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電気工事業者の新規事業進出:経営革新計画で明らかにした人材募集戦略
1.はじめに
以前、以下の記事で電気工事を主たる事業とする小規模事業者が、新規事業として管工事業を手掛けるべく、経営革新計画を策定した事例をご紹介しました。
同社は、当計画の策定にあたり、地元商工会経由で派遣された専門家と面談をした結果、人材を充足させる必要性を認識しました。そこで、以下の4つのステップを具体化し、計画書に盛り込みました。
ステップ1:既存人材の定着率向上
ステップ2:募集
ステップ3:採用面接
ステップ4:早期退職の防止
上の記事では、上記「ステップ1:既存人材の定着率向上」の内容をご紹介しました。今回の記事では「ステップ2:募集」の内容として、同社が経営革新計画に盛り込んだ新規人材の募集に関する取組みをご紹介していきます。
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2.新規人材の募集戦略
同社は、ホームページとチラシを用いて求人活動を行うこととしましたが、どのような内容を告知するかを計画に盛り込みました。
同社の募集内容は、従来の形式的な内容にとどまらず、求職者が本当に知りたい情報に焦点を当て、以下の7つのポイントを明確に伝えることで、応募者の興味関心を高めました。そのポイントは以下に示した5W2Hを明確に伝えるというものです。
(1)誰と働くのか(Who)
経営者含め、従業員全員の顔写真とプロフィールを掲載し、同社で働いてみた従業員の感想や、応募を検討する方へのメッセージを掲載します。なお、人は他人の行動に影響を受けやすいものであり、この現象は「社会的証明の原理」として知られています。
つまり、自社で働く従業員の声を紹介することで、応募者に「他の人もやっているから大丈夫そう」という安心感や、「自分もやってみたい」という意欲を与えることが期待できます。他者が特定の行動を取っていることを確認することで、自分も同じ行動を取っても大丈夫という意識の醸成に繋がっていきます。
なお、従業員が実際には言ってもいないことを掲載することは、応募者に対する信頼を失わせることに繋がります。SNSでの内部告発などによって、それが発覚してしまえば企業の信用を大きく損ない、入社後の早期退職にも繋がりかねません。
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(2)何の仕事をするのか(What)
建設現場における電気工事の内容を写真付きで具体的に説明します。ホームページでは、実際の作業風景を動画で紹介し、臨場感を伝えます。
(3)どこで仕事をするのか(Where)
これまでの工事実績を掲載し、どのような場所での工事が多いのかを地図で示します。
(4)なぜ募集をするのか(Why)
自社のビジョンを明確に示し、これを達成するために、応募者にどのように貢献してもらいたいのかを伝えます。
(5)いつ働けるのか(When)
応募や採用面接を経て、順調にいけばいつから働けるのかを示します。また、 残業時間含む勤務時間や試用期間も説明し、入社後のキャリアパスを提示します。
(6)どのように育成するのか(How)
OJTは「On-the-Job Training」の略称で、「職場で実務を通じて行う従業員の教育訓練」を意味します。座学形式の研修とは異なり、実際の業務を通して知識やスキルを習得する実践的な訓練方法です。
このOJTの内容や、どのようなスキルを習得できるのかを具体的に示します。また、資格がない場合でも、会社が資格取得費用を支援することも盛り込みます。
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(7)いくらで働くのか(How Much)
基本給や、試用期間の給与、賞与の支給実績、残業手当などを示します。また、経験者については、相談により決定することを示します。さらに、社会保険が完備されていることをアピールします。
チラシの場合は、これらの内容は記載し切れませんので、要点を記載して詳細が分かる自社ホームページへQRコードで誘導します。
3.まとめ
今回の記事では、電気工事業を主たる事業とする小規模事業者が新規事業として管工事業に参入するにあたり、人材充足のための「ステップ2:募集」について具体的な取組みを紹介しました。
募集告知において、求職者が本当に知りたい情報を明確に伝えることが重要であり、以下の7つのポイントを示すことで応募者の興味関心を高めようとしました。
誰と働くのか(Who):経営者や従業員の顔写真とプロフィール、従業員の声。
何の仕事をするのか(What):具体的な仕事内容と作業風景の紹介。
どこで仕事をするのか(Where):工事実績と工事場所の地図。
なぜ募集をするのか(Why):自社のビジョンと応募者への期待。
いつ働けるのか(When):勤務開始日、勤務時間、試用期間、キャリアパス。
どのように育成するのか(How):OJTや資格取得支援の内容。
いくらで働くのか(How Much):給与、賞与、残業手当、社会保険の情報。
これらの情報を正直に、かつ詳細に伝えることで、応募者に安心感と信頼を与えることができます。次回の記事では、ステップ3の「採用面接」について詳しく解説し、引き続き、新規事業成功に向けた取り組みを紹介していきます。