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研究で判明した有効な子育て

子育ての前提として、

”まずどのような大人に育って欲しいのか”

という問いに答える必要がある。
例えば、①偏差値の高い大学に入ってほしい
    ②起業して、社会を変えるような人材になってほしい
    ③自由に自分の思うように人生を生きて欲しい
などいろいろあると思う。
まずは、その焦点を絞るのが中心であり、そこから逆算して子育て組み立てることが重要になる。多くの人は、受験科目の学習をどうさせるかというところに力をいれるが、残念ながら小中高校で学ぶ数学や物理学、記憶が必要とする科目などは遺伝学的要素が大きいことが認められている。
(もちろん、学習する時間にも依存する)
ここでは、子育てや環境で伸ばすことができる要素(感情コントロール力、認知力など)を中心に述べたいと思う。

1.自己決定権を育む

独裁的、消極的、民主的の教育法で最も成功した教育法は民主的教育法であった。

民主的教育法は
”親が子供の考えや感情を理解しようと努め、子供の感情の制御を教える。
 子供中心のアプローチ。
 このタイプの親は寛大で、子供が自分で決定をすることを認める。
 そして、子供のために明確な基準を定め、一貫性のある制限を設ける”
          カリフォルニア大学バークレー校 ダイアナ・バウムリンド

子供に誤った決断をしてほしくないと誰もが考える。
ただ、子供がその誤った判断をして、自分がその判断が誤りであると考えて修正すれば、それは成長が期待できる。
そのためには、親が子供に一方的に考えを押し付けるのではなく、子供に意思決定の機会を与え、それにコンサルトするぐらいが親のいい役割ではないかと思う。

それは研修医にも常に言っていることだが、単なる伝言ゲームのように
「どうしたらいいですか?」
と聞くのではなく、「私は〇〇がいいと思います」という提案型にしてもらうようにはじめは言う。単純にこちらの意見を聞いて、それをこなすのはworkではなく、jobだからだ。

子供にさせてあげる簡単な意思決定は日常でもあふれている。
・自分の服を選ぶ
・どこに遊びに行くか選ばせる
・部屋の模様替え
・料理の方法
など、環境をコントロールする小さな経験を積ませることが子供の成長につながる。自己で物事を考えて、自己で決定し、その決定に責任をとるということを積み重ねることは重要である。
失敗してもいい。
いや、失敗をたくさんして、いろんなことにチャレンジしてほしい。
だから、そのような機会をたくさん与えることが本当の教育だと思う。
(これは自分の子供だけでなく、学生、研修医、専攻医にもいえる。
大きな失敗で人に危害が加わらないように見守るのは必要だが、失敗から立ち直るときに大きな成長が期待できる)

私は大学で医学生の教育を担当していて、自己決定権と自立性がないために留年を繰り返す学生を何度も目にしてきた。(医学部は留年することは珍しくない)
それらの学生に共通点があり、
自分で遊びを制限し、勉強時間を確保するという自立性がない
のだ。
よく考えてみれば、大半の大学生は高校までは親元で暮らし、三食+洗濯がつき、親の監視のもとで日常生活をおくっていた。(朝になると親が子供を起こす)
医学部に限らず、大学で進級するためには、目先の成果(テストの点数)よりも自分の人生において責任をもつことを教えることのほうが重要と思えるぐらいだ。
より具体的にいうと、ひとりで寝起きして、自分の生活パターンを維持し、ゲームやインターネット、飲酒などの自己制御ができるか。それが大学からの成績に非常に関係している。

2.不公平に耐える精神的強さ

私はこれまで受験→学校を繰り返していき、医師国家試験に合格してから医師として働いている。子育ては、受験に勝てるためにどうするのかを中心に考えられる。
(未だに一流大学/企業に入れば、勝ち組・人生は安定と考える人が多いことに驚かされる。そんな時代ではなく、常に走り続け、自己成長が必要な時代である)
学校で受験勉強をしているときは、すべての科目で最高を目標にしていたかもしれないが、現実的にはそれは不可能だ。
科目ごとの才能の違いもある。その中で、得意な科目を伸ばし、それにあった受験大学を選ぶという方法もある。
(成長とは、あきらめどきを知り、何をやめるかを選択するともいえる)
これまでの過程(受験/日常生活)で最も大切なこと、
そして働きだしてからも重要なことは、

”不公平/不公正に耐える精神的強さ”

を育成することだと考えるようになった。

人は平等だと学校では教わるが、それはきれい事にすぎないし、現実は不公平である。努力は大切だが、遺伝的・才能がないと輝けない分野はある。
いくら頑張ってもウサイン・ボルトのように速く走ることはできないし、いくら学習してもアインシュタインのように科学的発明ができるわけがない。
同じように勉強しても、100点をとる人もいれば、50点しかとれない人もいる。
これが現実であり、それを受け入れたなかで自己分析を行い、自分の強みを理解し、それを伸ばすことが人生において重要になってくる。
そのために、世の中は不公平であり、その不公平に対して耐える精神的強さが必要になってくる。
世の中にあふれている ”やればできる!” というのは間違っている。
なんでもできるという捉え方は、頑張ってもできない場合はその人に責任があるように捉えてしまいがちだ。世の中は不公平であり、やればできる人もいれば、やってもできない人もいるのが現実である。
だから、”やれば伸びる” と、そして、伸びてもできないことはある と現実を受け入れる必要がでてくる。そのときに、世の中は不公平と受け入れられる精神的強さが必要になってくる。

「マーカス、体はほとんどどんなことにでも耐えられる。 
訓練が必要なのは精神のほうだ。あいつが試されたのは精神的強さだった。
お前はあのような不公正に耐えられるか?
ああいった不当さやあれほどまでの痛手と心の折り合いがつけられるか?
それでもなお歯を食いしばり、変わらぬ固い決意で、決してやめないと神に誓いながら戻って来られるか?それこそがおれたちが求めているものなんだ」
            アフガン、たった一人の生還 マーカス・ラトレル 著

私は現在、大学病院の医局に所属している。
そこでは不公平と思われる状況に多く遭遇する。
そして、この医局に所属して、医師として働くことで重要なことは本当に”不公平に耐える精神的強さ”と自信をもって言うことができる。

私は不条理なときに遭遇したときに、
”医学部に入学するための学費を稼ぐために軍隊に入隊したが戦場で亡くなり、ワシントンのアーリントン国立墓地に埋葬された”
話を思い出している。
この世の中には、救命するための資格を得るための学費を稼ぐために軍隊に行き、
結局、その思いが叶えられなかった人もいることを知ったときは衝撃だったし、なにも考えていなかった自身を恥じた。
それからは、仕事や職場で起こる不公平なんて本当にちっぽけだと思えるようになった。

3.行動とポジティブ思考

教育で大切なことは、
”どう教えるか、何を教えるかではなく、
 学ぶこと・その知識の活用することの楽しさを身につけてもらう”

と考えている。

一人で勝手に学んで、自立する まで教育する側は責任をもち、
それまで粘り強く関わることが教育者の責務だろう。
私は、医学部生・臨床研修医に対して私の専門的分野の知識を与えるのではなく、消化器内科の面白さ、やり甲斐を伝え、消化器内科を好きになってくれたら、
それが教育者として最も高い価値を与えたといえる。
そうなってくれた学生、研修医は”興味”による”自主学習”を勝手にしてくれ、それが最強のインプットになるからだ。

学習効率が一番高いのは10-20代であり、現在の働き方改革で「ゆっくり育てる」「9時ー17時」「無理をさせない」で仕事をさせていたら、その後の30代以降では逆転不能になってしまう。
そうならないように、私はできるだけハードワークも嫌がらないような体質にしていくことも教育の一環であり、私自身がハードワーカーであり続けたいと考えている。

誰もが勉強・仕事が大切ということはわかっている。
そのわかりきっていることをいくら口で言ったとしても、響かない。
勉強や仕事が大切とわかりきっているが、そのなかでもついつい他のことをしてしまうジレンマに苦しんでいる。
そして、その苦しみがつらいのであり、それに向き合うことがお互いの理解に欠かせない。
”人は自ら学び、その手助けをするのが親や教師の役割”

〜サッカー選手 ファンペルシーと息子の話〜
息子はU14フェイエノールトに所属しているんだけど、この前のU14アヤックス戦の試合にはベンチに座って試合にでることはなかった。
試合後の車の中で、ちょっと不機嫌でイライラしてたんだ。
そして、コーチや他の選手の不満を言い出した。
で、私は言った。
「シャキール(息子)、まるで負け犬だな。他人のせいばかりにして自分の負けを認めているじゃないか。周りのみんなんのせいにして。
自分の非を認めないのか。
勝ち残るやつは自分の非を認めて、どこを改善すればよいかを探し続けるんだよ。
こうやって物事を考えるべきなんだよ。自問自答して。
私は息子が成功しなくてもいいと思っている。
私と妻の仕事は、20歳の時点で息子が独り立ちしていることを。
どうだろうが、同じ愛情を注ぐよ。」
サッカー元オランダ代表(元マンチェスターU/アーセナル所属) ファンペルシー

4.才能✖️努力

 いくら才能があっても、努力してその才能を磨く行為をしなければ実を結びつけることはできない。子供が難しい課題に直面したときに、すぐに上手くいかなくても試行錯誤し続けるように励ます。
そのため、親・指導者としては、この努力を継続していく、あるいはできるようなサポートが重要となる。
そのときの方法だが、まずは褒める。
そして、能力や頭の良さ、結果を褒めるのではなく、頑張りや努力、課題達成したことを褒める。失敗したら親が落胆するだろうと子供が考えると、新しいことに挑戦することを避けるようになるからだ。

次に、足りていない課題点を冷静に指摘し、最後に期待を述べる。
(「おまえならできる、信頼しているし期待している。」
 「心配するな 次はきっとうまくいくよ」など)
自信過剰になっている場合は、天狗になりやすいので、そこを諫めることも必要になる。

5.教えられないこと と 教えられること を区別する

 人には得意、不得意がある。
そして、得意な分野・才能を見つけることができれば、教えられることはどうでもいい。
例を挙げると、パソコンでもアプリケーションはいつでもインストール可能だが、ハードがもともとダメだといくら頑張ったところでアプリケーションはインストールできない。

【ハード面ができていない】
・性格-素直でない、
・倫理的、社会的責任感が欠如
・つらい状況でも逃げずに耐えることができる精神力
などは
ソフト面(医師では医学的知識、診察能力、技術など)は揃っていても、医師としては不完全と言わざるを得ない。

後から教えられない素質(才能)は常にみておき、その部分を伸ばしてあげることは重要だ。(親だとバイアスはかかるが、本当に武器となる素質を見つけることができればそれは大人になったときに非常に大きな武器となる)

”才能、スター性というのは、特別な何かに恵まれていることではなく、自分のどんなところが特別なのかを知ること”とオーディション番組のプロデューサーが言っていたことを思い出す。

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