『シビル・ウォー』とテキサス共和国
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』がまもなく公開されますね。
「内戦が勃発した合衆国」という設定が現実世界の緊張の高まりと相まって話題となっていますが、当初から突っ込まれまくっているのが「カリフォルニアとテキサスが同盟を組んで連邦政府と戦っている」という点です。
こちらの引用は公式サイトから。
なぜカリフォルニアとテキサスとの同盟設定が突っ込まれるかというと、現実世界ではカリフォルニアは民主党、テキサスは共和党それぞれの強固な牙城であり、両者が手を組むなんてとてもじゃないけれど考えられないからです。
ここで注目したいのが両州のバックグラウンド。
カリフォルニアはシリコンバレーとハリウッドを抱え、リベラルな価値観が行き渡り、全米でもトップクラスに裕福な州です。それゆえに独立を望む声は以前からあったのですが、トランプ政権下で強まっていった経緯があります。
そして、実は同じように独立志向が強いのがテキサス州です。
しかしカリフォルニアと異なるのは歴史的経緯。カリフォルニアがメキシコ領土だったのを合衆国に編入されたのに対して、テキサスは「テキサス共和国」としてメキシコから独立した上で、その後に合衆国に加わっています(1845年)。
つまりアメリカ合衆国の州のなかで唯一、独立国家だった歴史を持つのがテキサスなのであり、そのバックグラウンドが現在にまで影響を与えているのです。
もうひとつ注目したいのは、合衆国内での人口移動。テキサスはもともと宇宙や半導体に強みをもっていましたが、イーロン・マスクが拠点をカリフォルニアからテキサスに移したことに象徴されるように、近年はテクノロジー産業の集積が一層進んでいます。
マスク本人はトランプ支持で有名ですが、テスラやスペースXで働くような人たちも共和党支持かといえばそうとも言えないのが実情のようです。
以上のようにテキサス共和国としての独立志向とテクノロジー産業の隆盛とを考えると、単純に「カリフォルニアとテキサスが組むのはありえない」とは言えないのではないかと思えてきます。
また、『シビル・ウォー』で描かれているような内戦が引き起こされる原因のひとつには、「合衆国憲法に州の離脱に関する条項がない」という事情もあるようです。
と、ここまで現実の情勢について書いてきましたが、英語圏のレビューを見ると『シビル・ウォー』内ではこういった背景説明はほとんどされておらず、なぜ内戦が始まったのか、なぜカリフォルニアとテキサスが手を組んだのか、といったことにも触れられずにストーリーが進行していくようなので、鑑賞後にまたいろいろと考える余地がありそうです。
派手なイメージに反する淡々とした戦闘の描写はイラクでの爆弾処理班を描いた2008年の傑作映画『ハート・ロッカー』とも比べられているので、公開を楽しみに待ちたいと思います。