(323)最高速度、(323の2)特定の種類の車両の最高速度
最高速度の規制標識は、ドライバーにとって最も馴染みがある標識の一つだろう。赤い丸の中に制限速度が書いてある表示で、分かりやすい。この記事では、最高速度規制に関する内容について見ていく。
最高速度の決定方法にはロジックがある
世界を見てみると、たとえばパリなどの大都市では騒音対策と安全促進のため、市内全域で30km/h規制を行う方向に規制が強化されている。日本においても生活道路やその周辺地域では30km/h規制を進める一方、幹線道路や自動車専用道路等では最高速度の引き上げを行っている。
最高速度は決めるにあたって交通規制基準に原則が定められている。道路の仕様をベースに、周辺の状況、歩行者の通行量、見通しや勾配、事故発生状況など様々な要素を考慮して決定される。一般道路では30km/hから60km/h (一部20km/h、または70km/h、80km/h)までの10km単位、自動車専用道路では最高120km/hまでで設定される。
以下がざっくりとした概要である。
20km/h: ごく一部の例外的区間に設定される。新規自動車専用道路の出口を除き、既存の道路で今から新規に設定されることはまずない。
30km/h: 生活道路や通学路等、交通事故が多い道路での制限速度。ゾーン30で区域規制を行う場合もある。自動車専用道路のインターチェンジ/ランプにも適用される。原付の法定最高速度。(交通の方法に関する教則や交通規制基準に明確な記載はないが、規制標識の掲示がなくても生活道路と認識できる道路においては、30km/hが原則となるようである。)
40km/h: 都市部の2車線以下の一般道路での標準的な制限速度。自動車専用道路のインターチェンジ/ランプにも適用される。また、市区町村によっては全域でこの速度に制限している場合がある。
50km/h: 都市部の幹線道路の制限速度。都市高速道路での制限速度、高速自動車国道での悪天候時の規制速度でもあり、最低速度でもある。
60km/h: 幹線道路の制限速度。原則として、一般道路における最高速度であり、規制標識の掲示は原則行わないが、自動車専用道路と接続するなど間違われやすい道路の場合は掲示される場合がある。都市高速道路での一般的な制限速度でもある。
70km/h: 自動車専用道路での制限速度。高速自動車国道でトンネルや簡易中央分離帯がある2車線道路の制限速度。一般道路でもごく一部の高規格道路 (自動車の通行機能を重視した構造の道路) で指定される場合がある。
80km/h: 自動車専用道路での制限速度。高速自動車国道で速度規制を行う際の制限速度。一般道路でもごく一部の高規格道路で指定される場合がある。可変標識で天候不良時等の臨時交通規制が行われる。
100km/h: 高速自動車国道における制限速度。規制標識の掲示は原則行わない。可変標識で天候不良時等の臨時交通規制が行われる。
110km/h: 郊外の既存の高速自動車国道で2017年より制限速度として改定されている区間がある。可変標識で天候不良時等の臨時交通規制が行われる。なお、制限速度が110km/hとなる対象車両は、高速道路における法定最高速度が100km/hとなっている車両のみ。
120km/h: 一部の高規格な高速自動車国道 (第二東名等) における制限速度。可変標識で天候不良時等の臨時交通規制が行われる。なお、制限速度が120km/hとなる対象車両は、高速道路における法定最高速度が100km/hとなっている車両のみ。
交通規制基準では以下のような出発点となる道路の仕様による基準規制速度が定められている。
警視庁では、「速度管理指針」を出して、道路を「生活道路及びその周辺地域」「幹線道路・準幹線道路」「高速自動車国道・自動車専用道路」の3分類に分けて制限速度の管理を行うこととしている。
東京・神奈川・埼玉の首都高速道路では、場所に応じて30~80km/hの速度規制を行っている。
補助標識で対象車種や規制時間帯の指定が可能
最高速度は特定の車種に限って制限速度を指定することができたり、時間指定を行う補助標識が付いている場合があることはあまり知られていないかもしれない。場所によっては例がある。
また、自動車の性能向上により1992年に「高速車」「中速車」「低速車」の区分が廃止され、普通乗用車 (高速車) や大型貨物自動車 (中速車) の法定速度が統一されたが、その前は「高速車」「高・中速車」「高・中・低速車」という速度区分が規制標識に存在した。現在でも当時の標識がそのまま残っている地域がある。いわゆる「50高」「40高中」「30高中」「20高中低」と呼ばれるものだ。
区間規制、区域規制のいずれかで規制される
最高速度の規制標識は、通常は区間規制であり、以下の補助標識で区間が指定される。(506)「区間内」は通常は省略される。
主に30km/hと40km/hについては、区域規制 (ゾーン30、「市内全域」規制など)が行われることがある。
また、1992年頃までは東京都内、横浜市、川崎市でも最高速度40km/h「高・中速車 / 都内全域(これと異なる指定区域を除く)」または最高速度40km/h「横浜・川崎市内全域(これと異なる指定区域を除く)」という補助標識で自治体内全体で40km/h規制が行われていた。2000年代までは横浜市、川崎市には標識も残っていたようであるが現在は更新されて無くなっている。
自治体で最高速度の全域規制を行っている (もしくは行っていた) 自治体は以下の通りである。全域規制については、殆どの自治体は40km/h、福島県は中心市街地の規制で30km/hが主流となっている。
将来的には、「生活道路」の法定速度は30km/hになるように法律が改正される見込みである。
60km/h、70km/h、80km/hの掲示がある一般道路の例
60km/h: 東京湾岸道路 (国道357号) など
70km/h: 北千葉道路 (国道464号) 、道央圏連絡道路 (国道337号)等
80km/h: 国道119号「宇都宮北道路」、国道408号「鬼怒テクノ通り」等
おかしな制限速度!?
8km/h、10km/h、25km/h、35km/hなど、交通規制基準にない速度の規制標識を見ることがあるが、大抵は私道/私有地での駐車場等や、米軍基地/港湾等の施設内のものである。稀に公道でも駐車場や有料道路などで見られることがあるが、都道府県公安委員会による設置のものは皆無だと思われる。
問題: 制限速度の規制標識がない一般道路での制限速度は?
さて、改めてこの問題を見てみよう。原付以外については、一般道の法定速度は60km/hで、規制標識がない場合、かつ区域規制がない場合は60km/hが基本、というのが制度上の定めなのだが、60km/hも出せそうもない細い路地でも本当にそうなのか!?
ネット上でもいろいろなことが書かれており、警察庁などのサイトにもはっきりしたことは書かれていない。筆者が調べた限り生活道路における別の法定速度の設定は制度上はなく、また "生活道路" を厳密に定義することも難しい (警察庁のWebでも "明確な定義はない"と書かれている) ため、"生活道路"においては 30km/h程度が望ましいもののそれを規定する根拠がなく、裁判等になったときに係争することが難しいと思われる。
警察庁では、昔から「スクールゾーン」「シルバー・ゾーン」などと試行を重ね、1996年 (平成8)には「コミュニティ・ゾーン」用の規制標識を新しく制定するなどして、2011年 (平成23) より「ゾーン30」の取り組みを開始して、生活道路及びその周辺地域をゾーン30に指定する活動を行ってきている。ゾーン30に指定された区域は最高速度が30km/hであることが明確になった。
つまり警察側では、地域住民と会話を重ねながら必要な区域でゾーン30を広げていく、というのが今後の対策になっており、逆に設定がされていない生活道路は、「歩行者・車両の通行実態や交通事故の発生状況を勘案しつつ、住民、地方公共団体、道路管理者などの意見を十分に踏まえて、速度を抑えるべき道路を選定し、このような道路の最高速度は原則として30km/hとする」としているものの、30km/hが "望ましい" に制度上は留まってしまうのが現状のようである。ただし、ドライバーのマナーとしては、生活道路と思われる路地では30km/hを遵守するのが無難であることは言うまでもない。
かつては東京都内、横浜市、川崎市内等で全域が40km/h規制されていたため、年配のドライバーの中には生活道路でも40km/h規制のイメージを持っている方もいるかもしれないが、これも現在は異なる。