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経営革新計画で売上が倍増した新聞店の事例!地域密着の生活サポートが成功の鍵

1.戦略の考え方

 ロシア系アメリカ人の応用数学者であり、「経営戦略の父」と称されるイゴール・アンゾフは、戦略を検討する際の考え方として以下の「アンゾフの成長ベクトル」を提唱しました。

 この考え方は、提供する製品・サービスと、対象とする市場(顧客層
)それぞれを既存と新規に分けて組み合わせたことで、4つの戦略があるとするものです。

  1. 市場浸透戦略(上図A)

    • 既存顧客へ既存の製品・サービスをさらに深く浸透させる戦略。

    • 比較的リスクが低く、安定的な収益増加が期待できます。

    • 市場競争が激化している場合は効果が得られにくいこともあります。

  2. 新市場開拓戦略(上図B)

    • 新規顧客へ既存の製品・サービスを提供する戦略。

    • 大きな成長機会を秘めていますが、同時にリスクも高くなります。

  3. 新製品開発戦略(上図C)

    • 既存顧客へ新たな製品・サービスを提供する戦略。

    • 既存顧客のニーズに応えることで、顧客満足度向上や売上増加を目指します。

    • 新製品の開発には時間や費用がかかる課題があります。

  4. 多角化戦略(上図D)

    • 新規顧客へ新たな製品・サービスを提供する戦略。

    • 事業領域を広げ、収益増加やリスク分散を図ります。

    • 多額の投資が必要であり、失敗すれば損失を被る可能性もあります。

 今回ご紹介する新聞店は、上記「3.新製品開発戦略」で成果を上げました。以下でその取組みをご紹介します。

2.新聞販売店を取り巻く環境

 スマートフォンやインターネットの普及により、新聞の発行部数は年々減少しています。日本新聞協会によると、2000年には5,370万部を超えていた新聞発行部数は、2023年には2,860万部を下回り、23年間で実に46%以上も減少しています。

新聞を読む人が少なくなってまった

 今回ご紹介する新聞店は、創業以来50年以上にわたり、多くのお客さまに新聞をお届けしてきました。しかし、近年は厳しい環境を打開するため、新たな事業展開を模索していました。

3.新聞販売店の新たな取組み:生活サポートサービスの展開

 同店は、集金のために顧客宅へ伺った際に、玄関の電球交換やドアの簡単な修理を無償で実施したことがあります。これが非常に喜ばれたことから、生活全般のサポートをすることとし、エアコンのフィルター清掃や庭の草むしりなど、サービスの範囲を広げていきました。

「集金時に生活のサポートもしてくれるのさね「」

 このような取組みは、顧客から高い評価を得る反面、気兼ねなくお願いしたいから有料で実施してほしいという声も挙がるようになりました。そこで、1時間3,000円でこの生活サポートサービスを提供することとし、当該サービスを新聞購読者以外の方へも提供することにしました。

 そして、このサービスは以下のような拡がりを見せることになります。

4.事業範囲のさらなる拡大

 このような生活サポートを望む方は、高齢者が多いわけですが、その中には終活をする方もいらっしゃいます。この終活をする中で出てきた、まだ使える不用品の処分について相談されることも数多くありました。そこで、そのような不用品をネットオークションに出品する作業の代行を承るようにしました。ちなみに、落札されたらその金額を顧客と同店で折半にします。

 また、真夏に室内で熱中症になる高齢者の事例が後を絶ちませんが、エアコンが効いていないことに気付いていない高齢者がそのような事故に見舞われることを知った同店は、経営者含め社員全員がスキルを身につけ、エアコンの点検や販売もするようにしました。

「顧客が抱える課題を考えるのさ」

 同店はこのような取組みを整理し、以下のように計画化しました。

6.経営革新計画の策定と承認

 経営革新計画とは、中小企業が新規事業を立ち上げ、新たな成長戦略を実行するために策定する計画です。この計画は、一定条件を満たすことで、都道府県知事から承認を受けることができます。同店は、これらの取組みを経営革新計画にまとめ、承認を得ました。

 これにより、融資・税金・補助金申請などが優遇されたり、顧客に対して都道府県知事の認定を得た経営計画に基づいて事業を展開していることをアピールできたりするというメリットがあります。

 専門家の支援を受けながら経営革新計画を作成することで、同店代表は自身の考えがまとまっていくことを感じました。そして取組内容を明確にするとともに3年後のビジョンに向けた道筋を作ることが出来ました。

「専門家の支援を受けたのさね」

7.まとめ

 結果として、同店が展開する生活サポートサービスは、顧客の生活を支えるだけでなく、新たな収益源としても大きな貢献を果たしています。同店の売上高は、創業初年度と比較すると222.5%と倍増を達成。新聞販売店という枠を超えた新たなビジネスモデルを確立しました。

 新聞販売店が直面する厳しい環境の中で、同店が実施した生活サポートサービスの展開と経営革新計画の策定は、大きな成功を収めました。既存顧客との関係を強化し、新たなニーズに応えることで、売上を倍増させ、地域に不可欠な存在となった同店の取り組みは、他の新聞販売店や中小企業にも多くの示唆を与えます。

 この事例は、外部環境の変化に柔軟に対応し、顧客との信頼関係を築くことで、新たな価値を創出できることを示しています。新聞販売店に限らず、多くの企業がこのようなアプローチを取り入れ、持続可能な成長を実現するための参考にしていただければ幸いです。


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