カメラの話を徒然に(2)
アグファのカメラ (2)
前回に引き続き、自分の持っているアグファのカメラについてのポスト。あと4機種あるのだが、そのうち、カラートは書くことが少ないからスーパーゾリネッテと一緒にしようかどうか、などといろいろ悩んでいる過程もまた面白いものだ。カラートの書くところがなぜ少ないか、はその稿でも書くが、まあシンプルに言ってしまえば、壊れてしまったからである。50年以上も昔のものだから、そういうこともある、と覚悟が要る趣味でもある。
前回書き忘れたネタを
さて、今回の機種、に移る前に前回書こうと思いつつ抜けてしまったことを一つ。カメラやレンズの「読み方」いや「呼び方」と言うべきか。よくある「日本人がLeicaを発音するとRaikaに聴こえる」というようなものだが、別に自分たちの発音を卑下するつもりはなく、いろいろあるよね、という程度の話。
プロフィールにも書いた通り、旅行も趣味の一つであるので、旅行先での撮影をしつつ、現地のカメラ店を見て回ることも楽しんでいる。今まで一番長く旅行したのは09年4-5月のヨーロッパ24日間で、ノルウェーの北端などの人口希薄地以外では街を歩けばどこかでショーウィンドーを覗き、店主に話しかけていた。そう、つまり前回・今回のカメラ、アグファである。
私:アグファのカメラを探しているのですが。
店:ん?ああ、アークファのことか。無いよ。
はあ..一応教養で2年間ドイツ語取ってたし、その後もクラシック音楽を演奏する趣味を続けているのにドイツでアグファと言ってしまった..恥ずかしい。最初の母音は長くなる。子音の前のgは濁らない。それだけのことなのに。そして、各地でほとんどそのカメラは見られなかった。二重にショックだったが、ネットで普段検索していたら、その検索結果の数からして、物がないのはだいたい予想はしていた。まあ世の中、ショーケースで同じ面積占めるなら利益率優先ですよね。ヴィーン(ウィーンじゃないよ!)のライカショップのような大規模な店ならそれなりに広範囲な品揃えではあったが。
と、こういう風に、日本人の発音は強い発音で丁寧に訂正してくれるのだ。これ、96年にNYに行ったときにも経験していて、ショーケースのズマロンSummaron(ライカの35mmレンズ)を見せて下さい、と言ったら、これはスッメロンって言うんだよ、と訂正してくれた。いやすごくアメリカンだな。これはこれで良い経験であった。まてよ、そうするとアメリカでAGFAはエイグファなのだろうか?と、ASUSの発音問題めいて混乱しそうなのでこの話はそろそろやめておこう。
アンビ・ジレッテ(Ambi Silette)
今回のカメラはこれである。レンズ交換式レンズ(リーフ)シャッター距離計連動カメラ、である。カメラはこんな外観だ。これだと、どこにファインダーがあるのか、ということになるが。使用時は2枚目の写真のようになる。
つまり、ファインダー部分を保護するフラップのような蓋を横に少しスライドすると、バネの力で跳ね上がる仕組みになっている。この仕組みのお陰もあってか、ファインダー部分に大きなダメージが入った個体は見たことがないが、なにせライカなどに比べるとマイナーな分野なので、そのサンプリング数が少ないのは認める。一方でこの蓋は柔らかく、たいてい盛大にこすれてAMBI SILETTEの文字が消えてしまうくらいのものも見かけるから、やっぱり蓋がある方がいいのではないかとも思えるのだ。たぶん、カメラを手入れする布で全体をゴシゴシする方がいらっしゃった、ということなのかと。
レンズ交換式レンズシャッターカメラの隆盛
このカメラは1956年に発売された。脱線して申し訳ないが、この50年代後半は実はレンズ交換式レンズシャッター機が多数出てきた頃で、アメリカではアーガス C44、ドイツ系ではキング レグラのIII型、ブラウン スーパーカラレッテIIやパクセッテII、日本からはミノルタ スーパーAが56年に、1年空いて58年にはアイレス 35-V、オリンパス エース、ミノルタ A2と日本勢も一気に増え、ドイツでは何を血迷った(褒め言葉)のか一眼レフのレチナレフレックス(この翌年出る)用レンズを活用したレチナIIISが出て、ブラウンはパクセッテIIのファインダー改良版のIILやIIBLを出すなど、レンズ交換式レンズシャッター機全盛とも思える様相を呈している。ついでに、こういうとき思い出すのは「フォクトレンダーはどこ?」ということだが、なんと50年にプロミネントIを出している。早い。他にも、今となってはマイナーだろうがフツーラも50年に初代が出ているそうである。
レンズ交換式カメラの歴史でよくターニングポイントとされるのは54年のライカM3である。プロミネントだと、これに対抗して58年にファインダーを大型化したII型を投入するも時すでに遅し、的な説明があるが、こうして見ると、おそらく、ライカと競合しない価格帯は58年時点でも活況だったのかとも思える。ただし、それらのカメラも60年代以降は一眼レフの普及に飲み込まれて行くのであるが。
それはさておき、そんな「立ち位置」からも、レンズシャッター式のレンズ交換カメラはよく「プアマンズライカ」とも表現される。今日のカメラもそう呼ばれることは多い。
アンビジレッテ
に話を戻そう。
上の写真のカメラはII型と通称されている。カメラにはII型であるとは書いていないが、前のモデルと変わっているところが外見上もすぐにわかる。つまり、
ストラップでカメラを吊るせるようになった(I型ではケースが要る)
巻き上げレバーの形が改良された
ファインダー機構を変えた
という3点である。順にコメントして行くと、1点目はそのままの内容で、皮ケースを使ってぶら下げる方式から、II型では皮ケースなしでもストラップをつけられるようになった。これは、今となってはケースが劣化して使えないという場合にはありがたく、自分もこのためにII型を探していたくらいである。ただし、右側のストラップ環が巻き上げレバーに干渉して操作性が悪い。ここらへんは後付けの設計であることを感じさせる。
2点目は、スーパージレッテでも使いにくかったものだ。レバーがカメラ背面とぴったり合った状態で格納されるので、巻き上げのためにこれを引っ張り出すのが少しやりにくい、ということを解消しようとしたものである。II型ではレバーの先端がカメラボディからわずかに出っ張るようになり、その先端部のギザギザ部に親指を掛けて巻き上げ動作に入ることが出来るのだ。このギザギザの形状がきついのと、アグファのカメラ固有の、重たい巻き上げ感が相まって、親指の皮がむけそうになるので操作は慎重に..
特に最後のファインダーの変更は大きく、上の写真の通り、II型ではファインダー視野、撮影枠(ブライトフレーム)用の光取り窓、距離計用の丸い窓、の3箇所に分かれているが、これがI型では距離計用の窓の周りに撮影枠の光取り部分があって一体化している。I型を触ったことがないので確かなことは言えないが、他の方のI型の写真を見るに、距離計部分の丸窓が小さいので、距離計像を大きくするためにここを改造したのではないだろうか。また、この距離計部分の変更によって、カメラトップ部にあるブライトフレーム切り替えのスライドの位置関係が次のように変更になっている。I:35-50-90、II:50-35-90で、ここはI型のほうが自然な気もする。
交換レンズ
35-50-90という数字が示す通り、用意されたレンズは3本..かというと4本である。最後の130mmは外付けファインダーを使ってフレーミングする。レンズ銘にはいずれもColorがつき、カラーフィルム時代の幕開け感がある。
1. カラーアンビオン Color-Ambion 35mmF4
非常に薄い広角レンズで、あまりに薄いのでフォーカスや絞り値の設定が難しいくらいである。最短撮影距離は1m。
2. カラーゾリナー Color-Solinar 50mmF2.8
ゾリナー銘は以前のカメラにもあったが、「カラー」がついてF3.5→F2.8になった。最短撮影距離は1m。
3. カラーテリネア Color-Telinear 90mmF4
コンパクトに出来ている中望遠レンズで、嵩張らず、持ち出すときも苦にならない。最短撮影距離は1.8mと遠くなる。
4. カラーテリネア Color-Telinear 130mmF4
外付けファインダーを使ってフレーミングする必要がある。ピントをカメラのファインダーで見て、そこからカメラ上部に着けた外付けファインダーに目を移動させなければならないわけで、ただでさえピントが厳しい望遠レンズでこれは誤差を増やすものであり、特に近距離での撮影が難しい(3mまでしか寄れないが)。もちろん、こうした「お作法」はカメラ内に望遠レンズ用の枠がない機種では従来から当然だったのだが、一眼レフが出現するとファインダー内で全てが解決する上に、レンズのリアルなピントを見るという正確性が望遠でよりはっきりしたことから、レンジファインダー機が衰退していく一因となった。
130mmレンズを含めて全て持っていたが、130mmレンズは90mmに比べても急に巨大になり、外付けファインダーを持ち歩くのも落下リスクがあってほとんど使わないまま売却している。
他の3本は今もよく使っていて、それぞれ極めて鮮鋭で色の良い写真を撮らせてくれる良いレンズだ。カラーの看板に偽り無し。35mmから90mmの3本、それぞれ2枚の写真をアップしておく。
正直に言うと、もっと昔の写真にいろいろ良いものもあったのだが手元にフィルムがない(箱から出す気力がない)ので最近のものを上げた。自webでの写真例は以下に掲載している。
レンズ交換式レンズシャッター式カメラの意義
フォーカルプレーンかレンズ(リーフ)シャッターか。その後、フォーカルプレーンが主流になったことでもう答えは出ているのであるが、それでもその当時レンズシャッターにこだわった理由は何かを考えると..
フィルムの直前に遮光幕が走るフォーカルプレーンは、カメラボディ内に大きな空間が取れるから、レンズ設計に自由度をもたらし、その後の一眼レフの反射ミラーが動くスペースにもなった。
その一方でレンズシャッター、正確にはレンズの中にシャッターがあるわけではなく、レンズマウントの中にリーフシャッターがあるわけだが、この配置だとシャッター機構のドーナツ状のメカの大きさがレンズ後端の直径を制約するし、そこを大きくするとカメラボディが大型化する。距離計連動機だとレンズ側の動きをカメラ側に伝えなければならないが、その連動スペースも制約されてしまう。
しかし、これを超えるメリットがあると考えられていたのだろう。
まずは、フラッシュの、シャッター速度全速同調が可能なことである。レンズ(リーフ)シャッターはそのリーフが一旦全部開き、閉じることで露光時間を決めている。この動作はどのシャッター速度でも実現している。フォーカルプレーンシャッターは遮光幕が2枚、時間差で走っていくことで露光時間を決めているため、あるシャッター速度以上では2枚の幕が作るスリットが走る格好になり、何千分の1秒の瞬間で光るフラッシュではフィルム全体に光が当たらないのだ。これを回避するには、シャッター速度を遅くする(この当時なら1/50秒など)か、スリットが画面を走る間、発光が持続する光源を使わなければならなかった。フィルム感度が低かった当時では大事なことだったのだ。
もう一つは、今でも通用することで、シャッター動作が静かで作動ショックが少ないことだ。レンズ(リーフ)シャッターのリーフは開口部を中心としてそれぞれのリーフが対称に動き、それ自体のモーメントがカメラに伝わることが少ない。フォーカルプレーンでは遮光幕が2枚同じ横方向に動くため、わずかではあるが重量がカメラ内を動き、そして停止する際の衝撃で横ブレの原因になる。ここらへんは、もちろんフォーカルプレーン陣営も当然分かっていて、それぞれ対策をしてライカM型のようなすばらしいシャッターも存在するが、同様にリーフシャッターを突き詰めて、究極的に静かなシャッターに仕上がった例が現代にもある。富士フイルムがかつて出していたGF670である。あれは、耳をカメラにくっつけてようやくシャッター音が聞こえるかどうかというすごいものであった(その割に、巻き上げの時にジジジとラチェット音がしてしまうのにはがっかりしたけれど)。
おわりに
長々と書いてしまった。
フィルムカメラに興味がある、レンズ交換式で単焦点レンズをいろいろ試したい、そんなとき、ライカ、コンタックスだけでなくこれらのレンズシャッター機も選択肢として検討してみてはいかがだろうか。ライカなどのメジャーなマウントは各社からレンズが出ているしメジャーゆえに価格も高くて「沼」はたいへん深い。それに比べたら、各社で世界(つまり規格)が閉じているようなレンズシャッター機の沼は一応その底が見えていると言えるだろう。
え、何社分も持ってたら?..はい、そういう人もまあ、います。そのうち、プロミネントやレチナIIISの話も致します。
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