「外見だけのイケメンじゃない!? 実は中身もイケてる奴だったロイズ・オブ・ロンドンの設備のしわざ!」
こんにちは!建築設備とロックを愛する男、りょうすけです!
ずいぶんサボっておりましたが、再びやってまいりました「設備のしわざ」。
ということで時間が空いてしまった間に、いつの間にかほぼ夏模様。
最近の夏は暑く、エアコンが欠かせなくなってきていますよね〜。
こんな時、建築設備あって良かったなーと実感しちゃいます。
そんで、ボクの設計した設備で誰かが涼をとって心地よい日常を過ごしているのかと思うと、優越感にダイブしてビッチャビチャになれちゃいます。
・・・ちょっと腹から黒いものが漏れちゃいましたが、そんなこと気にせず、今回取り扱う設備のしわざを紹介したいと思います!
今回は、はじめての海外建築。
みんな大好きリチャード・ロジャース設計の「ロイズ・オブ・ロンドン」です!
出典『a+u 1987年3月号』
いわゆる「ハイテク建築」という言葉で、日本では知られている建築であるロイズ・オブ・ロンドン。
数々の名建築作品を世界中でデザインし続けているロジャースの中でも、代表作と呼べるものと言われています。
「ハイテク建築」の名の通り、メカニカルでインダストリアルなカッコいい外観が特徴です。
しかし、その外観は、意匠性だけでのメカニカルさではないんです!
実は、しっかりと機能を持った設備が外観に現れていて、意匠と構造、そして設備が一体となっていて、建築の「外」そして「内」に設備のしわざが仕掛けられている建築だったんです。
外面だけの嫌なイケメンかと思っていたら、実は中身も素敵という無敵イケメンかもしれないロイズ・オブ・ロンドン。
どんな仕掛けが取り入れられているのか、その設備のしわざに・・・
チューーーーン・アップ!!!(今回から、掛け声使ってみよっと)
ロイズ・オブ・ロンドンはカフェから始まった!?
まず設備を見ていく前に、ロイズ・オブ・ロンドンに関する情報を見ていきましょう。
建築の分野に携わる人は知っている人も多いと思いますが、「建築?何それ、食えんの?」という人にとっては一般的でないかもしれません。
繰り返しになりますが、設計者はイギリス人建築家、リチャード・ロジャーズ。
そして建築自体は、1986年にイギリスのロンドンに建てられたロイズ保険市場のビルになる。
ロイズは法人化もされていますが、実は保険市場そのものを指すんです。知ってました?
その歴史は古く、1688年頃、エドワード・ロイドが開いた「ロイズ・コーヒー・ハウス」が原型となっているそう。
そう、ロイズ・オブ・ロンドンは、元々はカフェだったのです!(いや、これは言い過ぎだな)
そのコーヒーハウスに貿易商や船員などがたむろするようになり、始めは最新の海事ニュースを発行するサービスを行い繁盛したそうです。次第に保険引き受け業者(アンダーライター)が集まるようになったのをきっかけに、保険市場へと長い年月をかけて変わっていきました。
つまり、この建築自体が保険取引所、またはそこで業務を行っているブローカー(保険契約仲介業者)およびアンダーライター(保険引受業者)を含めた保険市場そのものという見られ方をしているんですね。
ていうことは、ロイズ・オブ・ロンドンのバックグラウンドは、日本で言うと「東京事変(いろんなバックグラウンドのメンバーが徐々に集まって結成されたバンドの名前)」みたいな感じだったってことですね!
(バンドの例え、そろそろキツくなってきたなぁ・・・)
不思議なコンペを勝ち取ったリチャード・ロジャース!
ロイズ・オブ・ロンドンの形状は、単純な直方体の内部に巨大なアトリウムをもたせ、その外部には6基の塔が不規則に配置されているというものです。
その塔の部分に設備やエレベーターなどが集約されている構成で、外部に設備を集約させることで、中心部は広大な執務空間となるように設計されています。
出典『a+u 1987年3月号』
この単一の広大な空間の中が「保険市場そのもの」を表し、利用のされ方としても様々な企業がその空間に広く配置されるというのが、コンペ時の建築要求の中でも重要になっていたらしいです。
ちなみに、設計者であるリチャード・ロジャースは大学卒業後、ノーマン・フォスターなどと共に「チーム4」という組織で活動したり、1977年には、ポンピドー・センターをレンゾ・ピアノと共同で設計した実績を持っているという建築界の偉大なスター。
出典『a+u 1987年3月号』
(チーム4って聞くと、大場美奈か峯岸みなみって人〜、同世代確定。)
このロイズ・オブ・ロンドンは、コンペ形式で設計者が決まることになっていたんですが、ロジャースだけじゃなく、同じチーム4の仲間であるフォスターもコンペに参加していたのだそうです。
自分が主役になれるオーディションだと思っていたロジャースが、フォスターもオーディションを受けに来ていたと知ったときの気持ち、計り知れないですね〜☆
面白いのが、コンペの成果物として、通常要求されるような図面(平面図など)は要求されていなかったんです。
詳しいコンペの内容や評価基準に関してはわからなかったんですが、どうやら「保険企業が一同に介する」というロイズの特徴を空間的にどう解決するのかという視点で行われたコンペだったようです。
とにもかくにも、今のコンペではありえない話ですよね・・・笑。
そんな変化球なコンペ、ビビって逃げ出す5秒前(BN5)状態に突入しちゃいますよ、普通。
見えるものは実はこれ!外部に露出する設備
このロイズで計画された、「設備を露出させる」というコンセプトは多くの方が知っているかもしれませんが、その露出した設備が実際に何なのかまでは、知っている方は多くないんじゃないでしょうか?
こんだけ振っといて見せないというハードロックプレイは、さすがに僕もできなさそうなので、実際に見えている「外」の設備と、見えない「内」設備システムを見ていきましょう。
ロイズ・オブ・ロンドン・ミステリーツアー、開始です!
出典『a+u 1987年3月号』
まずは、ロイズ・オブ・ロンドンの代名詞であるハイテクな「外観」から見ていきたいと思います!。
やはり、一番目を引くのは圧倒的な存在感を放つ「階段」・「エレベーター」・「筒状の設備」でしょう。
「筒状の設備」は、多くの方が配管かな?と思われることが多いかもしれませんが、実はこれ、空気の通り道「ダクト」なんです!
空調・衛生配管や電気配線のための配管などは、また別な場所に集約されています。
出典『a+u 1987年3月号』を元に筆者編集・作成
この平面図で見ると、よりファサード(外観)に出てくる部分にダクトがあり、配管は階段やトイレの隣に位置していますよね。
トイレなどの水周りの近くに配管の縦系統があるのは、実は設備的に非常に効率的な配置となっているんです。この図を見たときに、キラリと光る設備配置へのこだわりに、バンギャの如きトキメキを感じました!!
また配管・配線は、更新やメンテナンス頻度が高いもの。
そのため、メンテナンスできるように、近傍にデッキも備えていて、ダクトよりもファサードには出てこない仕様になっています。
一方、ダクトは配管に比べるとメンテナンスフリーに近くなります。
一部ダンパーと呼ばれる風量調整したりするものはメンテナンスが必要ですが、ダクト自体はほぼメンテナンスがいらないのです。
そのため、ダクト部分はメンテナンスデッキなどのないファサードに出しても、より影響が少なく、配管よりもボリュームがあります。
思い切ってファサードに露出させてしまうことで、設備特有のインダストリアルな意匠性を建物自体により強く与えることに貢献しています。
そして、次にご紹介するのは「内」の設備システムと「外」の設備の連関について。
出典『a+u 1987年3月号』を元に筆者編集・作成
ロイズ・オブ・ロンドンでは、屋上部分に空調機が配置され、そこから外観にそってダクトが各執務室まで降りてくるように設計されています。
そして外観を縦に降りてきたダクトはさらに外観に沿って横展開をして、部屋の床下に入っていくという構成になっている。
システム図と外観写真を合わせた資料を見るとわかりやすいく理解できると思います。
空調された空気(給気・サプライ)は床下に供給され、空調機に戻す空気(還気・レタン)は天井から窓面を通り、床下から戻っていく。
還気は窓を通ることで、外からの日射の熱を吸収する効果があるので、結果的に内部の冷房効果をより強めるという効力を発揮しています。
また、この空気の流れとガラスのカッティングなどにより、日射の光も反射しつつ、快適な光量を内部に導入する効果も与えているよう。
さらにさらに!
熱の負荷が多い窓周りには、専用のヒートポンプ空調機が床下に設置され、外からの熱の影響を、より遮断する効果を持っているんです。
出典『a+u 1987年3月号』を元に筆者編集・作成
このような建築全体における設備の巧みさだけじゃなくて、内部で使われるデスクもパソコンや電話などを収納するように効率よくデザインされているという徹底具合。
ケーブルのアクセスはもちろんですが、床からの空調の給気と合わせる形で、デスクトップパソコン用にデスク個別の空調ができるようになっているんです。
このような仕組みには、現代でも注目されるアンビエント空調の考えを見ることができます。
設備が意匠と融合!内部空間の匠さ
先ほどの章では、「内」の設備がいかに「外」の見える設備とつながっているかを見てきましたが、今度はより詳しいく内部空間についてご紹介していきましょう。
出典『a+u 1987年3月号』を元に筆者編集・作成
この図を見てみると、照明、空調、そして消火設備のスプリンクラーなどが、綺麗に意匠と一体となりおさまっているのがわかります。
現在でも「システム天井」がオフィスビルの流行になっていますが、現代にも通じる考えをいち早く実験的に取り入れている事例と言えるでしょう。
出典「大建工業株式会社HP」
しかしロイズ・オブ・ロンドンの場合、一般的なシステム天井よりも、よりメカニカルな印象を与える意匠となっていて、外部の意匠性のコンセプトともマッチするようにデザインされたのがわかります。
ロジャース、実験と徹底の鬼・・・!
出典『a+u 1987年3月号』
先ほど、床からの空調とデスクの関係性についてご紹介しましたが、実は天井だけではなく、床下もかなり多くの設備の通り道になっているんです。
また、現在ではCGによって、こういった設備の検討を行うことが多いのですが、当時は模型で行っていたというのも個人的には、面白いポイント!
出典『a+u 1987年3月号』
この模型が設計段階、施工段階、いつのものなのかまでは分からないんですが、仮に設計段階から、こういった設備と意匠をどう融合させるか、うまくおさめるかを検討する模型があったのであれば驚き!
設備まで模型でスタディするというのは、ボクは日本ではあまり聞いたことがありません。
(今度、試しに作ってみようかなぁ・・・)
・・・ヤバイ、ついつい話しすぎて、構造について触れる余裕がなくなちゃった・・・。
でも、ロイズ・オブ・ロンドンでは構造もうまく他の設計要素と融合するよう検討されているんですよ。
また今度、余裕があったらご紹介したいと思います!(許してね)
ということで、ロイズ・オブ・ロンドンの外観と内観、そしてその連関で施された仕掛けを見てきました。
このように、意匠・構造・設備がかなり高い水準で融合されていて、そのためにそれぞれの技術者が上手く連携を取りながら、計画の初期段階から関わっていたのでは?ということが分かる、非常に衝撃的な建築だったと言えるのではないでしょうか。
まとめ:
ロイズ・オブ・ロンドンの設備のしわざ、いかがでした?
「外」のメカニカルな外観に注目が集まることが多い建築かと思いますが、実は設備と意匠・構造の融合が考え込まれた建築だったということがお分かりいただけたでしょうか?。
床下空調やシステム天井、また空気の通る窓など、現在のビルでも共通する技術が山ほど仕掛けられていて、ボク自身執筆をしながら驚きの連続でした。
このような建築を作るためには、計画当初から設備設計者も関わるような、仕事の進め方での工夫が必要であると改めて実感しっぱなしです。
またそういった設計手法をとっていかなければ!と再認識。
いやぁ、ロジャース、融合度合いが半端ないってぇ!!
そして、構造と設備を支えた、アラップの技術も半端ないってぇ!!
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余談ですが、『a+u』を参考資料として用いたのですが、1冊まるごとロイズ・オブ・ロンドンの特集号があったんです。
月刊誌であるのに、一つの建物に焦点を当てた企画も斬新であることはもちろんですが、意匠だけでなく、構造・設備の解説も詳しくされているという構成に脱帽でした。。。
建築雑誌って・・・すげぇぜ。