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ロングライド補給戦略:エネルギーとパフォーマンス維持の秘訣
ロングライド(100km以上)、ウルトラエンディランス(ブルベや数日間に及ぶライドなど)は、エネルギーとパフォーマンスを維持するために、継続的なエネルギー補給が求められます。ここでは、覚えておくべきポイントを交えて、その効果的な方法を紹介します。
1. ロングライド中の燃料補給のための重要ポイント
エネルギーを維持するために毎時間炭水化物を摂取し、1時間あたり30~90グラムを目標とする。
時間あたりのエネルギー吸収量には限界値があるのでこまめに補給する。
ジェル、バー、果物、おにぎりやサンドイッチなどの実際の食品を利用し、味の飽き防止を図る。
1時間あたり200~1000 mlの水分を摂取し、ナトリウム(1時間あたり200~1500 mg)を管理して水分補給を行う。
自分に合った補給プランを見つけるために、トレーニング中にテストすること。
体内に貯蔵できる炭水化物は約3時間分しかないので絶え間ない補給が鍵となる。
2. エネルギー補給が重要な理由
長距離ライド中、体はエネルギー源として炭水化物に依存するが、体内には約500グラムのグリコーゲンしか貯蔵できず、約2,000カロリー分、すなわち約2時間50分分の運動しか賄えません。この制限により3時間以上のイベント、特に日を跨ぐイベントでは、エネルギー切れを防ぐために継続的に炭水化物を摂取する必要があります。
3. 摂取量と摂るもの
炭水化物の摂取量:3時間以上のライドでは、1時間あたり30〜60グラム、ウルトラエンデュランスの場合は、グルコースとフルクトースの混合(2:1比率)で1時間あたり最大90〜120グラムを目標とします。これは、スポーツ栄養製品(各25~30グラムのジェルなど)や、おにぎり(約45グラム)バナナ(約25グラム)などの実際の食品から摂取できます。
バリエーション:初期は迅速なエネルギー補給のためにジェル、チュー、バーなどを使い、長時間のイベントでは味飽き防止とモチベーション維持のためにおにぎり、サンドイッチ、果物などの実食品を加えます。これらはトレーニング中に消化の様子を確認することが重要です。
4. 水分補給とバランスの維持
水分補給:汗の量や環境条件に応じて、1時間あたり200~1000 mlの水分を摂取する。喉の渇きを感じたら飲むが、低ナトリウム血症(血中ナトリウム不足)には注意する。
ナトリウム:必要に応じて、電解質ドリンクやサプリメントを利用し、1時間あたり200~1500 mgのナトリウムを摂取する。これにより水分バランスが保たれ、足攣りの予防につながります。
5. 胃腸障害の予防
ライド中は血流が筋肉に流れ込み、腸に送られる血液の量が少なくなるため通常ほど機能しなくなり、摂取しすぎると胃腸に問題を引き起こす可能性があります。炭水化物を一度に過剰に摂取しないよう注意する。特に、砂糖入りのドリンクやジェルを同時に摂ると胃腸に負担がかかるため、固形食品は水や低浸透性のドリンクと組み合わせる。また、脂肪分、食物繊維の多い食品も胃腸に負担がかかります。もし問題が続く場合は、低FODMAP食を試すのも一つの方法です。
夏場などの暑い環境では水分補給も重要ですが、水分の過剰摂取により消化液が薄まってしまい、消化吸収が効率的に行われない可能性があります。
また、カフェインは胃酸の分泌を促す作用があるため特に胃や腸が敏感な人にとっては注意が必要です。
そのほか低い気温や冷たい飲み物、アイスクリームの摂取は、胃腸の血流や運動性を一時的に低下させることで、消化機能に軽い影響を与える場合があります。
5-1. 低FODMAP食とは
低FODMAP食とは、消化が難しい短鎖炭水化物(FODMAP:Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides And Polyols)を制限する食事法です。これらの成分は小腸で十分に吸収されず、大腸で発酵してガスを発生させたり、腸内の水分を増やしたりするため、腹部膨満感、痛み、下痢などの症状を引き起こすことがあります。
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※各カテゴリー内でも、製品やブランドによってFODMAP含有量は異なる場合がある
6. 現地でのトラブルシューティング
もしエネルギー切れ(ハンガーノック)、脱水症状、または胃腸の問題が発生した場合は、ペースを落とし、摂取量を徐々に調整する。
7. 自分に合わせたプラン作り
体質は個人差が大きいため、トレーニングライド中に補給プランを実践し、食品、飲料、摂取率などを試して自分に合った方法を見つけることが重要です。
8. その他考慮すべき栄養素
炭水化物が中心となるが、筋肉の修復のために体重1kgあたり0.8~1.2グラムのタンパク質を、また、エネルギーやビタミン補給のためにナッツなどから脂質を摂取することも大切です。
9. ロングライド中の燃料補給に関する詳細な調査ノート
以下の各セクションでは、科学的根拠、戦略、実践上の考慮点を詳細に述べ、徹底的な理解を促すための情報を提供します。
9-1. エネルギー必要量の科学的根拠
炭水化物は持久活動の主要なエネルギー源であり、肝臓(80~100グラム)と筋肉(約400グラム)にグリコーゲンとして貯蔵され、合計約500グラムとなります。この貯蔵量は、1グラムのグルコースが4 kcalを生み出す計算で約2,000カロリーに相当し、有酸素運動(70% VO2max以下)で約2時間50分分のエネルギーにしかなりません。
体内の炭水化物吸収能力は、SGLT1トランスポーターを通じて、1時間あたり60グラムのグルコースまたはグルコースポリマー(例:マルトデキストリン)に制限される。過剰摂取は腸の不快感を引き起こす可能性があるが、腸のトレーニングによりトランスポーターの効率を向上させることができます。また、グルコースとフルクトースの2種類の炭水化物を組み合わせることで、1時間あたり最大120グラムまで吸収を高め、パフォーマンスの向上や筋肉損傷の軽減につながります。
9-2. グルコースとフルクトース
グルコースとフルクトースはどちらも単糖ですが、その化学構造の違いにより、吸収メカニズムとその後の代謝経路が大きく異なります。
グルコースの食品例:米、パン、パスタ、じゃがいも、にんじんなど
これらの食品は、主にデンプンとして存在し、消化過程でグルコースに分解されます。フルクトースの食品例:リンゴ、洋梨、マンゴー、はちみつ、高果糖コーンシロップを使用した清涼飲料水など
これらの食品には、フルクトースが多く含まれています。
吸収メカニズムの違い
グルコースの吸収
グルコースは小腸の上皮細胞で、SGLT1というナトリウム依存性の輸送体を介して、能動輸送により効率的に吸収されます。即時のエネルギー源として広範囲に利用され、血糖値の調整にも重要な役割を果たします。特徴:
ナトリウムとの共輸送が必要なため、エネルギーを利用して取り込まれます。
吸収後、グルコースは血液中に放出され、全身の細胞へ迅速に供給され、エネルギー源やグリコーゲンとして貯蔵されます。
血糖値の上昇を引き起こし、インスリン分泌を促す役割も果たします。
フルクトースの吸収
フルクトースは小腸で主にGLUT5という輸送体を介して、促進拡散により吸収されます。肝臓での代謝が中心となり、過剰摂取すると肝臓で脂肪合成が促進され、脂肪肝や代謝異常のリスクを高める可能性があります。特徴:
GLUT5はエネルギーを必要とせず、濃度勾配に従って取り込まれます。
単独で大量に摂取すると、GLUT5の輸送能力を超えて一部が腸内に残り、発酵してガスや不快感を引き起こす場合があります。
一方で、グルコースと同時に摂取すると、GLUT2が小腸の細胞膜に移動して両者の吸収を助けるとされ、フルクトースの吸収効率が向上することが報告されています。
吸収されたフルクトースは、主に肝臓で代謝され、グルコースや脂肪へと変換されるプロセスを経ます。
このように、食品に含まれるグルコースとフルクトースは、それぞれ異なる輸送体と代謝経路を持ち、摂取時の効果や健康への影響も異なります。
9-3. 燃料補給戦略:スポーツ栄養と実食品の使い分け
燃料補給戦略は、イベントの持続時間やアスリートの好みにより異なり、スポーツ栄養製品と実際の食品のバランスが求められます。
スポーツ栄養製品:ジェル(通常25~30グラムの炭水化物含有)、チュー、バー、ドリンクなどは利便性が高く、迅速にエネルギーを利用できるため、レースや短時間のライドに適しています。
実際の食品:長時間のイベントでは、過剰な糖分摂取による味の飽き防止や精神的な疲労軽減のために、おにぎり、サンドイッチ、果物などの実食品を取り入れることが重要である。これらはトレーニング中に、消化のしやすさや効果を確認するためにテストすべきです。
また、イベント初期に積極的な補給を行い、昼間は摂取量を増やし、夜間はペースを抑えるという心理的・生理的な配慮も必要です。特に多日間にわたるライドでは、単純な炭水化物だけでなく、タンパク質や脂質などのマクロ栄養素のバランスが、基礎体調の維持、組織の健康、免疫機能のサポートに寄与します。
9-4. 水分補給と電解質管理
水分補給は個々の体質や環境条件、ペースに大きく左右されます。冷涼で発汗量の少ない状況では1時間あたり200~300 ml、暑く発汗量が多い状況では1,000 ml以上の摂取が推奨されます。ナトリウムは1時間あたり200~1,500 mgが目安となり、低ナトリウム血症を防ぐために、計画的な摂取と「喉の渇きに従う」飲水のバランスをとることが重要です。
9-5. 胃腸障害の予防と管理
胃腸障害はロングライドにおいて重大な問題であり、イベントをDNFせざるをえない状況に陥ることもあります。これを防ぐために、ジェル、チュー、バー、糖分の多い等張・高張ドリンクの同時摂取によるカロリーや炭水化物の過剰摂取を避け、固形食品は水や低浸透性の電解質ドリンクと組み合わせることが推奨されます。持続する問題がある場合は、低FODMAP食を検討することが望ましいです。また、腸のトレーニングにより、徐々に炭水化物摂取量を増やして腸の耐性を高める方法もあります。
9-6. イベント中のトラブルシューティング
イベント中にエネルギー切れ、脱水、胃腸の不調、または足攣りなどが発生した場合は、まずペースを落とし、摂取量を徐々に調整しながら可能であれば走行を継続するのが良いでしょう。
9-7. 個々に合わせたアプローチとトレーニング
栄養補給は個人差が大きいため、トレーニングライド中に、計画した1時間あたりのカロリー摂取量(例:5~6時間のイベントで300キロカロリー/時)を実践しながら、胃の慣らしとともに最適な食品、飲料、摂取量を見つけることが必要です。また、異なる環境条件(例:低温時や高温時)でのテストも有用です。
9-8. 炭水化物以外の栄養素の役割
ライド中は炭水化物が中心となるが、筋肉修復や免疫機能のために、体重1kgあたり0.8~1.2グラムのタンパク質を1日に分散して摂取することが重要です。また、脂質はエネルギー供給やビタミンの吸収を助けるため、ナッツなどから摂取します。一般的な体型の長距離サイクリストでは、男性で平均12kgの脂肪が貯蔵されています。しかし、ライド中は即効性のあるエネルギーとして、炭水化物を中心に摂取することが推奨されます。
10. まとめ
ロングライドにおける燃料補給は、多面的かつ個別化されたプロセスであり、炭水化物のダイナミクスの理解、スポーツ栄養製品と実食品の戦略的活用、細やかな水分・電解質管理、そして現地でのトラブルシューティングが不可欠です。これらの要素をトレーニングで検証・調整することにより、パフォーマンスと健康を維持し、厳しいライドを完走に導くための堅固な戦略を構築できるでしょう。