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喪った哀しみの実感〜幕が下りたら会いましょう〜

松井玲奈さんの主演映画、幕が下りたら会いましょうを見た。

劇団員の女性麻奈美が、妹の死をきっかけに、今まで逃げてきた過去と向き合おうとする姿を映しだす物語だ。
ストーリーはよくある話で、姉と妹の間にはわだかまりがあり、そのことで母と反りが合わず、仕事はと言うと実家の美容院の手伝いで、心血を注ぐ芝居は10年ヒット作に恵まれない、拗らせた30代の女性がもがいていく姿を描いている。人の弱みを食い物にする人、される人、夢を諦める人、諦めない人、色々出てくる。

ストーリーの展開が最後まで読めず、なんだかもやもやとしていたのだが、麻奈美のままならない気持ちを追体験しているような感覚だったのかもしれない。

妹とのわだかまりの一因である、劇中劇の「葡萄畑のカレーニナ」は、トルストイの小説アンナカレーニナをモチーフにしている。言葉を引用しているところもあり、登場人物たちを暗示している描写が見られる。関連する言葉にアンナカレーニナの法則というものがあり、多数の要素によってその成功、失敗が左右されるような事象について、失敗の原因がたくさんありうることを指す法則である。麻奈美には、「妹の死」という事象に対して、後ろめたい、戻りたい過去がたくさんあった。おそらくは、わたしたちには「戻りたい夜」が多すぎる、というポスターのフレーズはここから来ているのかなと思う。

麻奈美が妹の死に対して、初めはずいぶん会っていないから実感もない、と言っていたのに、ストーリーの最後でようやっと妹の死を「哀しい」と感じている描写があってぐっときた。喪った哀しみを強く、実感したところなのだと思う。強いインパクトがある映画ではないが、ずんとした余韻のある、人により受け取り方の変わる作品だったかなと思う。

追記

舞台挨拶付きの上映回を見たので、松井玲奈さんを肉眼でみることができた。圧倒的”美”に圧倒されつつ、麻奈美とその親友早苗の補い合う関係をプーさんとピグレットに例える「プーさん理論」を唱える独特さにくすっとした。今後の活躍も楽しみである。

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