Nas『Illmatic』30周年記念に思い返す、20周年記念ライブ
Nasの『Illmatic』30周年を記念してDJプレミアとタッグを組んだ新曲「Define My Name」がリリースされましたね。
曲の終わりで「It's Album Time」とシャウトしているのでジョイントアルバムも期待されます。
Nasは最近、2023年にリリースした『Magic 3』からのMVを立て続けに公開しており、個人的にも聴き直す機会が多くNas熱が高まっていたところでした。
DJプレミアといえばスヌープ・ドッグとも新曲を制作しています。プリモは今年で58歳を迎えましたが音楽へのモチベーションがまた上がってきているようで何より。
NYのヒップホップレジェンド繋がりでいうと、ピート・ロックはコモンとのジョイントアルバムを準備しているようでこちらも楽しみです。
話をNasに戻すと、2014年に行われた『Illmatic』20周年記念ライブがストリーミングで聴けるようになっていました。
リリースは2018年と書いてあるので自分が長らく気づいていなかっただけなのですが… (Apple Musicではふつうのアルバムとライブ盤は別々のリストになっているのです)
この『Illmatic』20周年記念ライブはワシントンDCの由緒あるコンサートホール、ケネディセンターで行われ、ワシントン・ナショナル交響楽団との共演で『Illmatic』の楽曲がアルバム収録順通り「The Genesis」から「It Ain't Hard To Tell」まで余さず披露されています。
そして、これがわたしがこのライブを聞きたかった大きな理由なのですが、このフルオーケストラのために『Illmatic』を編曲したのがロバート・グラスパー・エクスペリメントの初期ベーシストとして有名なデリック・ホッジなのです。
オーケストラのために1分近いイントロが追加された「N.Y. State Of Mind」。かっこいい。
デリック・ホッジはジャズベーシストとしてキャリアをスタートさせていますが、コモンやモスデフとの共演のほかマクスウェルのバンドの音楽監督を務めたり、スパイク・リーの映画に作曲家として関わったりと、才能を活かして多彩な黒人文化を繋げていくような活動を続けています。
『Illmatic』全曲披露が終わったあとの「Made You Look / One Mic」。観客撮影なので音も映像も荒いですがベースを弾くデリックの姿がよく確認できます。
デリック・ホッジは3月に公開されたヤング・ジージィのタイニーデスク・コンサートでも音楽監督として編曲を担当しており、無骨で勢いある南部ヒップホップと繊細なストリングスを融合させています。
Dr.ドレが出演した2022年のスーパーボウルでもオーケストラの編曲をしているデリック。ここでは多いとはいえない黒人のオケ指揮者とも共演しています。
ジャズ×ヒップホップの文脈ではロバート・グラスパーの名前がまず挙がりますが、裏方としての編曲家仕事などを見ていくとデリック・ホッジのほうが重要人物では?と思うこともしばしば。
ヒップホップ×オーケストラではカニエ・ウェストが2006年に試みた『Late Orchestration』がありますが、いま聴くと単にバッキングとしてオーケストラを加えただけで、1+1=2以上のものにはなっていないようにも聴こえます(当時としてはオケとの共演ライブ自体が異例であり攻めに攻めた企画だったわけですが)。
Nasの『Illmatic』20周年記念ライブがただの足し算に終わらず素晴らしいものになったのは、オーケストラ用の編曲をする側の音楽家が白人音楽としてのクラシックだけでなく、デリック・ホッジのようにヒップホップも肌で理解している人間へと変わっていったことが大きいんじゃないかと思います。
こちらではエミネムのオーケストラアレンジなどを担当し、最近ではカマシ・ワシントン・バンドのトランペッターとしても活躍するドンテ・ウィンスローについて書いています。合わせてぜひ読んでみてください。