カメラの話を徒然に(4)
アグファのカメラ(4・最終)
アグファフレックス(Agfaflex)
手元にあるカメラの話、アグファは4回目で終わりとなる。のだが、最後に残っているのはアグファフレックスというレンズ交換式の一眼レフカメラで、交換レンズの紹介もあるので1回で終わらないかも知れない。レンズ交換式の一眼レフ?それって当たり前では?と思われる方もいらっしゃるかと思うが、いやそれが、一眼レフでもレンズ固定式ってのがあったのだ。アグファに限らず他にもけっこうな種類がある。
今回のアグファフレックスも、I~V型までのうち、IとIIは50mmF2.8レンズが固定された一眼レフである。2世代もそんなのがあったのか?と思ってしまうがこの2機種は世代ではなく、I型が上から見るウェストレベルファインダー、II型がペンタプリズムのアイレベルファインダーのモデルである。しかも、このファインダーはまるごと交換可能で、例えばI型を買った後でアイレベルファインダーを追加で手に入れて取り換えることもできたのだ。レンズは固定なのだが。なお、このシリーズ(I、II型)には販売された地域によってカラーフレックスという銘も存在する。中身は全く同じである。
上記のファインダーの関係は次世代のIIIとIVも同じで、カメラボディはいよいよレンズ交換式になる(この世代の別ブランド名はアンビフレックスである)。V型はセットになったレンズが高級版のF2レンズだったということで、これもボディ自体は同じである。
カメラには何型という刻印はない。自分が入手したモデルは、上記の規則に従えば、IV型(レンズ交換可、アイレベルファインダー、50mmF2.8付き)ということになる。
レンズシャッター一眼レフ
二つ前の投稿で、レンズシャッター式レンズ交換カメラ(距離計連動ファインダー)について書いた。それは1950年代後半に多くあったと。アグファのアンビジレッテも57年に出ているのだが、本稿のアグファフレックスは翌年58年に出ている。その差1年。距離計連動のカメラを各社競って開発していた時、既に一眼レフも本格的な展開が始まっていたのである。
そしてこのアグファフレックスの機構は、レンズ(リーフ)シャッターを使った一眼レフというものである。これは距離計連動機のシャッターの位置(フォーカルプレーンかレンズシャッターか)の関係はそのままに、シャッター機構とレンズの間にファインダーの投影像を得るための反射ミラーが置かれているというものだ。
フォーカルプレーン機ではフィルムのすぐ近くに幕があって遮光しているから、その状態でレンズからの像をミラーを使ってスクリーンに投影してピントを確認し構図を決めれば良い。しかし、レンズシャッターだとフィルム面から離れた場所にシャッターがある。このシャッターの後方にミラーを置いても、遮光中だから真っ暗である。とするとファインダーでピントを見たり構図を決める間はシャッターを開けなければならない。まずこの時点で、フォーカルプレーン機より機構がややこしいのが予想できよう。さらに、レンジファインダー機時代ではレンズが暗くてもファインダーは別だったから何も問題はなかったのだが、一眼レフとなったら撮影レンズの像をスクリーンに映してそれを見るのだから、レンズが暗いと使いにくい。見るときは絞り開放にして、撮るときに所定まで絞りたい。
これらのことを解決するために、レンズシャッターの一眼レフは、以下のような過程が必要だ。
ファインダーで像を見る間:シャッターが開き、レンズは絞り開放
シャッターリリース開始:シャッターを一旦閉じる
ミラーを上げる、絞りを設定した値まで動かす
撮影条件の時間通りシャッターを開けて閉じる:露光完了
絞りを動かすタイミングは上記の過程ではないかも知れない。いずれにしてもシャッターリリースボタンを押し下げてから、カメラ内でメカが動く手順が複雑である。しかも、上記の終了状態ではミラーは上がっていてシャッターは閉じているから、次の撮影のためにミラーを降ろし、シャッターと絞りを開けなければならない。そう、この当時の一眼レフは、撮った後はファインダー像が暗転したままだった。次のコマに巻き上げるときに、ファインダー像が戻る。
このファインダー像が暗転したままというのはフォーカルプレーン機でも同様であったが、48年発売のハンガリーのドゥフレックスで初めて、露光動作の最後に自動でミラーが戻るクイックリターン(インスタントリターン)ミラーが実現する。ただしこの機種は当時の「東側」にあったのと、生産が非常に少なかったことから世界的に知られるのはかなり後になり、本格的な普及は54年のアサヒフレックスIIB型以降になる。一方、レンズシャッター機でのクイックリターンは61年のフォクトレンダー ウルトラマティックまで待たねばならない。しかし、ただでさえ複雑な動作をしているレンズシャッター一眼レフで、さらにミラー復帰までの動作を機械連動で行うのは非常に困難を伴い、さしものフォクトレンダー社も1機種だけでこれを断念して、次モデルのウルトラマティックCSでは暗転したままの機構に戻している。何しろ、シャッター速度優先の自動露出まで組み込んでいたから、大変だっただろうことは何となく想像できる。
改めて、アグファフレックス
上の写真が、初期に持っていたアグファフレックスの組み合わせだ。レンズの大きさは46mm径枠であり、一眼レフのレンズとしては普通かやや小さめの大きさであるが、それと比較してマウントの下の、ボディから一段高くなっている部分が広い。レンズ上部の黒い窓のようなものはセレン露出計で、絞り値とシャッター速度が連動しトップカバー部、ファインダーの右側にある針を中央に揃えることで適正露出を決める(レンズ固定のI、II型では連動しない)。カメラは肩が高いデザインで、巻き上げレバーは高いトップカバーとボディ部の境目に埋め込まれたような形になっている。レンズの大きさに対してボディは大きく重く、ストラップ環がないので持ち歩きには専用の皮ケースが必須だ。この写真には写っていないが、ケース付きで購入したものの、ストラップはボロボロでもはやこのカメラを吊り下げるには耐えられない状態だったので、ナイロン製のストラップをケースの吊り環に通して使っている。
ボディの使用感であるが、背が高くカメラバッグへの収まりは悪い。持った感じ、横方向は予想より小さく、マウント基部の、ボディから一段高い部分が左右に広がっているのが邪魔に感じる。
シャッター速度はB、1秒~1/125秒と1/300秒という配列で、今の時代からすると最高速がこれでは物足りない。晴れていたら軒並みF11くらいまで絞らねばならず、どのレンズでも無難に写る領域だ。この仕様は、シャッター部分を供給した専門メーカーのもので、このカメラの場合、プロンター・レフレックスというレンズシャッター一眼レフ用のシャッターシステムが使われている。シャッター速度はプロンターのもので、その配列が上記になる。一方、同時期にもう一つのシャッターメーカー、デッケル社がコンパーシャッターを使った(通称)デッケルマウントを開発しており、その結果59年にフォクトレンダー社やドイツコダック社からレンズシャッター一眼レフの機種が現れることになり、こちらは1/500秒まであった。このような、採用した部品ユニットの仕様に縛られる例はよくあって、前に書いたレンジファインダーのレンズシャッター式レンズ交換カメラにおいても、アンビジレッテやレチナ IIISがコンパー(1/500秒まで)、キング レグラやブラウン パクセッテIIIがプロンター(1/300秒まで)を採用している。
そういう意味では、アンビジレッテでコンパーだったのにフレックスではプロンターになったのはちょっと残念な気もするが、いまそれを言っても仕方がない。
話を戻そう。
シャッターリリース時の挙動は、意外に静かで、内部でミラーが動き、絞ってシャッターを動かして、という一連の動作は外ではあまり感じず、ショックは低く抑えられている。このため、1/15秒くらいでも手持ちで安定して撮影できる。シャッターの動作開始が一瞬遅れて感じられるのは、機構のプロセス上やむを得ない。
ファインダーは、全体に空中像寄りでボケはあまり見られず、ピントは中央のスプリットイメージで合わせるやり方だ。ファインダースクリーンの在り方は長い間、各社で試行錯誤が繰り返され今に至るが、当時はやはり、レンジファインダーのファインダーのイメージが残っていたのかな。
巻き上げは、内部のいろんなメカを動かす都合上、それなりに重たいし均一な巻き上げ感はないが、これはすぐに慣れる。巻き上げレバーは指になじむ形なので、苦にはならない。
アグファフレックスのレンズ
シリーズとして、35/50/55/90/135/180mmの6本の交換レンズが用意された。135mmまでのレンズはフィルター枠が46mmで統一されていて(180mmは62mm)、フードやフィルターは今のものを使うことができる。オリジナルのアクセサリーは残念ながらほとんど市場になさそうだ。こういうのは、フードやフィルター単体で高値が付くライツ製品などはともかく、大衆機メーカーは厳しい。
一眼レフであるから、ファインダーを付け替えせずにどのレンズもその画角で見られるというのが最大のメリットであり、特に望遠レンズは距離計連動機では極小の枠内でフレーミングしなければならないところ、一眼レフなら視野いっぱいに拡大像が映されるのだから構図もピントも正確に追い込める。ただ、この機種のファインダーの視野率はさほど大きくないようで、撮った時とフィルムを見たときの撮影範囲は少し違い、フィルムには一回り広い範囲が写っている。レンズシャッター一眼レフはレンズからフィルムまでの配置の自由度が小さく、可動域が狭いゆえミラーも小さいから、高い視野率は難しかったのかと思われる。
それぞれのレンズを紹介しよう。なお、90mm以上のものは、このカメラの後継機種、セレクタフレックス(自動露出機)の世代のものだ。これらはアグファフレックスでも制約なく使えるが、逆にアグファフレックス世代のレンズはセレクタフレックスでは使えないので要注意である、といっても、セレクタフレックス自体が極レアで、ほとんど困ることはないと思う。
●カラーアンビオン(Color-Ambion) 35mmF3.4
シリーズ中唯一の広角レンズだ。5群5枚のレトロフォーカス型で、前玉が出っ張っているので保護フィルターかフードは付けておく方が良い。最短撮影距離は1mで、距離計連動機と同じだ。レンズシャッター機はマウント部にレンズシャッターの機構が入っていてレンズ後端がマウントに入る場所が筒状になっているから、レンズを繰り出すとレンズ後端の光束がマウント内で蹴られる恐れがある。ゆえにレンズを前に出しにくく、最短撮影距離が遠目になると言われている。
描写はクリアではっきりとした色が出て気持ちが良い。アグファのレンズはシャープでくっきりしているが、一眼レフの広角でもそれは健在だ。
●カラーゾリナー(Color-Solinar) 50mmF2.8
通常、カメラとセットになっている標準レンズ。アンビジレッテと同じ設計かと思われる。3群4枚のテッサー型で、非常にシャープな像を結ぶ。このレンズはシリーズ中最も寄れて、最短撮影距離80cm。鏡胴の奥まった位置にあり、フードは要らないと思われる。
●カラーゾラゴン(Color-Solagon) 55mmF2
このレンズを使うためにシステムを揃えたと言っても良い。新宿のある店で、少々状態が悪いレンズとして破格の値段で売られていたので、これを買い、ついでにゾリナー50mmつきボディも買ったというわけだ。4群6枚のガウス型で、シャープなピントと滑らかなボケを楽しめる。自分の個体は、後群のコーティングにムラがある(おそらくカビを取った)のと、絞りのバネが弱く撮影した瞬間に即座に絞りが所定位置まで動かない(少し開いた位置で露光される)のが問題で安かったのだが、コーティングは写りへの影響はあまりなく(フードをつけて逆光乱反射対策)、絞りは何回か使っているうちに何とか動くようになってきた。一度、専門店に修理依頼したが、部品が固着していて分解不能ということで戻ってきてしまい、仕方なくそのままで使っている。最短撮影距離は1mである。
●カラーテリネア(Color-Telinear) 90mmF3.4
小さくまとまった中望遠レンズ。4群5枚構成で、中には分厚いレンズがあり、実際、小さいのにずっしりとしたレンズである。シャープでよく写るが、逆光には弱く、紫色の派手なゴーストが出る。一眼レフであるから、ファインダーを見ながら左手でゴーストを最小限にしながら撮ることもできるが、なにしろカメラもレンズも重くて右手だけのホールドがきついので、フードを用意して対応することにした。最短撮影距離は1.2mで、距離計連動機の90mmレンズがたいてい1mまでであることを考えるとちょっと悔しい。
●カラーテリネア(Color-Telinear) 135mmF4
細身の望遠レンズ。4群5枚構成で、一番後ろに分厚いレンズがあるという変わった設計だ。最短撮影距離は2.5mと、90mmに比べてさらに遠くなってしまうが、後日紹介することになると思うデッケルマウントの135mmレンズはこれが4mくらいなので、それに比べれば相当頑張っていると思うことにした。ピントはシャープでよく写るが、90mm同様に逆光には弱いので、フードは必要だ。マイナーなマウントの、さらにマイナーな焦点距離とあって市場ではなかなか見かけないが、レアでも値段が上がらないというのが寂しいというか、まあ存在自体が知られていないのだろう。
●カラーテリネア(Color-Telinear) 180mmF4.5
シリーズ最長の焦点距離、本格的な望遠レンズだ。このレンズは、古いカメラ趣味を始めて30年、全く実物を見たことがなかった。ふとしたことでeBayで見つけ、入手した。
この頃のレンズシャッター一眼レフの望遠レンズは、小さいマウントから大きな前玉ということで円錐状に大きくなる外観が特徴である。このレンズも根元が細い分大げさな感じに見えるが、手に取ってみると長さは11cmくらいでさほど巨大でもない。フィルター枠はこのレンズだけ62mmである。三脚座がついているが、取り外しやレボルビングはできない。
最短撮影距離は5mで、かなり遠く、室内で使うには向かない。描写はきっちりしていて、遠くを切り取ったり圧縮した風景にするのに使っているが、アグファフレックス自体が重くて、遠出では未だ使っていない。
おわりに
これでアグファのシリーズは終了である。アグファフレックスも、レンズは6種類しかないので1日分で終わった。しかし、デッケルマウントやM42、ライカなどはマウントごとにレンズを説明するのは無理なので、今後は記事の書き方を考え直したい。おそらく、シリーズものにしやすい機種はそうして、それ以外はレンズ1本ごとに短い記事を書くか、カメラの話だけでなく、散歩や旅行したときの風景のついでに、レンズやカメラのことを書く方が良さそうだ。
ともあれ、最初のシリーズ、お付き合いいただきありがとうございました。
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