『岩壁音楽祭 2022』、芸工大生が手がける“フェスの空間デザイン”に込められた想い
9月17日(土)山形県瓜割石庭公園で開催される『岩壁音楽祭 2022』!
岩壁音楽祭は“オープンソースなフェス”としてフェス開催のリアルな内情を公開中。2019年は運営メンバーのコラム形式で発信しておりましたが、今年は今年度から運営メンバーに参加した筆者が運営メンバーにインナーインタビューする形でも、知見を発信していきます。
前回は『岩壁音楽祭 2022』のキービジュアルについてインタビューを行いました。
今回は『岩壁音楽祭 2022』で空間デザインを手がける勝又なつほさん、阿部大雅さん、市川直樹さんの3名に、空間デザインに秘められたコンセプトや想いを聞きました。
“四角”から構想した空間デザインコンセプト
──初めに、3人が普段大学で学んでいることについて教えてください。
勝又 デザイン工学部建築環境デザイン学科4年の勝又なつほです。建築設計と環境計画にコースが分かれていて、エコタウンやリノベーションのような環境に配慮し快適に暮らすことについて勉強しています。木を学ぶために杉林に木を切りに行ったり、遊歩道を作ったりと実践的なことも行なっている学科です。
阿部 デザイン工学部プロダクトデザイン学科3年の阿部大雅です。インテリア空間専攻で、商業空間や飲食店のデザイン、内装、サービスなどをインテリアの視点で学んでいます。今後は専攻の中でもカラー空間のコースに進む予定で、色を使った空間の提案や実践的な空間演出に取り組んでいこうと思ってます。
市川 デザイン工学部プロダクトデザイン学科3年の市川直樹です。これまで製品系の演習を多く取っていて、家具専攻に進もうと思っています。例えばハンドクリーナーや家電製品のデザインを考えたりしていて、これからは木工製品をより深く学んで行く予定です。
──本当にいろんな分野を学べる大学なんですね。岩壁音楽祭チームに入ったきっかけを教えてください。
勝又 元々運営チームに入っているかしわ(芸工大4年生。岩壁音楽祭のスチール撮影担当)と今年『Cloudy Convenience Store』という展示を行っていて、そこを手伝ってもらっていたキービジュアル担当のけやきちゃんから誘ってもらったんです。実は私、初年度から岩壁音楽祭にすごく行きたい・運営メンバーに入りたいって思っていて。ただ当時は1年生で土地勘もなく、どうしたらその輪に入れるのかわからなくて。だから誘ってもらえて嬉しかったです。
阿部 けやきちゃんがインスタストーリーズに岩壁音楽祭のことを上げていて、面白そうだなと思っていました。その中でかしわさんに岩壁チームとの芋煮会に誘われて。そこで運営メンバーと初めてお会いしました。後日、なつほさんが空間デザインをやることになったと聞いて、僕もそういった領域を学んでいてやってみたいと思い、自分から志願してチームに入った感じです。
市川 僕も基本的には大雅と一緒で。元を辿れば、展示会が縁で繋がりが生まれたのかなと思ってます。今年3月に大雅と『蛾利8乗』という展示をやったのですが、かしわさんもなつほさんも来てくれてそこで知り合ったので。
勝又 めっちゃ展示会繋がりなんですよ。その展示会に行ったことがきっかけで、大雅くんと直樹くんに私たちの展示も手伝ってもらって。手伝ってもらってる日に上田さん(岩壁音楽祭初期メンバー)とミーティングしてて、その場で話して2人もslackに加えてもらいました。
──芸工大生の繋がりは展示会から生まれてるんですね。3人が今回の空間デザインをメインで担当しているけど、改めて担当領域と全体のコンセプトを聞かせてもらえますか?
阿部 なつほさんは会場全体を担当していて、僕と直樹はPIXELエリアを担当しています。僕たちが作っているのは主に「正方形のキューブ」です。
初年度の『岩壁音楽祭 2019』ロゴも正方形をモチーフにしたもので、僕も元々“岩・石”、“岩壁”、“石庭公園”という言葉・字面から四角のイメージを持っていて。また瓜割石庭公園を調べている中で、石工が石切場から四角い石を切り出していたという論文を読んで、よりそのイメージが強くなっていきました。
また『岩壁音楽祭 2019』のロゴに使われている四角や5色は、岩壁音楽祭のスタッフに色々な職業・学業の人がいて、東京や山形など住んでいるところもバラバラだけど“岩壁音楽祭を通して繋がっている”ことを表現していると聞いて。今年の「Spectrum(スペクトラム)」という境界がなくなり繋がっていくテーマも含めてすごく面白いな、自分達で表現したいなと思いました。
自分達はそれを正方形のキューブに落とし込み、数もたくさん作る予定です。“四角”の1個1個を人として捉え、一人一人の存在、その全てに色があることを表現する空間を作りたいなと考えています。
最初はアート的な視点でキューブを何個も積み上げたオブジェを作ろうとしていましたが、それだけだともったいないんじゃないかと感じて。せっかくならフェスだし座れた方がいいのではということで、機能性も持たせることにしました。
岩壁音楽祭のコンセプトが人と人との繋がりを大事にしているという点からも、お客さんが自由に動かせてみんなで一緒に空間を作っていく形にできればと思っています。基本的にはPIXELエリアにたくさん置くのですが、ほかエリアにも配置することで、エリア同士の繋がりも持たせられたらなと。
キューブを集めたオブジェは入口付近のスペースに置いて、“四角の原点”というか、生まれた場所みたいにできればと思ってます。
勝又 コンセプトは、自分たちの中で共有していく中で出来上がってきたものです。本当に、めっちゃ喋ってて。3人でのLINEグループがあるんですけど、私は思いついた時に全部送っちゃう。で、2人とも全部返してくれて、「自分はこう思う」「この方がかっこいい」「でも私はこっちの方がいい」とか。
最初はアート的な思考が強くて、それを私が崩してしまったなって感じはあって。やりたいことから遠ざけてしまったような気がしてたのですが、キューブをお客さんが好きなように形を変えながら使っていくこと自体に私はすごく作品性があるんじゃないかと思って。インスタレーション的な視点で見るとアート作品かなって思ってます。キューブは突飛な形をしているわけではないけど、そこに可能性がたくさんあると感じてますね。
市川 コンセプトについてはなつほさんと大雅がすごく考えてくれて。僕は実際どういう形で作るのがいいか、素材はどれが現実的かなど、それをどう実現したらかっこいいか考えてた感じでしたね。最初鉄でやりたいねって話もあったんですが、コストや時間的に厳しく木材にシフトして。四角のバリエーションも色々考えたり格子状に積み上げていくアイデアもあったりして、ここに辿り着くまでに色々考えてきたなと思います。
演出、照明、ワークショップ。気持ち良い環境を追求する舞台企画
──3人それぞれの役割が明確で、ディスカッションして作り上げているのが素晴らしい。PIXELというエリア名も大雅くんが考えたんですよね。
阿部 PIXEL=ピクセルとはコンピューターで画像を扱うときの色情報を持つ単位のこと。四角いピクセル一つ一つに色があり、集まって初めて一つのモノになるというのが今回のコンセプトに近いなと思い、命名しました。
──なるほどなるほど。なつほちゃんは空間演出全般を手がけてるんですよね。
勝又 そうです。上田さんが私の役割を「舞台企画」と呼んでいて、それがしっくりくると思っています。自分たちがやりたいことが先走りすぎてお客さんが過ごしにくい環境にならないように、私が普段考えている人との関わり方や建築的な思考をうまく使って、お客さんが気持ちよく過ごせる空間を考えていきたいと思っています。キャンドルワークショップを提案し、Shimoda Hana ちゃんに声をかけたのですが、そうしたことも空間づくりの中で重要かなと思い企画しています。
WALLエリアはステージをお客さんが3方向から囲む設計で。音響さんや技術チームともミーティングを重ねていて、「ここに何が置いてあってお客さんにはこう聞こえる」などプロフェッショナルの話を色々聞かせてもらっています。全ての関係がいい感じに中和する形にしたいなと。
WALLエリアのステージデザインについては、装飾を手がける「𝐋𝐎𝐘𝐀𝐋𝐓𝐘 𝐅𝐋𝐎𝐖𝐄𝐑𝐒」ハシグチさんと進めているところです。直樹くんや大雅くんが考えてくれているPIXELの要素は絶対に入れたくて、ステージも正方形なのでその中で四角を突き破るようなイメージをハシグチさんに考えていただきたいなと思っています。ハシグチさんも、これまでの経験や現場で学んだことをすごくたくさん話してくださって。花だけでなく様々なアイデアをお持ちの方で、本当にワクワクしています!
──どんなステージになるか本当に楽しみ。舞台のモデリングもなつほちゃんがしてくれたんですよね?
勝又 そうですね、CADでモデリングして位置を調節して。あと図面も書きました。配置は「ここら辺」などとは決まってましたが、具体的に「ここから何メートル」とは決まってなかったのでそこを考えたりして、すごく時間がかかりましたね。
モデリング作業はすごく好きなのですが、ソフト的に結構やりにくい部分もあって。直樹くんが細部の制作が上手いので、そこはお願いしたり。作り始めた時は自分1人だったんですけど、最強のメンバーが入ったので、頼らせてもらってできてる感じですね。
市川 なつほさんの使っているソフトは空間を広い範囲でモデリングするのに長けてて、僕のは腕時計など細かいものをモデリングするのに向いてて。トラスっていうステージの柱に使っている黄色い装飾のモデリングは僕が作ってます。
──他にはどんなものを製作中ですか?
勝又 CAVEエリアのバーカウンターもキューブを使って作ろうって話になっています。
市川 あと、たくみ(芸工大・プロダクトデザイン学科3年)を中心にセメントでの照明作りを実験しています。会場には電源がないのでそこが難しいところですね。
──本当にいろんなものを準備してきましたね。当日が楽しみ。
勝又 私も本当に楽しみです。自分たちがどこまでやれるのか、それをお客さんたちがどう使うかをずっと観察してたい(笑)。
──最後に当日に向けて意気込みをお聞かせください!
勝又 多分この3人も得意なものが一緒ではなくて。みんな得意なものが違う中で、強いエネルギーを持ってぶつけ合うことができるとすごく感じてるので、みんなでやっているものですが、一人一人が「自分が中心になってやってる」くらいの意気込みがいいんじゃないかと思っています。
2人はいつも製品と向き合いながら取り組んでいると思いますが、私は人と向き合うことが多く、人と向き合いたくて建築をやっているので、人と空間がどうなったらベストに馴染むのか・溶け合うのかを考えています。作ったものに対して使いづらさ・難しさがないように、凝りすぎないこと・気軽さを大事にしたいなと思っています。
岩壁音楽祭に参加する意義として自分自身が取り組むのもそうですが、周りの人がどう動いてるかをたくさん見られる機会ですし、いろんなプロフェッショナルが集まってる場所だと思うので、そういう方々と会話しながら作っていくことで、自分ももっと強くなれたらと思ってます。
阿部 上田さんから「かっこいいものを作って欲しい」っていう使命をもらって。自分はその使命感のもと、かっこいいものを作るだけです。
市川 大学生でこういうことができるのってすごく恵まれてるなって思ってて。楽しみながら、いい夏休みにできたらなと思ってます。
勝又 インタビューは私たち3人がしてもらっていますが、たくみくんやはなちゃん、けやきちゃん、ここにいないメンバーにもたくさん頼りながら作っています。「自由にかっこいいことやりな」って言ってくれるチームの皆さんへの感謝を持ちながら、頑張りたいと思います!
『岩壁音楽祭 2022』は9月17日の本番に向けて絶賛準備中。SNSでも随時情報を更新しております! 本番に向け、またnoteも更新していく予定です。
『岩壁音楽祭 2019』開催時の知見はnoteで公開しています。『岩壁音楽祭 2022』の知見を貯めたインタビューも公開しておりますので、ぜひチェックしてみてくださいね!
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