カメラの話を徒然に(14)
通称 デッケルマウント(3) (フォクトレンダー)
望遠レンズ編
フォクトレンダー社のデッケルマウントレンズの一覧を再掲。
スコパレクス Skoparex 35mmF3.4
スコパゴン Skopagon 40mmF2
ゼプトン Septon 50mmF2
カラースコパー Color-Skopar 50mmF2.8
カラーランター Color-Lanthar 50mmF2.8
ディナレクス Dynarex 90mmF3.4
ディナレクス Dynarex 100mmF4.8
スーパー・ディナレクス Super-Dynarex 135mmF4
スーパー・ディナレクス Super-Dynarex 200mmF4
スーパー・ディナレクス Super-Dynarex 350mmF5.6 *
フォクトレンダー・ズーマー Voigtländer-Zoomar 36-82mmF2.8 *
(*印は所有していないもの)
今回は望遠レンズの紹介である。
カメラを買って交換レンズの2本目といえば、望遠。昔はこれが定番だったのではないだろうか。今や望遠域まで含んだズームレンズがあるからそんなこともなくなってしまったが、私の父もOM-1に55mmF1.2を組み合わせて買い、次に入手したのは135mmF3.5であった。135mmというレンズは引き寄せ効果が本格的に体感できるということと、200mmほどはブレやピント合わせにシビアではない、ということもありバランスがよく、人気があった。それゆえ、中古カメラ店には50mmレンズと135mmレンズがあふれることになったわけだ。
遠くの被写体を大きく撮りたいという要望から、望遠レンズが拡充されるのは必然、それに、広角レンズは技術的に難しく一眼レフ用となると大きく重くなり、価格も高くなりがちで、このシリーズのデッケルマウントの最広角レンズはシュナイダー社のクルタゴン28mm、ついでローデンシュトック社のオイリゴン30mmで、フォクトレンダー社は35mmより広角を出していない。その代わりと言うわけでもないだろうが、フォクトレンダー社は350mmという超望遠領域までをラインナップした。しかしレンズ根元の口径が小さく、マウントもさほど大きくないこの規格で巨大な超望遠レンズは無理があり、最短撮影距離は28m、と小学校の運動会ではとても使えそうもない仕様である..って、たぶんそんなことする人いないか。それに、巨大なレンズの根元でピント合わせをするとなるとカメラを構えるのも大変だったかと思われる。自分は350mmを使ったことはないが、200mmレンズで十分にその不便さを実感している。
ディナレクス100mmF4.8の特異性
フォクトレンダー社のレンズで1本だけ、特異なレンズがある。ディナレクス100mmF4.8である。中望遠レンズの最短撮影距離がディナレクス90mmF3.4で2m、コダック系のシュナイダー社のテレアートン85mmF4が1.8m、90mmF4が1.9mという中で、この100mmレンズだけは【1m】なのである。レンズ後端からの光束がマウント内の筒に蹴られるという説、あれはどうなったのか。
この仕様は、このレンズの元になったものの設計から来ていて、それは距離計連動式レンズ交換カメラのプロミネントのレンズである。以前の稿に書いたが、プロミネントはレンズマウントとシャッター機構全体が前後に動き、50mmレンズのピント合わせを行うやり方であった。これだと焦点距離の異なるレンズのピント合わせはできない。そこで、望遠レンズの設計はレンズの前玉部分が50mm用の移動をすると、100mmレンズのピント合わせに合致するように設計されたのだった。このやり方が、そのままデッケルマウントレンズに活用されたのだ。レンズ構成はほとんど同じである。ただ、マウント口径などの制約からか、開放F値はF4.5→F4.8と少し暗くなっている。
プロミネントではカメラの成り立ちからそういう設計にならざるを得なかったディナレクスが、一眼レフでは後玉を動かさずにフォーカシングをすることを逆手に1mの近接を実現したのは素晴らしいと思うのだが、このF4.8はほとんどF5.6に近く、絞りダイアルを少し触るとすぐに5.6近辺に行ってしまうくらいでやはり商売スペック的には暗すぎたのだろう。ディナレクス90mmF3.4が発売されると100mmF4.8はカタログから落とされている。
(なお、このシリーズ前にヴィテッサTというシリーズ(マウントはデッケルと類似)でディナレット100mmF4.8を出していて、正確にはそちらの方で先に使われている)
各レンズの紹介と撮影例
●ディナレクス Dynarex 90mmF3.4
上記に書いた通り、100mmF4.8を結果的に置き換えることになった中望遠レンズだ。F3.4というF値は確かにアドバンテージ(F4.8に対しても、コダック系のF4に対しても)であり、スクリーン上でのピント合わせがやり易い。
5枚構成のレンズで、全長が短くコンパクトではあるが、F値が明るい分、直径は大きく、シュナイダーのF4中望遠レンズに比べると外見はずいぶん違う。描写はシャープで、色もきれいに出る。
最短撮影距離は2mで、これは使いにくい。技術的に理由はあるにしても、やはり連動距離計機のレンズより最短が遠い一眼レフ用レンズというのは存在意義が問われると思う。せっかく、正確な構図やピント合わせが可能なのに。
●ディナレクス Dynarex 100mmF4.8
上記に書いた通り、特殊な成り立ちから、デッケルマウントの中望遠レンズで最も近接できる(1m)ものになったレンズだ。構成レンズは6枚と、なかなか手が込んでいる。
F4.8ゆえ、少し日が陰ると現代の明るいスクリーンでもピント合わせは難しい。絞り開放での近接撮影時は若干コントラストが低くもやっとした描写だが、解像はきっちりしており、よく写り、ボケもきれいである。
なんだか気に入ってしまったので、撮影例を5枚上げておく。
●スーパー・ディナレクス Super-Dynarex 135mmF4
4枚構成の望遠レンズで、外見は細身である。シュナイダーの135mmF4とはずいぶん雰囲気が異なるが、それもまた楽しい。
自分が持っている個体は少しカビの除去跡があってコーティングがムラになっているところがあるが、順光では非常にくっきりした写真になる。最短撮影距離は4mで、こうなると室内では絶望的で、必然的に遠くを切り取ることになる。
なお、このレンズの撮影例は古くて元ファイルが見当たらなかったので、自webのピクセル数が小さいサイズの写真を流用する。
●スーパー・ディナレクス Super-Dynarex 200mmF4
5枚構成のレンズで、手前側2枚に比べて被写体側のレンズがたいへん大きい。この時代の、特にレンズシャッター式の望遠レンズはこういう傾向があり、前が重くて取り扱いは難しい。特に、レンズ根元の細いヘリコイド部分でピント合わせをするのは姿勢的に不安定であり、やりにくい。
最短撮影距離はなんと8.5mにもなる。ここまで遠いと、絞り開放でも遠くの背景すら形が判別できる。物理的に仕方がないのだが、色んな意味でやはり使いにくい。ピントはシャープである。
おわりに
レンズシャッター一眼レフの宿命とはいえ、望遠レンズの最短撮影距離の遠さは使う上での制約としては大きなものである。それを上回る魅力があるかと言うと、他のマウントのレンズでも良いものはあるしなぁ..とつい思ってしまう。フォクトレンダーのファンとしてはそれではいけないのであろうが、やはり撮影に支障するものは撮影者としてはマイナスに捉えざるを得ないのである。
その点、ディナレクス100mmF4.8は過去の別のカメラの仕組みの解決策として生まれたものとは言え、うまくデッケルマウントにもその工夫が活用出来た稀有な事例としてすごく印象に残るレンズである。いかにもフォクトレンダーらしいというか。90mmF3.4が出たときにラインナップから落とされてしまい、市場に出ている個体数はあまりなく、レアな物件である。興味のある方はぜひ手にしてみてもらいたい。
次回以降、コダック・レチナ系統のレンズの紹介に続く。