元いじめられっ子、同窓会に行く。
「同窓会やるから来てね」
小中高の同級生・ナガタニから連絡があったとき、僕は迷っていた。
同窓会に、出るか否か。
中学時代には、あまりいい思い出がない。
人間関係をうまく築けなかった中学生の僕は、小柄で華奢な体格ということもあり、よくいじめられていた。
このことがあって、楽しかったこともあったはずなのだが、あまり思い出せない。
そんなんだからナガタニへの回答も「善処します」という、前向きに検討しているように見せかけて本当は全然その気がない、いかにもお役所的なものだった。元公務員が聞いてあきれる。
あれよあれよと時は過ぎ、出欠の〆切が近づいてきた。そろそろ報告しなければ。
中学の同級生たちに会うのは、確かに不安だった。
でも、ほとんどの人とは20年ぶりに会うわけで、皆34、35歳の大人だ。学生当時の知能と感情をそっくりそのままに生きている人なんてそういないだろう。
それに、同窓会なんていつでもできるものではない。会えるときに会っておかないと、後悔する恐れがある。
なにより、エッセイを書く身としてこれほどネタになりそうなイベントを逃すのはもったいない。
そんなこんなで、僕は調整さんに「出席」と入力した。
◇
またしてもあれよあれよと時は過ぎ、ついに迎えた当日。集合時間の30分前、そろそろ家を出る時間になった。
やばい、緊張して心臓がドクドク鳴ってる。まだ家だけどもう帰りたい。
姿かたちが変わり果てて、だれがだれだかわからなかったらどうしよう。
逆に「お前だれだよ」っていわれたらどうしよう。
居酒屋のフードメニューの中に食べられる物がなかったらどうしよう。あばばばば。
傍から見ると杞憂に終わりそうな心配を引っ提げ、僕は約束の店に入った。
ふたを開けてみれば、同窓会の雰囲気は終始明るいものだった。
「あーアルロンだ!」と指をさす人(心の中の長州力が「指をさすな」とぼやいた)。
「え、お前アルロン!?」と明らかに困惑する人。
「アルロンでしょ? すぐわかった」と当然のように答える人。
20年ぶりの再会は、十人十色で面白かった。
でもなぜだろう、久しぶりなんだけどそうじゃない感覚になった。
それぞれ大人にはなっていたが、根は変わっていない。
騒がしい女、面白いバカ、ブラッキー推しバレーボーラー、バスケ部の人、足の速いギャル、承久の乱、記憶欠如ねえさん、不良になりきれなかった不良……最新情報にアップデートされてはいたが、20年前の記憶とほぼ一致するキャラクターだった。
だれとだれが同じクラスだった、だれとだれが当時付き合っていた、などの定番の思い出話から近況まで、たくさんたくさんしゃべり合った。僕は聞き手に回ることが多かったが、自分の話もたくさん聞いてもらえた。
それぞれ苦悩を抱えながらも、学友との再会を喜び、笑い合っていた。
皆、優しくて、面白くて、それぞれの人生をちゃんと生きているんだ。そう思えて、なんだかとても嬉しくなった。
結論、同窓会は、
めちゃくちゃ楽しかった……!!
◇
過去の傷は癒えたが、傷痕は未だ残っている。
でも、こうして同窓会への出席に踏み切ったことで、僕はまた一つ自分への呪いを解くことができたのかもしれない。
また、今回出席したのはほんの十数人ではあったが、これくらいの人数が僕にとってはちょうど良かったと思う。もし学年全員(約180人)近くがそろってたら、わちゃわちゃしすぎてさほど楽しめなかった気がする。
とにかく、今回の同窓会が本当に楽しくて幸福な時間になったのは間違いない。
企画してくれた幹事の人たち、参加してくれた皆、ありがとう。
解散し、帰路に就いたのは午後11時過ぎ。
肌寒い9月の夜風がとても気持ち良かったのは、どうやらアルコールのせいだけじゃなかったらしい。
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