97年5月撮影のフィルム
ライツのズミクロンとコニカのヘキサノン
35mmF2というレンズ
97年5月に撮ったポジフィルムが出てきたので、スキャンしてみた。私が自分のPCを買ったのは2000年くらいのことで、当時はまだ写真をスキャンしようという発想がなく、写真は全てプリントして、ポケット式のアルバムに入れてコメントを書いていたのだった。この97年のフィルムは岩手県北上市に転勤する4ヶ月前に撮っていて、この頃、私はクラシックカメラ趣味が相当ヤバかった頃であった。ライカM4を手に入れ、それに合わせるようにズミクロン35mmF2を手に入れ、とやっていて、秋に転勤するに至って転勤記念(?)とばかりに、6x9判まで対応した引き伸ばし機を買って、挙句にフォクトレンダー・ベッサIIのアポランター付きまで手に入れている。当時独身だったとはいえ、今考えても、病気としか言いようのない散財ぶりであった。
と、(いつもながら)脱線が長すぎた。
35mmというレンズについては、私は実は当初興味があまりなかった。OMシリーズでカメラ趣味を始めて、父の55mmF1.2と135mmF3.5に加えて自分で初めて買った単焦点レンズが28mmF2.8で、35mmは画角が近いし28mmがあれば画角はカバーできるし、寄って撮れば良いのでは(遠近感は違ってしまうが..)、と相当長い間、35mmを買わずにいた。その後、40mmF2を入手するに至り、ますます35mmは遠のいて行くのであったが、カメラの歴史からすれば、35mmレンズは標準レンズに対するワイドの代表格のようなもので、各社競って良いレンズを出している、ということをその後改めて認識して、案の定たくさん買う羽目になるわけである。
今回スキャンしたフィルムは、ライツのズミクロンと、コニカのヘキサノン、35mmF2対決(?)とばかりに、フィルム1本をこの2本のレンズの比較だけのために撮ったものだ。全く、高いフィルムを使って何をやっているのか、とは思うが当時はポジフィルムが700円くらいで買えたので、いまこれと同じことをするには3倍近い出費を伴うから、当時の勢いを思い出すといろいろ複雑な気分である。
2本の比較
ヘキサノンの方はかなり前に手放して、いまはズミクロンの方しか残っていないから、それぞれの外観比較写真はない。ズミクロンのバージョンは初代で8枚構成、ヘキサノンは7枚構成のレンズで、ヘキサノンは先にコニカ ヘキサーというレンズ一体型のカメラに搭載されて92年に世に出ている。高級コンパクトカメラの流れに乗っているのだと思うが、コンタックスTシリーズや、この後に出るニコン35Ti/28Ti、リコーのGR1、フジフイルムのクラッセなどに比べると大柄なボディだ。もちろん、F2という口径を選択したために物理的に大きくなるのは当然だし、コニカとしては無理に小型化するよりはきっちりホールドしてもらいたいという意図はあったのだろう。
このレンズはたいへん優秀だったので、愛好する人が多かった。ただ、大口径ゆえに、レンズシャッターの絞り開放時の最高速が1/250秒というところだけは、物足りないスペックだったと思う。シャッターのリーフが大きく動かねばならないから、絞り開放での最高速が遅くなってしまうのだ。後にソニーが35mmF2レンズ一体型デジカメのRX1を世に問うたとき、シャッター速度がF5.6以上1/4000秒、絞り開放~F5.6未満では1/2000秒という仕様を示して技術の進化はすごいと思ったものであるが、一部の方は「絞り開放が最も速くあるべき」と言っていた。そりゃそうだが、絞り込まれているときにシャッターリーフが動くストロークを短く制御してシャッター速度を稼いでいるわけで、そこらへんはもうちょっとメーカーの努力を認めてあげて欲しいと思う。
というのはさておき、この2本の比較であるが、ヘキサノンが92年、ズミクロンは58年のレンズであり、その間34年も経っている。ズミクロン35mmはライカファンの間では半ば神格化されたようなレンズであるが、さすがにこの2本を比べると写りの性能では最新式の方が良いと感じた。まず、コーティングや周辺光量の違いからか、同じ露出条件であればヘキサノンの方が明るく写る。この時使ったカメラはM4なので、露出は外部で決めていてレンズを通した光量ではないので、古いレンズだと実質的な光量の差が出てくる。色合いはヘキサノンの方が少し暖色寄りでマゼンタが強めに感じる。ズミクロンはわずかに黄色寄りのように思う。解像については、ズミクロンは絞り開放では少しぽわんとした感じがあり、F2.8以降にしっかりしてくる。対し、ヘキサノンは絞り開放からコントラストが感じられる。
撮影例
以下、ズミクロン・ヘキサノンの順に同じ場所での撮影結果を載せる。スキャン条件は、ガンマは同じにしているものの、高輝度側はズミクロンの設定に合わせると明らかにヘキサノンが明るくなるので、不自然にならない程度に調整している。色味は調整せず、また、後処理でのコントラスト調整などはしていない。
撮影は、三脚を使って固定をしていないので、手持ちでレンズを交換し、絞り・シャッター速度を変えながら撮っているから、構図はずれている。
共通条件はカメラ:ライカM4、フィルム:コダックE100である。
●絞り F8/ 晴天順光
双方、絞れば周辺まで均一に写る。ヘキサノンの方は少しマゼンタ寄りとなり、緑色の壁が薄目になり、ブロック塀やアスファルトがうっすらマゼンタ色になる。
●絞り F2/ ボケ味比較
ズミクロンの方が二線ボケに近い感じがある。また、日陰部分の光量が落ちやすい。
「ハラダ写真公社」はこの撮影当時「原田写真工房」という名前になっていて、よくプリント依頼をしていたお店。
●絞りF2/ 暗い場面
一見して、ヘキサノンの方が暗部でもつぶれずに残っているのがわかる。ネオン部分のコントラストや解像も良い。
●絞りF2/ 周辺光量、解像とコントラスト比較
ズミクロンは四隅の光量落ち込みが目立つ。また、細かい造形は写っているがその周りにもやっとしたものが少しまとわりついた感じになる。ヘキサノンはその点、新しいレンズであり上手くまとまっている。
おわりに
非常にどうでもいい比較試写を並べてしまい恐縮である。こうして比較しておいて、よく写ると評価したレンズを先に手放してしまったのは我ながらおかしいけど、ズミクロンの外形のまとまりや、距離環の無限遠ロックの止まり方など、写りとは関係ないところもやはり気になるのがこうしたレンズ趣味の一面でもあると思うのだ。
ということで、結論は「好きなレンズを使おう」となるのであった。