百万石のお殿様の審美眼~目黒区美術館「前田利為 春雨に真珠をみた人」
公立の美術館では、よく地元にゆかりのある画家や人物にまつわる展覧会を催すことがあり、小ぶりな企画ながら案外佳品がそろっていることがある。
今回の展覧会もまさにそのような良きものだった。
目黒区美術館「前田利為 春雨に真珠をみた人」
前田利為とは、加賀前田家十六代当主。彼の住まいしていた邸宅が目黒区駒場にあったという縁である。
展覧会の前半は彼が収集していた作品が展示されている。集めるだけでなく、実際に駒場の邸宅に飾られていたものばかり。
いずれも派手さはなくとも、心落ち着かせるような作品たちだ。
時節柄、印象派の作品が多い気がする。
なかでもいまや人気彫刻家の一人である、フランソワ・ポンポンの「シロクマ」があることに目を引いた。なんでも利為自らポンポンのアトリエに訪ねて行って、制作を依頼したとか。
後半は、前田家にまつわる作品、主に駒場の邸宅に関するものや天皇の行幸に関する資料が展示されていた。
それにしてもこの前田利為というお人。審美眼もそれなりにあったようだが、それだけに物言いも辛らつだったようだ。
1917年に有島生馬に連れられて訪れた二科展では、
会ノ主義ト称ス作品何レモ醜悪、是レ美術カト疑ハシム
と酷評している。身近にいると面倒なお殿様だったかもしれない。
そんな利為は、1942年太平洋戦争の最中、軍務中に飛行機事故にて命を落とすことになる。最後は陸軍大将にまでなった。
一人の人間の生涯と、彼が集めた美術品とが、一体となって感じられた素晴らしい展覧会だった。