カメラの話を徒然に(7)
フォクトレンダー(2)・ペルケオ(Perkeo)
名前の変遷
前の稿で、フォクトレンダー・プロミネントについて書いた。プロミネントは戦前に6x9cm判の折り畳み式の蛇腹カメラとして出て、戦後に35mm判つまり24x36mmのフォーマットで銘が復活した。
今回のペルケオも同様に戦前・戦後でフォーマットの異なるモデルがあるのだが、少々ややこしい。
ペルケオ銘のカメラは1931年頃に127フィルムを使う3x4cm判のカメラとして初代が発売され、50年に120フィルムを使う6x6cm判のカメラとして発売される。この戦後のペルケオが本稿のモデルである。
一方で、この6x6判には前身のモデルがあり、それはベッサ66というカメラだった。わざわざ66と銘打っている通り、ベッサには他のフォーマット、6x9判のカメラもあり、35年にはプロミネントの後継というのか合流と言うべきか、プロミネントを置き換えている。6x9判のベッサには目測型の廉価版と距離計連動型があり、これらは戦後にベッサIとII(II型は距離計連動式)となり、戦後モデルはベッサと言えば6x9判になった。
それで落ち着くかと思ったらそうではなく、後年出るベッサマティック(一眼レフ)やベッシー(コンパクトカメラ)というのにも名前が残っていてややこしいし、さらに日本のコシナが商標使用権を取得して35mm距離計連動機のベッサシリーズを出すに至り、結果として、蛇腹カメラ、一眼レフ、コンパクトカメラ、距離計カメラとあらゆるところに「ベッサ」が顔を出すことになった。
戦後のペルケオ
かなり大雑把に言うと、この6x6判の系統は、ベッサ66をリニューアルして、ペルケオの名前に差し替えたもの、ということになる。蛇腹折り畳み式の6x6判カメラで、ペルケオはハイデルベルク城のワイン大樽の番人(小柄だったという)から命名されたということらしいが、つまり6x6判の画面を持ちながら小型にまとめられたカメラだ。
カメラは機構別に分類すると3種ある。
●ペルケオI型
距離目測式のモデル。フィルム送りは背面の赤窓でフィルムの裏紙の表示を頼りに巻いていく。シャッターチャージは巻き上げに連動しない。簡易だが、二重露光防止のシャッターボタンロックがある。簡易というのは、完全に次のコマまで進まないと解除されない、ということではなく、いくらかフィルムを送ると解除されてしまうからである。まあ、正確に1コマ分の送りを検知できるのであれば、裏窓で送りを確認する必要はないわけで..その機能は、II型で実現する。
●ペルケオII型
フィルムの巻き上げ量を検知して停止できる機能が導入されたモデルだ。ただし、1コマ目までは赤窓を見てフィルムを送る必要がある。1コマ目を出して、トップカバー手前のレバーを左側に倒すと、そこからは赤窓を見なくて良いらしい(このモデルは自分は持っていないので、手順は正確でないかもしれない)。他の部分はI型と同じで、距離は目測だし、シャッターチャージも自分でやらねばならない。
I型とII型は、フォクトレンダー社もそのように命名し、カメラにも刻印されていた公式の型名である。
●距離計付きペルケオ(通称E型またはIII型またはIIIE型)
I型を基本に、トップカバー部を少し高く厚くして、そこに単独距離計を入れたものである。単独、つまり距離を測るがレンズとは連動しないので、距離計の距離数値を読み取ってレンズを回すやり方になる。距離計を覗いて二重像を合わせ、いったん目を離し、トップに表示された数字を見て、レンズを回す。これでは厳密な測定はできないので、あくまで補助手段として存在し、あとはある程度絞り込んでピント範囲に入れてくれ、ということであろう。
カメラのトップカバーにはPERKEO、としかなく、E型は日本での通称(距離計:Entfernungsmesserの頭文字から)で、欧米圏ではIIIやIIIEなどの表記を見かける。I型に距離計を載せただけの機能なので、フィルム送りやシャッターチャージなどはI型と全く同じ手順になる。
距離の目測については、レンズの距離目盛に○印(風景用)と▽(集合写真用)のガイドもあり、F8以上に絞っていれば上記のゾーンマークでもきちんとした写真になる(大きく引き伸ばすならもう一段絞る方が良い)。今やスマートフォンに、対象物の地面に照準を合わせ、カメラの傾きから距離を計算するアプリもあるので、距離計つきモデルでなくても不安視する必要はないだろう。
このカメラにはストラップ用の吊り金具はないので、首にかける場合はケースが必須である。ケース付き、しかもケース付属のストラップがしっかりした出物があれば迷わず確保したい。
ペルケオのレンズ
大きく分けて、3群3枚のファスカー(Vaskar/開放値F4.5)と3群4枚のカラースコパー(Color-Skopar/同F3.5)の2種類があり、後者の方が高級版である。焦点距離は初期は75mm、後期は80mmである。私が持っているのは後期の80mm版だ。
●ファスカー80mmF4.5
世に言う3枚玉というもので、絞り開放付近では周囲のピントは少し甘く、ある程度絞る必要がある。シャッター速度1/300秒が最高速なので、日中であれば基本的にはF11くらいまで絞ることになり、描写は均一になるし、距離を外す確率は低くなる。中央部は絞り開放からシャープであり、周辺をボケ像にしてしまえば絞り開放でも案外粗が目立たない。
●カラースコパー 80mmF3.5
3群4枚、テッサータイプのレンズ。ファスカーに比べると画面の均一性に優れ、良いレンズである。こちらの方を先に手に入れて、長年使っている。09年4‐5月のヨーロッパ旅行では、デジタルが主体になったが、遠景の情報量を増やしたかったのと、離着陸時の電子機器使用禁止対策としてこれを持参している。
おわりに
ペルケオは、小型でありながら6x6判という大きな画面に情報を定着できるカメラだ。精密にピントを合わせたい場合には、やはり二眼レフには敵わないものの、この小ささと良いレンズが捨てがたい魅力になっている。カメラはやはり、持ち出してこそ、だと思う。
そのうち、このカメラのライバル的な存在になったスーパーバルダックスなどの話も書くつもりだ。