Aya Nakamuraとパリ・オリンピック(続)
フランスのシンガー、アヤ・ナカムラがパリ・オリンピックの開会式でパフォーマンスすることが伝えられて国中で大問題になっている、というnoteを書いたのが3月のことでした。アヤ・ナカムラを巡る基本的な文脈はこちらを参照していただければと思います。
あれから4ヶ月、紆余曲折を経ながら無事にステージを成功させたアヤ・ナカムラ。
さすがオリンピックとあって、アヤ・ナカムラを全く知らない人に一気に届いたインパクトは大きかったようです。
フランスがオリンピックを開催するまでに大きな問題となったのが、極右の躍進が予想されていた7月初頭の総選挙。
アヤ・ナカムラは、特定の問題には関わらないというそれまでの自身のスタンスを覆して極右への反対投票を呼びかけています。
選挙にあたってはサッカー選手のエンバペらもコメントを出しており、アヤ・ナカムラもオリンピックという場で「フランス」を代表する立場になり心境の変化があったのではないでしょうか。
オリンピックが近づくにつれて日本語でもアヤ・ナカムラに関する記事が増えていたので、少し見てみましょう。
ルペンの「他の国の言語の歌ですらない」というコメントは笑ってしまいますが、移民系のフランス人にとっては笑い事ではありません。
フランスでは「正しいフランス語」の規範がとても強く、アヤ・ナカムラに代表されるような言葉遣いを「フランス語」として認めない人が多数存在する一方、近年のフランスの音楽シーンで国境を越えた大成功を収めたミュージシャンはダフトパンクなど筆頭にほとんどが英語で曲を作っており、文字通り「フランス語で歌っていない」というねじれがあります。
「フランス語」で歌っているフランスを代表するシンガーといえばそれこそ世代を遡ったエディット・ピアフやシャルル・アズナヴールであり、開会式ではレディ・ガガに頼らなければいけないというのはフランスのひとつの現実ではあります。
そんな中、オリンピックのパフォーマンスで話題を呼んでいるのがこちら。
"Je ferais bien d'aller choisir mon vocabulaire, pour te plaire, dans la langue de Molière"、あなたを喜ばせるためにモリエールの言葉から選びましょう、というような意味の一節を歌っています。
モリエールはフランスを代表する17世紀の劇作家であり、「アヤ・ナカムラはフランス語で歌っていない」と批判する人たちへの大胆なアピール(当てつけ?)になっています。また、モリエールが重々しい悲劇よりも風刺を効かせた喜劇を得意としていたというのもいいですね。
そして何よりこの一節自体が先ほども名前を挙げたフランスを代表するシンガー、シャルル・アズナヴールの「For Me, Formidable」という曲からの引用になっています。(もっと言えばアズナヴール自身もコーカサス系の移民二世に当たります。)
移民とフランス語を巡る問題をフランスの古典からの引用で鮮やかに切り返したアヤ・ナカムラのパフォーマンスは今のところ概ね好意的に受け取られていると言っていいでしょう。
何はともあれ、ここ数ヶ月の騒動を考えれば開会式が無事に終わったのは良かったことでした。落ち着いてきたら現地でもまたいろんな記事が出て評価も評判も固まってくるでしょうから追っていきたいと思います。では。