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ルーキーが持つ「柔軟な思考」と「果敢な行動力」を取り戻す方法
本記事は、世界の経営思想家ランキングである「Thinkers50」に選出された経験を持つリズ・ワイズマン著『ルーキー・スマート』を参考にしています。
転職を控えており、良いスタートダッシュを決めるために本書を読みましたが、「仕事に慣れきってマンネリを感じている中堅・上級社員」や、「社員のマネジメントや学習、コーチング担当」にオススメされていいますので、ご興味があれば一読していただけますと幸いです。
概要
現代の知識産業では、複雑化と多様化が進み、短期的な成果が求められ、技術は次々と刷新されるような環境となっている。このような環境では、情報化以前に考えられていたほど”経験”は役に立たないばかりか、しばしば足を引っ張る場合もある。
本書では、過去の成功や経験がマイナスに働いている”ベテラン”から、新しい分野や職務に挑戦し、ベテランを追い越すような成果を次々と上げる”ルーキー”に生まれ変わることを目的としている。
どのような状況が人をルーキーにさせるのか、その状況でルーキーはどのようなマインドで課題に取り組むのか、そのマインドをすぐに実践に移すには具体的にどうすればいいのかを、4つのシチュエーション(本書では”モード”)から見ていく。
序章 いつまでもエネルギッシュでいるために!
本書のアイデアは、「ベテランよりもルーキーの方が高いパフォーマンスを発揮するシチュエーションを明確にし、"柔軟な思考"と”果敢な行動力”を身に付ける/取り戻す実践的な方法を解説する」というもの。ここで言うルーキーに年齢は関係なく、「その種の仕事を経験したことがない人」と定義されている。
3つのビジネス環境の変化
ベテランが精彩を欠くのは、次の3つのビジネス環境の変化に依るところが大きい。
大量化 ― 増え続ける情報
大量の情報化とデータサイエンスにより、世界はより便利になっている。しかし、我々の脳は狩猟採集時代から大して変化しておらず、増え続ける情報に対応できていない。これから重要になっていくのは、その中からいかに有益な知識・洞察・知恵を引き出せるかである。迅速化 ― 仕事のサイクルの加速
スマートフォンと(コロナウィルスによる)リモートワークの普及で、24時間365日、仕事と完全に離れることが難しくなった。また、製品の品質を一切落とすことなく無駄を徹底的にそぎ落とす「リーン」精神も追及されていることで、仕事のサイクルが加速している。知識産業では特に、個人の学習サイクルも加速させることが要求されている。短期化 ― 使い捨ての知識
様々な研究結果から、著者は「つねに更新し続けない限り、5年先も有用な知識は15%しか残っていない」と計算している。プログラミング業務をしていても、QAプラットフォームにある3~5年前の回答は参考にならないことが多いため、筆者もこれには同感である。
これからの時代に欠かせないスキル
このことから、個人が持つ知識には限界があり、また何でもかんでも学ぼうとすることは非現実的で非効率だということが分かる。これからの時代で欠かせないのは、頭の中に知識を蓄えておくことではなく、他の人たちの知識をいかに活用するかである。
卓越したリーダーや、抜けん出て早いペースで物事を学べる人たちは、みんなの知識をうまく活用する方法を知っている。ビジネス戦略の専門家であるジェニファー・サートルの言葉を借りれば、「知識経済では、水源であるより、水路であることの方が重要」なのだ。
第1章 ルーキーをあなどるな!
豊富な経験の意外な弱点
達人や職人の洗練された手さばき、齢を重ねた研究者の広くて深い知識、生涯を通じて得た英知を授ける宗教家の珠玉の言葉など、ベテランは魅力的に見えることが多い。
経験豊富な人ほど鋭い勘が働くと言われることも多く、火災現場に駆け付けたベテラン消防士、トラブルが発生した機体を操縦するパイロットなどが直感的に判断したことは、あとで正しかったことが分かる。
「1万時間の法則」という、物事の習熟に関する広く知られたアイデアがある。これは「1万時間の徹底した練習を行えば誰でも一流になれる」と、有名ジャーナリストのマルコム・グラッドウェルによって簡単にまとめられている。しかしこれは何にでも適用できることではない。
鈴木祐著『天才性が見つかる才能の地図』の中で、「1万時間の努力が報われるのはトレーニング方法が確立された分野で、その分野の専門知識を持ったコーチの指導を受ける必要がある」と書かれている。
予測不能で複雑化、多様化が進む現代では、1万時間の練習から受ける恩恵は少なく、現実には、仕事のスキルの大半は20時間程度で習得できるとビジネスライターのジョシュ・カウフマンは主張している。EUが2007年に行った大規模な職場調査でも、仕事の成果は本人が重ねた経験の量より、周囲の人々のスキルや技能を活用する能力に左右されるという結果が出ている。
また、アメリカの代表的な株式指数「S&P500」に入る企業を対象に行われた調査では、他企業でのCEO経験を持つ人がCEOである企業は、そうでない企業よりも業績が悪い、という結果が出ている。豊富な経験を持っていることの利点は、以前に考えられていたときよりも大きくなく、むしろ弊害が思いのほか大きいということである。
調査で分かったルーキーの実像
ここで主張したいことは、経験は無駄であるということではなく、「経験がない」ことにも利点はあり、それをもっと活用したほうが良いということである。著者のチームが400近い職場を対象に、高い成果を上げているルーキーとベテランのアプローチを調査した結果、次のことが分かった。
ルーキーも目覚ましい成果を上げる
幅広い業種を対象にするとベテランの成績の方が若干良かったが、知識産業に絞るとルーキーの成績の方が上だった。更に、イノベーションの達成と、業務完了までの所要時間においては、一貫してルーキーがベテランを上回った。ルーキーの成功の仕方はベテランと異なる
ルーキーもベテランも、失敗への道筋はだいたい似ていた(硬直マインドセットが大きな原因)が、成功への道筋は異なっていた。ルーキーは周りのスキルを上手に活用し、点と点を結び付けてものを考え、失敗から学び、徐々に前進することを重んじていた。ルーキーの行動は一般のイメージ通りではない
ルーキーは、
・ 他人の言葉によく耳を傾け、助力を仰ぐことを惜しまない
・ 知識が不足していると自覚しているため、学習ペースが速い
・ 慎重に行動し、利害関係者の意見を頻繁に聞いてリスクを最小限にとどめる
・ベテランよりも自己認識力が高い経験は危険な死角を生む
経験を重ね、行動や思考がパターン化してしまうと、新しい物事に目を向けること、他人の視点を理解しようとすることが少なくなる。
ルーキー・スマートの4つのモード
著者のチームが発見した、人が初めて経験する課題に取り組むとき、つまり、ルーキーのときによく示す思考・行動の4つのモードは以下。
「バックパッカー」モード
重荷を背負っておらず、何も失うものがない状態。新しい可能性を受容し、身軽に新しい世界を探し、一途に行動し、既存の成功パターンにとらわれず、新しい現実に適した新しいやり方を見つけられる。「狩猟採集民」モード
どう行動すべきかわからず、ノウハウもほとんどないので、周りの状況を理解しようと努めざるを得ない状態。周囲の状態に注意を向け、他の人たちからアドバイスを求めることで、目の前の課題に対処するためのアイデアや資源を得る。「ファイアウォーカー」モード
自信の無さから慎重に振舞うが、パフォーマンスを高めるために素早く行動する状態。自分のスペックを超える仕事に対して、信頼のおけるデータ集めを素早く行い、慎重な判断を下す。「開拓者」モード
誰もしたことがない、それもしばしば過酷であるような状況や課題に対して、アドリブを効かせ、最低限必要なものを確保するために奮闘し続けなければならない状態。潤沢な時間的・物理的資源がないため、最も重要なニーズを満たすために物事をシンプルにする。
上記の4つのモードは人をカテゴリーに分けているわけではなく、行動パターンを分けている、という点に注意してほしい。一人の人間が複数のモードや思考パターンをする場合も多くある。
ルーキーが得意とする場、そして環境とは
新しいフロンティア
ベンチャー企業やスタートアップが代表例。起業家やイノベーターといった職業にも適性がある。短いサイクル
長期的な思考ではベテランに軍配が上がる。しかし、ルールがころころ変わるような状況では過去の経験があまり役に立たないため、ルーキーが有利となる。複数の正解
創造力が求められ、複数の成功パターンがあり、業務の流動性が高い仕事に対して、ルーキーは適正がある。膨大な情報
大勢の情報を集約すると、ひとりが行う意思決定よりも優良な決定を下せるケースが非常に多い。思考と情報処理、活動の調整、権力などに依らない協力が求められる環境では、ルーキーが活躍するのに適している。新しい挑戦に挑むベテラン幹部
もっともパフォーマンスが高いルーキーは、職務経験の乏しい若い世代ではなく、聡明で経験豊富な幹部が新しい領域でリーダーを務めるケースである。
ただし、一度のミスが致命的なものになりかねないような状況では、ルーキーに任せることはしない方が良い。ルーキーを活躍させるならば心理的安全性を確保することが必要条件である。
第2章 バックパッカーになろう!
本章ではルーキーを「バックパッカー」、ベテランを「管理人」に例えている。
「管理人」から「バックパッカー」に変わるために
息抜きの為に行ったキャンプのはずが、持っていく荷物の多さと、それの準備と片づけのために、逆に疲労がたまるだけで終わってしまう事がある。
マネージャーもしばしば、これと同じような状態に陥ってしまう。本来であれば自分を勇気づけ、後押ししてくれるはずの"経験"が、逆に錨となりその場にとどまらせてしまうのだ。経験が前向きな気持ちを妨げるパターンは以下の3つ。
勝手に限界を決める
陸上競技ではしばしば「○○秒の壁」や「△△分の壁」といった、その競技の上限値のようなものが暗黙のうちに設定されることがある。しかし、ある日誰かがその壁を突破すると、続々と後を続くものが現れる。限界を決めてしまうと、本来だせるパフォーマンスを発揮できなくなってしまう。同じ道を歩き続ける
成功している経験豊富な人や企業は、過去の成功にとらわれて、慣れた身を選びがちである。歩くルートが決まってしまうと、そこには目に見えないフェンスが出来上がり、自由に歩ける場所にも足を踏み入れなくなってしまう。地位に固執する
成功を味わうと、人はその地位と立場を守ろうとする。善意のマネージャーでも、安定を維持し、勤勉なスタッフを守ろうとした結果、組織にとって必要な進歩とイノベーションを逃してしまう場合がある。
職場に必要なのは保護者でも管理者でもなく、バックパッカーのような人たちだ。現状という足枷に囚われず、すぐそこにある境界線の向こう側に足を延ばし、テキパキと探索できる人ことが求められている。
バックパッカーの3つの特徴
行動①新しい可能性を見る
ルーキーは、藪に潜む毒ヘビに気づかないまま平気で前を通り過ぎる人のような、ただ障害を認識できていないだけで、英雄的な挑戦を行っているだけである。良くも悪くも先入観を持っていない、ということだ。
根本的な問いを投げかける
ルーキーは、既存の知識や手続き、ルールに思考を制約されないので、物事の核心に触れる問いかけができる。ベテランも同じ問題を認識しているが、経験則などから、それをどうにもできない問題だと思う場合が多い新しいパターンを見いだし、誤りを発見する
著者が行った調査の結果、マネージャーが思う「経験が乏しい人の長所」で最も多かったのは、「様々な可能性にオープンなところ」であった。思考にパターンが形成されていない分、自由な発想ができる。逆に思考パターンが決まってしまうと、誤りを見逃してしまうことがある。
行動②新しい世界を探索する
人は知識が増え、成功を重ねるにつれ、手強いジレンマと直面するようになるが、ルーキーはそのジレンマと無縁でいられる。
近道を選ぶ
常識やルールに縛られないルーキーは、シンプルに、真っ直ぐ目的地を目指し、しばしばそれが最短ルートとなる。大きな望みを抱く
ルーキーは常識的な限界を知らないため、経験者よりも頻繁に、そして大きな成功をおさめる。予想のつかない行動をとる
まだ行動パターンが確立されていないルーキーは、予想のつかない行動をとり、それがベテランの隙をつき、さらにはその先に行く場合がある(これは強みにも弱みにもなりうる)。
行動③自分に正直に動く
名声を持たない人は自尊心に邪魔されず、失敗を恐れずに挑戦ができる。失うものがなく、これ以上は落ちようがないので、大胆に高い場所を目指せる。
大胆に行動し、素早く立ち直る
思い違いや無知による大胆な行動に失敗はつきものである。ルーキーはその失敗を素早く挽回しようと、問題の原因となった行動に劣らない熱量で修正する。この繰り返しにより学習が進む。情熱的に活動する
何も持たないで行う行動には人間の本質が出る。すなわち、遠慮がなく、例外がなく、限界のない行動である。
バックパッカーになるための具体策
あるビジネススクールの有名教授は、大志を抱く学生に対して、「大きなことを成し遂げたいなら、自分を縛らないことだ。長年のリーダーたちにアドバイスを求めれば、そのリーダーたちの利害に沿う行動しかできなくなる」という助言をした。では、どうすれば経験という足枷にとらわれず、成功の罠から抜け出せるのか?
素朴な問いかけをする
関係者の意見を聞くときは、新人がするような素朴な問いを発すること。無知だと思われたくないからと、質問することをためらってはいけない。ただし、準備不足が透けて見える質問はしないこと。過去をすべて消去する
仕事を一定の期間単位で考え、その期間が終わった時点で「成功」か「失敗という1つの経験」かをはっきりさせたら、あとは過去をすべて消去する。「モンキー・トラップ」を抜け出す
箱の中にはバナナが1つの入っている。手を入れられるだけの幅はあるが、バナナを掴んでしまうとそれが引っかかってしまい、手が抜けなくなる。このような罠に引っかかってはいけない。何を手放せば、現状から抜け出すことができるだろうか?
第3章 狩猟採集民になろう!
「現地旅行ガイド」から「狩猟採集民」へ変わるために
私たち慣れた方法や手っ取り早い方法に頼り切り、正解をすべて知っているかのように錯覚してしまう。そうなると、他人に質問したり、導きを乞うたりせず、"問"そのものが変わっていても気づかない。
このように「自身」が「過信」に変わった人には、次の傾向がある。
知っている情報を補強するデータばかり集める
認知心理学ではこの傾向を「認知バイアス」と呼んでいる。これは、人が自分の信念や意見を支持する情報ばかりを重視し、それに反する情報を無視したり軽視したりする傾向のことを指す。「同族」の中に閉じこもる
「類は友を呼ぶ」という言われるように、人間は自分と似た人に親しみを覚えやすいということが科学的に証明されている。馴染みのあるコミュニティにいるのは心地よいが、それでは新しい考えや視点を取り入れることができなくなってしまう。自分の知識をそのまま拡散する
パラダイムシフトを起こさせるような情報に触れない人は、往々にして自分の考え方をそのまま発信する。新しい情報に合わせて意見を修正することがない。
狩猟採集民の2つの特徴
狩猟採集民は大自然の中を、動物を狩ったり植物を集めたりして、常に移動しながら生活している。約250万年前までは人間はみな狩猟採集民だったが、農耕が始まったことでその生活が一変し、決まった場所での定住生活が始まった。狩猟採集民の関心は外向きなのに対し、農耕民の関心は所有する資源の維持管理に対して重きが置かれるようになった。
ルーキーは今も狩猟採集民のように振る舞っている。資源や専門知識を持っていないので、それを守ることも頼ることもなく、常に外側の知的資源に関心が向ているからだ。狩猟採集民モードのルーキーには次の3つの特徴がある。
行動①取り巻く世界を精査する
情報を素早く知恵に転換させるには、まずはデータ収集から始めなければならない。これには自分の知識が十分ではないという自覚がないと行うことができず、古代ギリシャの哲学者エピクロスも「すでに知っていることを学ぼうとする人はいない」といっている。
実際に著者が行った調査でも、自分には学ぶべきことがあると思っている人の割合は、ベテランよりもルーキーの方が2倍近く多かったらしい。インターネットでのデータ収集であれ、有識者への質問であれ、外側に向けた姿勢はルーキーの強みである。
行動②専門家を探す
著者が行った調査の結果、ルーキーが他人に頼る確率は、ベテランよりも4倍ほど高かったらしい。スティーブ・ジョブズも、自身の成功の要因は、常に他人に頼ってきたことだと話している。
「無知の知」と、その弱さを受け入れられているからこそ、何のためらいもなく他人に頼ることができるようだ。
狩猟採集民になるための具体策
視点を変えて、新しい情報源から学ぶために役立つ手法は以下。
ルーキーだった頃の自分を思い出す
初めて仕事に就いたとき、あなたはどのように感じ、行動し、仕事にアプローチしただろうか。専門家のアドバイスを求め、専門家のネットワークを築く
自分の専門分野の課題可決に取り組むとき、すぐに始めることはせず、まずは最低5人の専門家に意見を求めてみよう。新しいアプローチを見つけられるまで、質問を続けよう。部下にメンタリングをしてもらう
自分より若く、経験の乏しいルーキーが、どのように考え行動するか教えてもらおう。見知らぬ人と話す
情報のフィルターを取り除き、自分とは違う考え方を検討しよう。地図を作る
プレイヤーは誰か、ゲームのルールはどうなっているか、そこの文化で重んじられている要素は何か、誰と連携できるのか、顧客はどこにいるのか、行き詰ったときに助けてくれる専門家は誰か。こういったことを明らかにしよう。期間限定で誰かと仕事を交換する
自分と専門分野が隣接する同僚と、1日~2週間程度仕事を交換し、新しい発見をし、ルーキーのような素朴な疑問を持とう。
第4章 ファイアウォーカーになろう!
「マラソンランナー」から「ファイアウォーカー」へ変わるために
物事を習熟し、好成績の連続が始まると、人は未来を楽観視してしまう。未来は現在の延長線上にあると考え、一定のパターンに沿って同じことを繰り返す。変化のない環境であれば問題ないが、そうでないならば大惨事になりかねない。
昨日までの達人が、愚図で、硬直して、ピントのずれた存在に成り下がってしまうことは往々にしてある。やるべきことは一応やっても、それは惰性でしかなく、手足は動いても頭は死んだも同然である。この状態に陥ったベテランは、以下のような行動をしがちである。
大股で歩く
周囲の人たちとすり合わせをせず、耳を傾けない完走できるペースで進む
長距離走を前提に行動するため、敏捷な人や急いでいる人にあっさり追い越されてしまう素晴らしい仕事ぶりだと思い続ける
状況が変わっても気づけないため、軌道修正に役立つ情報をキャッチできない
ファイアウォーカーの3つの特徴
傑出したパフォーマンスを発揮するルーキーは、組織のメンバーに評価されることを願い、あらゆることを何度も試しながら前進し、関係者の考えを把握しようと懸命に学習する。そうしたルーキーの行動には以下の特徴がある。
行動①計算された小さな動きをする
知識不足を埋めようとするルーキーは、初めての場で正しい進路を見出すために、あらゆる感覚を動員する。思わぬ障害にぶつからないように、周囲に細心の注意を払い、未知の領域について回るリスクを緩和できるように、慎重に行動する。
行動②素早く結果を出す
知識とスキルの不足を自覚しているルーキーは、早く前に進もうとする。著者の調査によれば、迅速に結果を出すことに関して、ルーキーはベテランよりも60%も高い評価を得ている。
ただし、猛烈な勢いで飛び出したルーキーは方向性を間違えるリスクと隣り合わせである。真に解決すべき問題を解決する確率は、ベテランの方がルーキーよりも2倍ほど高い。
短期的な結果を求める傾向にある昨今では、これは長所にも短所にもなりうるということは肝に銘じておく必要がある。
行動③フィードバックとコーチングを求める
ルーキーは、未知の世界を慎重かつ迅速に歩むとき、自分が正しい道を進めているか確認するために、絶えずフィードバックを求めている。
ファイアウォーカーになるための具体策
ファイアウォーカーになるためには、必ずしも焼けた石炭の上を歩かなければならないわけではない。炎に近づき、慎重にリスクを背負うだけでも十分に効果的である。
米マイクロソフトエンジニアである牛尾剛の著書『世界一流エンジニアの思考法』や、『Googleのソフトウェアエンジニアリング』という本の中では、「Fail Fast」や「失敗は1つの選択肢である」といった、それぞれの組織の失敗に対する捉え方が解説されている。一流のエンジニアも、リスクとうまく付き合うことで、トップクラスの成果を上げているということだ。
安全に失敗し、その経験から確実に学習するには、以下の方法を実践するとよい。
リスクを恐れないように、実験の場を決める
自分の仕事を「失敗が許されない仕事」と「失敗しても挽回できる仕事」で区別し、後者を遊び場として試行錯誤を繰り返す。現場で手を真っ黒にする
炭坑では、石炭が掘り出される最前線を「コール・フェイス」という。そこでは人々が手とかおを真っ黒にして働いている。知識産業においても、顧客や利害関係者、部下のニーズを一番把握できる最前線で働くようにする。
第5章 開拓者になろう!
本章では、次の問いに対する答えが回答されている。なぜ経験不足に背中を押されて未知の正解に乗り出し、新しいフロンティアに辿り着ける人がいるのか。その一方で、なぜ快適な場所に腰を落ち着けてしまう人がいるのか。
「定住者」から「開拓者」に変わるために
ベテランは確実なものを選んで、前例を踏襲する傾向にある。同じレストランで毎回同じメニューを頼むようなもので、大きな失敗はないが、大きな成功もない。こういう人は、次のようなパターンに陥りがちになる。
すでにある物で満足する
例えばミニマリストのように、物の少ない暮らしをしたいのであれば、これはむしろ重要な精神性である。ただし、仕事で大きな成果を得たいのであれば、すでにあるモノを手放してでも、新たなモノを得るリスクは取らなければならない。決まった手順に従う
ベテランは、今の手順に不満や改善点があると感じていても、それを実行には移さない。それに対してルーキーは、正しい方法をゼロから確立しようとする。快適ゾーンにとどまる
快適な環境を作り上げた者は、外の厳しい環境に出ていく勇気が出にくくなる。
開拓者の3つの特徴
行動①新しいツールや仕組みを作る
開拓者はたいてい、その日その日を生き延びるために必要なものをかき集めながら生きている。
行動②アドリブで行動する
「資源がなければ、人は知恵を絞るようになる」と、NASAの元ロケットエンジニアである、K・R・スリンダーが述べている。また、ジョン・ブロックマン著『天才科学者はこう考える 読むだけで頭がよくなる151の視点』では、「制約があると創造性が上がる」という考えが紹介されている。ルーキーはベテランよりも資源不足であることを自覚できており、それが創造性を高め、アドリブ力を引き出している。
行動③猛烈に努力する
フロンティアの奥深くに潜り込んだ人は、障害をはねのけて前進する以外に方法がない場合が少なくない。
開拓者なるための具体策
自分をあえて資源不足にする
途方もなく手強くて、居心地悪い仕事をしているときに、最も質の高い仕事ができ、キャリアの中でも最も大きな成功を収められる場合がある。違う分野や違う職務、今の自分では力不足な課題に、勇気を出して挑戦してみること。「半分エキスパート」になる
エキスパートになるには時間と労力がかかる。しかし、意識的な問いを発すれば、短期間である程度は学べる。物理学者や経済学者を演じる役を務めるなら、何を知っておくべきだろう、どの程度知識があれば務まるだろう。常に自分を問題に縛り付ける
教えるだけでなく、学習しなければならない環境に身を置く。また、既存で周知だが、誰もが見て見ぬふりをする問題から目を離さない。
ここまで紹介してきた4つのモードを基礎として、次の記事ではより実践的な内容を紹介していきたいと思います。