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宮殿の屋根に武士が生えていた

旅先で、たまたま遠くに見えた天国の門が気になったので見学しに行った。宮殿のような場所で王族気分に浸りつつ、ちょいちょい日本モチーフの飾りに驚かされる。


6月、イベントに行くために北海道から東京に降りたったときのこと。

駅を降りて横断歩道を渡っていたら、視界の端の景色がスコンっと抜けた気がした。何だろうと思ってその方角を見たら、ビルなどがなく、広くまっすぐな道路が延びていた。その奥、遠くに巨大な門のようなものが見えた。

正門前の広場から
白くて、華奢な、天国の門ってあんな感じ?

気になったので調べたら「迎賓館赤坂離宮」というものらしい。
見学できるらしいので寄ることにした。

道路を進んでいくと、巨大な門の前に警備員さんが見えた。
門の前にも謎の広場があるので、そもそもその門に近づいていいのかがわからない。あと、門が巨大過ぎて距離感がつかめない。

近づいていいのだろうか

私の前を行く日傘を差したご婦人方も赤坂離宮の見学のようで、警備員さんに近づいた後、「ここじゃないんだって」「ここ正門」「そっち回るみたい」「西門だって」と口々に話す声が聞こえてきた。

ふむふむと思っていると、門の横に看板が見え「見学は西門へ」ということで、ご婦人方の後ろをテッコテッコとついて行く。

西門に入り、まず「手荷物検査」に誘導された。

なぜ建物の見学で手荷物検査をするのだろうかと不思議に思いながら、検査をクリアする。

いただいたパンフレットをめくってこの建物が現役なことを知った。

今までこの手の「見学できるなんかすごい建物」は、お役目が終わって保存されているものばかりだったので、現役なことにとても驚いた。

ここは国賓をお迎えしている建物とのこと。

ニュースで観る「ゴテゴテとした装飾のある暖炉の前で首相と他国の偉い人が話してる」のがこの迎賓館赤坂離宮のようだ。

ああいう空間は、てっきり皇居とか国会議事堂にそういう”部屋”があるとか、そういう撮影用の”スタジオ”だと思ってた……。まさか建物ごと存在するとは……。

手荷物検査も合点がいく。爆発物とかを仕掛けられないようにするためなのだろうか。

ところで正門付近から、会う方あうかた皆、物腰柔らかに「おはようございます。見学ですね。まずはあちらの……」「おはようございます。よくお越しくださいました。こちらです」「おはようございます。ごゆっくり見学してくださいね。」と丁寧に声をかけてくださる。自然とこちらも背筋が伸びる。

真っ白い建物に入り、見学の説明を受ける。中は撮影禁止、壁を含めて触るのも禁止。カーペットの上以外歩かない。リュックは前に抱いて、不注意で周りの物を傷付けるリスクを減らす。ちょっと緊張する。

見渡してみると、天井が高く、ここまで高いなら天井はなくていいんじゃないかって気がしてくる。首がほぼ直角になって痛くなる。建てられたのは明治42年とのこと。平均身長から2,3cm高めの私でも上を見ると立ち眩みを起こしそうになる。建てられた明治は平均身長も今よりも低い頃のはずだから、よく建てたなと思うし、掃除とかシャンデリアの手入れとかどうしてたんだろうと思ってしまう。真っ白な壁と天井を維持するの大変では……?

帰ってから身長について調べた。
明治43年の18歳男子の平均身長が160cm、女子が148.5cm。
(文科省の資料(明治33年以降5カ年ごと学校保健統計))
平成31もしくは令和元年の18歳が171cm、女子が156cm。
(国民健康・栄養調査の統計)
今と大体10cmくらいの差らしい。あの建物の天井の高さからすると誤差の範囲のような気がするが、どちらにせよどうやって維持管理してたんだ。

中も日本の建物には見えない。

白地に細い筆で金色の繊細な模様を描いた壁が実在するし、天井画は欧羅巴の空だし、狩りで捕まえた動物を描いた壁画(誰が捕まえた動物なのかわからんが)はあるし、欧羅巴のお城、王族貴族の文化だ。世界ふしぎ発見とかで見るやつ。ローマの休日みたい。

広さを演出するために大きい鏡があちこちにあるので、豪奢な部屋にいる自分が映る。
私はいかにも観光客な格好なので、世界観に溶け込めそうな、ドレスライクなワンピース姿のお姉様方がちょっとうらやましくなる。

建物の中も外も日本っぽさを感じない世界なのだが、よくみると、サーベルと日本刀が交差しているレリーフがあったり、バイオリンに紛れて琵琶のレリーフがあったりする。ライオンがにらみを効かせている部屋があれば中国の縁起の良い鳥が羽ばたいている。

日本画で花や鳥が描かれた七宝焼きが絵画のように飾られている部屋があれば、その天井は油彩画で、あの、サイゼリアの天使とかいない感じのやつ、といって伝わるだろうか、あんな感じのめっちゃ豪華なやつで空が描かれている。(物を知らないというのはこんなにも不便)

大理石の床とかの石の文化で構築されているなと思えば、寄せ木細工の床が出現する。(寄せ木細工って床に使うんだっけ?)

和洋折衷とも異なる、よくみると奇妙な世界が広がっていた。

建物内の見学の最後には「ここから窓の外みて!」という案内があり、のぞいてみると、屋根の飾りが見えた。このポジションが屋根の飾りを一番近くから見えるらしい。地球儀とそれを取り囲む4体の中国の縁起の良い鳥の飾りである。色々細かい模様がある気がする。なんで地球儀と鳥4体なのかわからない

建物内の見学が終わり、外に出ると建物の裏へ案内される。

主庭とのことで、噴水があり、やっぱり装飾がよくわからないことになっていた。

噴水の縁にグリフィンとカメが交互に並んでいる。グリフィンとカメ。なぜ?カメも中国の縁起物由来なのだろうか。

噴水のグリフィンとカメ

建物正面に回る。
建物の玄関から中門まで、前庭も広い。

広すぎて落ち着かなくなる。だだっ広い広場、何もないのだ。どこにいればいいのだろうか。

警備員さんがいた正門が遠くに見える。正門と建物の距離がおかしい。
あの正門、実は蜃気楼で近づけないとかそういうオチじゃなかろうか。

正面玄関から正門方向を望む
赤いラインがパラソル

正面の広場(前庭)に並ぶパラソルの下でアフタヌーンティーをしている人たちがいる。

店のような建物はなく、キッチンカーがいる。キッチンカーがアフタヌーンティーを提供しているらしい。

非日常の風景を見ながらのアフタヌーンティーは楽しそうだ。残念ながら本日分は終了とのことだったので、ケーキセットをいただく。

ケーキセット(おいしかった!)

改めてじっくりと建物を眺める。

座ってゆっくり宮殿を眺める
地球儀と縁起の良い鳥

地球儀と鳥の飾りは目立つなと思った。
建物正面の上にも何かいる。

なんだろう、と凝視する。

武士だ。

屋根に武士が生えていた。

屋根の上の武士

なんで!?

もう武士にしか目が行かない。

悲しいことに、手元のパンフでは日本刀も琵琶も、この武士も「随所に日本らしさを散りばめています」の解説で片付けられている。

鬼瓦であれば魔除けかなと思えたが甲冑武者である。

解説を見ても、なぜそこに日本ぽいモチーフを置いたのか、その謎が解消されないから訳がわからない。

歴史や文化にもっと詳しければわかるのだろうか。音声ガイドを借りたらもう少し詳しい説明が聞けたのだろうか。

王族気分が全部屋根の武士で吹き飛んでしまった。

ケーキを食べ終わり、帰りは正門からでるとのことで、正門へ向かう。
正門は蜃気楼ではなくちゃんと近づくことができた。

で、正門から出る前にお土産屋があるそうなのでそこへ寄る。

「門衛所」を利用しているとのことで建物は小さい。その中に2つ店舗が入っているので、一人入るとすぐ身動きがとれなくなる。グッズが素敵なので眺めていたいが、手短に済ませなくては。

紅茶と茶菓子をレジへ持って行く。
「素敵なティータイムができますね」
と店員さん(って言っていいのだろうか)。最近出たばかりのお菓子だとか、冬場になるとチョコレート菓子も並ぶのだとか教えてもらい、また来る楽しみがありますね、と短いお喋りをする。

正門から出る前に振り返って建物を望む

警備の方に「お気を付けてお帰りください」と見送られて、迎賓館を後にした。

外で過ごすのに気持ちの良い季節に、今度はちょっとおしゃれして、また来たい。



……できたら脈絡がなさそうな日本ぽさの謎も解きたい。




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柴野あゆむ(しばちゃん)
お読みいただきありがとうございました!いただいたチップでセブンの150円のあんまん食べます。