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あのGHQが驚いた世界初の設備システム!?京都電燈ビルの設備のしわざを解説します

こんにちは、建築設備とロックを愛する男、りょうすけです!
今回も「設備のしわざ」をお届けしたいと思います。

コロナも自粛期間が明け、その後さらにずるずると自粛に近づくというとても不思議な状況。
東京では中止になったGoToキャンペーンの影響で、県外に出ていのか、それともやめたほうがいいのか、なんともモヤモヤした気持ちですよね。
僕は東京なので、引きこもりまっしぐらですが。。。

・・・ま、気を取り直して設備のしわざを紹介したいと思います!

今回は、日本の建築!現在も京都に残るビルをご紹介したいと思います。

知る人ぞ知る「京都電燈ビル」です!

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京都電灯ビル外観(出典:『伝熱』2019年10月)


この建物は、建築家・武田吾一の作品で、1924年に竣工したというもの。
半世紀以上たった今でも残っているのだから驚きです。

そして、実はこの建築、設備がすごかったんです!
設備界のすごい人物が関わっているという噂があるんですよ。。

さぁ、そんな知られざる一面を今日はじっくり見ていきましょう!

どんな仕掛けが取り入れられているのか、その設備のしわざに・・・
チューーーーン・アップ!!!(はぃ、前回から掛け声いれてます)

京都電灯ビルとは!?

まず設備を見ていく前に、恒例の建築紹介からはじめていきましょう。
京都電燈ビルはかなり古い建築で、京都駅前に現存していることから、「見たことあるぞ!」という方もいらっしゃるかもしれません。

設計は武田吾一です。
「それって誰?」という方のために簡単にご紹介!

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武田吾一の写真(出典:『新建築』1938年第14巻)

武田吾一は、備後福山(現・広島県福山市)出身で、「関西建築界の父」とも言われる日本の建築家です。
ヨーロッパ留学で影響を受けたアール・ヌーボー、セセッションなど、新しいデザインを日本に紹介した建築家とも言われるいるんです。なんともアクティブ!すごいですねー!

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武田の建築 求道会館の写真
(出典:『文京ふるさと歴史館だより』第12号)

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武田の建築 阿部家洋館の写真
(出典:『文京ふるさと歴史館だより』第12号)

建築以外にも工芸や図案・テキスタイルデザインなども手掛けました。
教育家としても知られ、京都高等工芸学校(現・京都工芸繊維大学)図案科や、京都帝国大学(現・京都大学)に工学部建築学科を創立し、向井寛三郎など多くの後進を育成したんです。

そんな武田が設計した京都電燈ビルとはいったいどんな建物なのか?

それは、今の関西電力が、京都府内および福井県の一部に電力を安定供給するための拠点となっていたオフィスビルで、とても重要なビルだったんです。
(京都府内と福井の一部って結構広大ですねー。)

現在では、ほぼ 100%自社のみで建物を使用しているようで、JR京都駅から見える外観は、数度の改修を経た現在も、竣工当初の面影を残したものとなっています。

柳町政之助とは?ー日本の設備技術の礎を作った人物

そんな京都電燈ビルの設備にかかわった人物はいったい誰だったのか??
聞いたことがない方のほうが多いと思いますが、それは、柳町政之助という人物!

柳町は、日本の空調冷凍技術の発展史そのもの!とも言えるほど、日本の最先端技術を取り入れ、歩んできた人物・・・。
まさしく今日の夏場の涼しさがあるのは柳町さんのおかげといっても良いかもしれません!
(ちょっと言いすぎかな・・・)

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柳町政之助の写真(出典:『空気調和・衛生工学』1985年5月)

そんな柳町は、1982年に生まれ、1913年に当時の東京高等工業学校(現:東京工業大学)機械科を卒業しました。
以前、代々木体育館の記事で紹介した井上宇市さんも、機械科出身だったので、建築設備の創成期の方々は、みなさん機械系の出身なのかもしれませんね!

https://note.com/rnomados/n/n97fd356363a1
以前執筆した井上宇市さんの代々木体育館に関してはこちら

卒業後は機械類を扱う大手商社・高田商会を経て、1920年から高砂工業(現:高砂熱学工業)に勤務しました。
現在の高砂熱学工業は、日本一の空調設備の設計施工会社であり、そんな会社の技術的な発展を支えた人物と言っても過言ではありません!
(自分の前職の会社より大きかったですねー。。。)

https://www.tte-net.com/index.html
高砂熱学工業のサイトはこちら

ヒートポンプ、蓄熱、パネル冷暖房、各階ユニット、ユニタリー空調、そしてターボ冷凍機の国産化など、常に空調の新技術、新分野の開拓者でした!

特に冷凍機は海外から様々なものを輸入し、建築にジョインさせていったと言われています。
また様々な建築の設備にも関わっていますが、日本銀行本店など、有名な建築もたくさんあり、京都伝燈ビルは彼の代表作の一つと呼べるものです。

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柳町のかかわった建築 朝日ビルディング外観
(出典:『伝熱』2019年10月)

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柳町のかかわった建築 名古屋大学豊田講堂外観
(出典:フリー画像PIXTA)

世界最大規模!あのGHQをもうならせたヒートポンプ冷暖房

最後に、待ちに待った京都電燈ビルの設備のしわざを見ていきましょう。

ここでは、世界で初めて「地下水熱源ヒートポンプチラー」を建物の空調に採用したという驚きの設備が使われているんです!

ヒートポンプチラーとは、水をはじめとした液体の温度をコントロールするための機械の名称です。
冷却器に水を循環させながら連続的に冷たい水を供給できるようになったり、温水を作ったりして、空調に利用します。

ヒートポンプチラーは熱を生み出す過程で、外気と熱を交換することで、温度をコントロールします。
しかし、今回の地下水熱源ヒートポンプチラーは、外気ではなく地下水と熱交換するというのが特徴です。
通常のヒートポンプチラーは外気と熱交換するため、外気に熱を放出し、ヒートアイランド現象などにつながっていると言われています。

地下水熱源ヒートポンプチラーはその点の懸念はなくなります。

地下水という自然エネルギーの活用は、現在SDGsなどへの注目からさらに注目を集めていますが、昭和12年に実現していたのだから驚きです。

現在の地下水利用の方法としては、同じようにヒートポンプを使って、地下水の熱を利用する冷暖房があります。
また、地下水のそのままの温度を利用して、輻射空調なども展開されています。

しかも驚くなかれ、現在の京都電燈ビルでも当時の計画思想が引き継がれており、改修はされていますが、約80年も同様の形で運用されているんです!
(僕も80年後に残るような設備を考えてみたいです。。。)

当時、チラーは日本国内では製作されておらず、アメリカからの輸入でした。うーん、時代を感じます。

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井水系統のシステム図(出典:『伝熱』2019年10月)

この社屋は、全館冷暖房完備だったため、第二次世界大戦後にすぐにGHQに一部接収されたとう過去があります。
高度で精緻な全自動で運転制御される冷暖房システムに驚いた米軍の技術者は、本国の空気調和に関する専門誌(現:ASHRAE:米国)に報告記事を投稿したほど。
なんと、GHQをもうならせたんです!!

実は、機能自体はアメリカ製だったんですが、それらを組み合わせたシステムは日本オリジナルのものだったんです。

自分の国で作られているものに驚くというのも、面白い話ですが(笑)、当時の最先端機器を、しっかりと機能する形で空間・建築に落とし込んだ柳町の技術と発想が、GHQ職員たちも驚くインパクトを生み出したんですね。

そんな設備の特徴としては、
①各階に空調機を設置しフロア別空調を完全自動化
②夏季・冬季および梅雨時期に快適な室内温度に自動的に調整
③電動機、バルブ、ダンパなどを遠隔制御監視盤により操作

のような、当時としては先進的な技術を採用していました。

このように今でも手本となるような環境性能の高い設備が80年ほど前に装備され、現在まで竣工時の思想を引き継ぎ運用されているという驚愕の設備だったんです。

設備というものは、単に導入して終わりというものではありません。
利用する人たちにどのような空間機能を提供するのかという設計、そしてそれを常に利用者や利用目的に合わせてアップデートしていくというメンテナンスの思考が大切になってきます。
そのような思想を長い歴史の中で体現しているなんて、設備設計士には熱すぎるストーリー!!


まとめ

京都電燈ビルの設備のしわざ、いかがでしたか?
柳町征之助という、日本の設備施工業界の礎を気づいた人物と、その技術が詰まったビル。
とてつもない設備のしわざだったのがわかりいただけたでしょうか?

本家アメリカの技術者をも驚愕させたその技術が、日本の設備発展の基礎をつくりながら、四季という難しい気候に対処するという日本独自の設備技術へと発展していったのです。
なんだか日本人として誇らしいですね!

柳町さん半端ないっす!そしてそれを協同で作り上げた武田吾一も!

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今回も余談ですが、当時の柳町さんの記事が載っている雑誌が、今はネットにて公開されており、同時の文章が読めるのが驚き!
http://www.shasej.org/gakkaishi/archive/pdf/SHASE19400700.pdf

昭和15年の資料ってだけで、ワクワクとヨダレが止まらない。
歴史研出身者の性ってやつですね(笑)

連載担当:りょうちゃん(高橋良輔 - Ryosuke Takahashi)
環境設計部統括/一級建築士。東北大学卒業、同大学院修了。(株)大気社、(株)イズミシステム設計を経て、NoMaDoS一級建築士事務所 を設立、取締役に就任。専門は、建築設備設計、省エネルギー計画。また省エネルギー届出・適合性判定・CASBEE届出の申請業務、ZEBコンサルティングなども展開。

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