保険会社の利益の3大源泉(シリビ)
死差益、利差益、費差益は、保険会社における主な利益の源泉である「三利源」と呼ばれる。
死(シ)差益について
死差益とは、最初に保険を設計したときに予想していた水準より、人々が多く亡くなったり、あるいは少なく亡くなったりすることで生じる損益をいう。
死亡保険金だけを考えがちだが、がんや疾病による入院費や手術費など、保険金として支払われるすべての費用が死差益に含まれる。
実損保険(いわゆる実費補償の保険)がこのような死差損を被っている。
保険会社は死亡率を予測する「予定死亡率」という表を持っており、年齢別の死亡確率を分割して表にしている。
保険は、保険料を1回だけ払って亡くなろうが、30年払い続けて亡くなろうが、受け取る死亡保険金は同じである。
1回しか保険料を払っていない人と30年間払い続けた人が受け取る金額が同じというのは不合理に見えるが、保険とは本来そういうものだ。
多くの人々から少額の保険料を集め、その中の1人に保険事故が発生したときに多額の保険金を保障するのが保険という商品である。
人々はますます長生きするようになり、かつて人々が早期に亡くなっていた時代に作られた予定死亡率より、実際の死亡率が低くなっている。
このような場合、保険の種類によって損益が変わってくる。
保険の種類は大きく死亡保険と生存保険に分けられる。
死亡保険は、死亡または病気・ケガをしたときに保険金を受け取る保険であり、生存保険は生存している間に保険金を受け取る保険を指す。
人々の死亡数が予想より少なければ、保険料をより長く払い続けることになり、保険会社にとって死亡保険の収益率が向上する。
生存保険はその逆で、国民年金のような年金保険が該当する。
年金保険は、生存している限り毎月または毎年保険金が支払われるため、長生きすればするほど保険会社にとっては損失が大きくなる。
国民年金問題を一気に解決する方策として、戦争や危険な感染症の大流行などが挙げられるのはこうした理由による。
保険会社の保険構造を分析し、死亡保険と生存保険の比率を確認する必要がある。
人々がますます長寿になる状況では、生存保険の比率が高い会社よりも、死亡保険の比率が高い会社のほうが死差益で有利になるだろう。
国内の損保会社の場合、事故による予想外の請求が死差益(あるいは死差損)を左右する。
過去の神戸や東日本大震災でも、損害保険会社は莫大な規模の財産被害補償金を支払った。
再保険や政府の負担があったにもかかわらず、特定の損保会社(特に東京海上、三井住友海上、損保ジャパンなど)の財務諸表に大きな負担として表れている。
予想外の保険金請求の事例として、イギリスの「Whiplash(軽度の首の負傷)請求」がある。
自動車事故後に「首の痛み」を保険金として請求できるようになった結果、事故の軽重にかかわらず誇張された「被害」として請求が急増したケースである。
損保会社は「軽傷補償」の予測をはるかに上回る請求を受け、自動車保険の損害率が大幅に悪化した。
このように、最初の保険設計時に予測していた保険金よりはるかに多い保険金が実際に支払われると、死差損が生じる。
利(リ)差益について
保険会社の第二の収益源は利差益である。
ウォーレン・バフェットが米国の保険会社アレガニーを116億ドルで買収した際、「フロート」を利用した投資について言及した。
彼は株主への手紙などを通じて、何度も「フロート」を活用した投資こそバークシャーの成長の核心であると述べてきた。
フロートとは、保険料を納める時点と保険金を請求する時点の間に、保険会社が一時的に保有する資金のことをいう。
日本ではこれを責任準備金と呼び、保険会社はこの資金で国債を買い、株式や不動産に投資して増やしている。
保険会社は、保険契約者に対して「保障利率」という最低限の利回りを提供しなければならない。
低金利時代、保険会社はこの保障利率を満たす資産運用手段を見つけるのが難しく、損失に苦しむことになる。
これを利差損が生じたと呼ぶ。
金利が上昇すれば、過去の低金利期に契約された低い保障利率の保険を容易にカバーすることができるため、ここで利差益が発生する。
低金利期には利差損が、そして高金利期には利差益が発生する仕組みだ。
また、金利が上がった場合、保険会社が保有する債券で評価損が生じることはあるが、それでも利差益で評価損をカバーできるケースが多い。
費(ヒ)差益について
最後は費差益である。費差益とは、予定事業費に比べて実際にかかった事業費が少なかったり多かったりしたときに生じる損益のことをいう。
保険会社は「人と紙のビジネス」と呼ばれることがある。
つまり、人と書類によって成り立つ事業という意味であり、人件費が保険会社の費用に大きく関わっている。
ここでいう人件費とは、一般的な企業の従業員に支払われる人件費ではなく、保険の営業組織を維持するための費用を指す。
保険の種類にもよるが、1件契約が成立すると、通常は数か月分の保険料が手当として営業職に支払われる。
保険を解約したとき、思ったほど返戻金が少ないのは、すでに1年分近い保険料相当のコストが初期に手当などとして支出されてしまっているからだ。
「一体どこのお金で?」と考えれば、保険会社のコスト構造の本質が見えてくる。
単純に手当(報酬)だけが保険会社の費用ではない。
保険営業職は、長く続けるのが非常に難しい。
最初の数か月ほどは自分の縁故関係に保険を勧められるが、6か月ほど経つとその縁故が尽き、未知の人々へ営業をかけなければならない段階になる。
これを縁故営業と開拓営業に分けて呼ぶ。
開拓営業になると、ゲームでいうところの難易度が一気に上がるようなものだ。
結果として、大半の営業職は1年も耐えられずに辞めていき、保険会社はまた新たに人を採用し、組織を維持することになる。
新たに営業職を採用し、教育するプロセスを保険会社は新規契約以上にこれを重要視している。
重要であるがゆえに多くの予算が投下され、保険会社は営業組織を維持するための事業費として相当の費用を支出することになる。
保険は、加入後数年、場合によっては10年後まで、毎月の保険料のx.xx%を事業費として差し引く。
こうした仕組みのため、加入して数年後や解約時に十分な返戻金を受け取れないケースが多い。
保険会社の評価ポイント
まとめると、保険会社を評価するときは死差益、利差益、費差益を見るのが基本だ。
死亡保険と生存保険の比率がどうなっているかを見て死差益の構造を確認し、
保険の保障利率と債券・不動産・株式などの資産運用収益率を比較して利差益の構造を把握し、
最後に費用構造(費差益)を見なければ、保険会社の評価はできない。
保険会社の財務諸表も、このような視点で見る必要がある。
日本の4大損保と今後の展開
日本の4大損保は、東京海上、三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保、損保ジャパンである。
今後1~2年の間に、これらの会社には2つの大きな変化が予想される。
1つ目は、これらが金利上昇の恩恵を受ける銘柄だということだ。
日本銀行が耐えきれずに金利を上げれば、これらの利差益が伸びる可能性が高い。
最低保障利率の負担から解放される恩恵は大きい。
2つ目は、4社が2024年から3年間にわたり、政策保有株を全量売却するという業務改善計画を提出した点にある。
政策保有株とは、投資目的ではなく、顧客や取引先との関係を維持するために長期保有する株式を指す。
日本の4大損保はこのような政策保有株を合計で6兆5,000億円も保有している。
日本での政策保有株は、企業同士で株式を相互保有し合い、お互いの経営権を防衛する一種の企業文化だ。
しかし市場では、こうした企業同士の相互保有によって株主としての監視や監督がおろそかになり、企業価値向上に取り組まないといった問題があるとみられている。
日本の金融庁は、政策保有株を企業の経営能力を阻害するカルテル行為と判断し、保有比率が高い企業に改善命令を出した。
2024年2月、日本の金融庁は政策保有株の保有比率が相対的に高い4大損保に対して、政策保有株を全量売却するよう指示したのである。
4大損保は今後数年かけて段階的に売却すると、5月末に金融庁へ提出する定期報告書で回答した。
これらの株式は再評価を行っていないものが多いようで、売却時にはかなりの評価益が見込まれる。
その評価益は配当原資などに回される可能性が高い。
4大損保が保有する政策保有株を多い順に見ると、トヨタ自動車、信越化学工業、ホンダ、スズキ、三菱商事の順であり、これらの株式が今後数年にわたって市場に継続的に放出されることになる。
逆の見方をすれば、これらの株式の売却により、市場に売りとして出てくる量が増え、供給超過の影響もあり得るということだ。
日本の金利引き上げと政策保有株の売却が予想どおりに進むのであれば、2~3年ほどは保有する価値がある銘柄となり得るため、個別企業を一つひとつ検証する必要がある。
桜の開花を待つ。
しかし桜はあっという間に散る花であり、花が咲き始めたら、次を準備し始めなければならない。