ノグ・アルド戦記外伝⑤【#ファンタジー小説部門】
第4章「星月夜」
通ってきた山道とは別の道の、奥まった場所にぽつんと建つ空き小屋。四人の少年たちをこの安全な場所まで連れていき、アズールはようやく一息ついた。
きょうだい同然に接してきたスレナとの対立は、部外者である自分でさえ心が強く痛んだ。この小さな心たちには、あまりにも残酷な出来事だったはずだ。いつもはのんびりしていて楽天家なギャリーでさえも、膝を抱えて蹲っていた。
失意のギャリー隊。その頭上には、夜の帳が降りきった曇天が広がっている。
長い沈黙を破ったのは、コンだった。
「僕たち……これからどうするの……?」
再び沈黙が五人を包む。当初の目的である「セルリアン公ベレンスを倒して自由を勝ち取る」ことは、黙っていても達成しそうな状況だ。
しかし、ベレンスがスレナを雇っていることを知った今、反乱軍の勝利を手放しで喜べるはずがない。
悩む少年たちを見ていても立ってもいられなくなったアズールは、(お節介とは思いながら、)四人に問いかけた。
「今この状況でこれを問うのは酷だと思うが、君たちはどうしたい?」
ギャリーは顔を上げた。アズールが、神妙な面持ちでこちらを見ている。
「どうしたい……」
「そうだ。自分はどうしたいか、自分はなにをすべきか、自分になにができるか、この三つを考える必要がある」
この言葉をギャリーは知っている。魔女オフェリアの問いかけとまったく同じだ。
「俺は、スレナと戦いたくない」
「では、そのためになにをすべきだと思う?」
スレナと戦わないためにすべきこと。ギャリーは一生懸命考えたが、納得できるような答えは出せなかった。
「逃げれば戦わずに済むと思うが?」
答えを見つけられないギャリーに、アズールが正論をぶつけた。
「でも、それだとスレナがやられるかもしれないじゃないか」
「ならば、前提が間違っている可能性がある。君の望みは『戦わないこと』じゃないのかもしれないな」
自分の望み。それは戦わないことじゃなくて……
「スレナとまた笑い合えるような仲に戻りたい」
「うん。その方が君らしいよ、ギャリー」
アズールが微笑んだ。
「では、もう一度聞くよ。スレナとの関係を修復するために、なにをすべきだと思う?」
今度の問いには答えられた。
「スレナをセルリアン公から引き離す」
「なるほど。では、そのために君たちになにができるかな?」
ギャリーがふと周囲を見ると、デニ、コン、シアンが考え込んでいた。三人とも、ひとまずは吹っ切れた様子だ。ギャリーは、弟分・妹分の成長を頼もしく感じた。四人は輪になり、作戦会議を始めた。
しかし、会議は難航した。城の構造も、セルリアン兵の数もわからない。戦いをやめるよう反乱軍に懇願したところで、意味がないことも承知している。
少年たちをしばらく見守っていたアズールが、ヒントを出した。
「誰かをどうにかしようとしたとき、その人の性格なんかをよく考えることが大切だ」
遠回しな物言いに、少年たちの頭上には「?」が漂っている。しかし、ギャリーだけは冴えていた。
「そうか、スレナやセルリアン公がどういう行動をとるかを考えるのか! セルリアン公ってどんな奴だったっけ?」
「おいら、しってる! あいつはひきょう者だよ!」
「そうね、仲間を見捨てて自分だけ逃げそうよね」
「僕たちみたいな子供にはえらそうだし……」
「よし、いいぞみんな。どんどんアイディア出してこうぜ!」
作戦会議は、いつの間にかセルリアン公の悪口大会になりつつあった。それでも、少年たちの顔に笑顔が戻ったので、アズールは安堵して空を仰いだ。
黒雲は消え、無数の星々がノグ・アルド大陸を見下ろしている。光の欠片が散りばめられた夜空は、ため息が出るほど美しかった。
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