当につくりたいものを時間をかけて丁寧につくる。
先日、立花隆さんの著書「武満徹・音楽創造への旅」を読んだ。
作曲家の武満徹さんは私の青春のヒーローの1人で、音楽もたくさん聴いてきたし、著作も読んできたつもりだったが、それでもこの徹底的にリサーチされインタビューされた分厚い本(781ページ)を読むと、多くの発見と感動があった。
武満さんの出世作(ストラヴィンスキーにたまたま「発見された」作品)に、「弦楽のためのレクイエム」がある。
この曲は、私が好きな武満さんの曲、3本の指に入る。武満さんの曲の中でも比較的「ロマンティック」だろう。
この曲を書いていた頃、自身は重い結核を患い、さらには師匠も他界し、死を意識していたという。とにかく本当に書きたい曲を書いたのだ。
驚いたことに、武満さんはこの75小説の曲を書くのに、ほぼ毎日、2年かけて書いたそうだ。書いては消し、書いては消しの2年。
はっとした。
本当に書きたい曲を丁寧に書く、本当につくりたいものを時間をかけて丁寧につくる。そんなシンプルなことを近年の私は忘れていたようだ。
ヴィヴァルディは写譜屋が書くよりも速く作曲したとか、モーツァルトは脳内に曲があってそれをさらさら書き写しただけだとか、そんなそもそも比較にならない大天才と自分を比較して、コンプレックスの裏返しなのかそのままなのか、ネット広告の宣伝文句のように、サクサクつくりたい、楽につくりたいとばかり思っていた。
だが、いいのだ。そもそも大天才みたいなことは自分にはできないし、やらなくていいのだ。時間をかけて丁寧につくればいいのだ。そう武満さんと立花さんに言ってもらえたような時間だった。