モチベーション理論を活用してタイヤを大量に販売したガソリンスタンドの事例
1.はじめに
業績を拡大させるための方策として、従業員のモチベーション管理があります。この記事では、モチベーション理論のひとつ「動機付け=衛生理論」を基に従業員のモチベーションを高め、タイヤの大量販売を実現したガソリンスタンドの事例も交え、実践的なヒントを提供します。
2.ハーズバーグの動機づけ=衛生理論とは
アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグ氏は、モチベーションの仕組みを「動機付け=衛生理論」として発表しました。これは、従業員の仕事に対する「不満足感に影響する要因」と「満足感に影響する要因」は異なるとするものです。
(1)不満足感に影響する「衛生要因」とは?
ハーズバーグ氏は、不満足感に影響する要因を「衛生要因」としており、例として「会社の方針」「上司の監督」「給与」「人間関係」「労働条件」などを挙げています。そして、これらが充足されていないと不満足感が大きくなり、仕事に対する姿勢が消極的になり、モチベーションが低下していくとしています。
ですが、この「衛生要因」を充足させたとしても、不満足感は小さくなるものの満足感は大きくならないため、モチベーションの向上には限界があるとしています。
(2)「衛生要因」の限界
例えば、従業員に支払う給与をある日突然、世間相場よりも大幅に上回る水準に設定したとします。この場合、従業員は高いモチベーションを抱くよりも、なぜ突然にそのようなことをしたのか猜疑心を抱くものです。
また、悪化していた職場の人間関係を良好なものにしたとします。この場合、一時的にモチベーションは上がるかもしれませんが、従業員はその状況に満足してしまい「人間関係をもっと良くしたい」とは思わないものです。
このように「衛生要因」には天井感があり、それを充足させたとしても、モチベーションは一定レベルに留まってしまいます。そこで「動機付け要因」を充足させる必要があります。
(3)満足感に影響する「動機付け要因」とは?
ハーズバーグ氏は、満足感に影響する要因を「動機付け要因」としており、例として「承認」「責任」「達成感」「仕事そのもの」「昇進」などを挙げています。これらが充足されると、満足感が大きくなって仕事に対する姿勢が積極的になり、モチベーションが向上していきます。そして、この「動機付け要因」には天井感がないことから、モチベーションの上昇幅には制限がないとされています。
以下では動機付け要因を充足させて、タイヤの大量販売を実現したガソリンスタンドの事例をご紹介します。
3.動機付け要因を充足させたガソリンスタンドの事例
今回ご紹介する事例は、時間当たり1~4名程度のスタッフで店舗運営をしているセルフサービスのガソリンスタンドです。同店はタイヤ販売を強化することとし、店長はスタッフに以下を実施しました。
事実を承認する:同店は、給油中の顧客にスタッフがタイヤ空気圧の無料点検を申し出、すり減ったタイヤを見出し、交換をお勧めします。店長はスタッフのアプローチ台数をカウントし、休憩時に「今日は〇台に空気圧点検のアプローチをしていましたね」と声をかけていきました。
権限とともに責任を与える:店長がスタッフにタイヤの月間販売目標を与え、特にベテランスタッフには「販売方法はお任せします」と権限を与えました。そして、目標達成に向けて、自分が決めた販売方法を実行する責任を与えました。
達成感を共有・強化する:従業員が販売目標を達成した時には、店長が「目標達成しましたね」と声をかけ、達成感を共有・強化しました。
仕事を深める:経験の浅いスタッフの指導をベテランスタッフに任せるようにしました。指導を通して、ベテランスタッフ自身が知識や経験を整理し、新たな学びを得られる機会を提供しました。
このように動機付け要因の充足により、スタッフのモチベーションが高まり、タイヤの大量販売が実現できました。しかし、衛生要因も一定程度充足しておくことが重要です。給料を払わずして動機付け要因を充足させたとしても、モチベーションの向上が望めないことは想像に難くないはずです。
4.動機付け要因と衛生要因のバランス
ハーズバーグの「動機付け=衛生理論」によると、衛生要因と動機付け要因は、互いに相反するものではなく、相乗的に働くとされています。
繰り返しになりますが、衛生要因は不満足感に影響を及ぼす要因であり、動機付け要因は満足感に影響を及ぼす要因です。衛生要因が充足されていない状態では不満足感が大きいので、動機付け要因を充足して満足感を大きくさせようとしても、従業員のモチベーションは高まらない可能性があります。
ガソリンスタンドにおいても、衛生要因と動機付け要因のバランスを意識することが重要です。例えば、以下のような取り組みが考えられます。
衛生要因の充足
適正な給与の支払い
安全で衛生的な労働環境の整備
良好な人間関係の構築
明確な役割分担と責任の明確化
適切な休憩時間や休暇制度の導入
動機付け要因の充足
成果に対する承認や賞賛
責任のある仕事を任せる
達成感を共有する機会の創出
スキルアップやキャリアアップの機会の提供
仕事のやりがいを感じられるような環境づくり
モチベーションを高めるには、動機付け要因を充足することが重要です。しかし、衛生要因も一定程度充足しておくことも必要です。衛生要因と動機付け要因のバランスを意識することで、高い効果に繋げることが期待できます。
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