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ソーシャリー・ヒットマン外伝「蒼き世界の謎」

俺は根来内ねらいうち だん。殺し屋だ。

殺し屋といっても、人を殺めるなんてマネはしないのさ。

俺が殺めるのは……そうだな、「社会的地位」とでも言っておこうか。


今日もこれから依頼人と会う約束をしている。

依頼人の指定したいつもの喫茶店で落ち合い、依頼を聞く予定だ。
おっと、報酬の話も忘れちゃならねぇ。



カランコロンカラン。

午前11時、いつもの喫茶店にやってきた。

まだこの雰囲気には慣れない。
ピンク色の店内。給仕服に身を包んだ小娘たちが「おかえりなさいませ、ご主人様」と言いながら、俺を席まで案内してきやがった。いつも思うが、なんなんだこいつらは。俺はお前たちのご主人様などではない。俺はこれまで一匹狼でやってきた。そしてこれからもな。だから小娘どもよ、俺をご主人様などと呼ぶんじゃあない。

わかったか? わかったらこの「ベリーキュートプリンセスのラブリーベリーパンケーキ」を一つ頼む。


俺が席に着くや否や、一人の男が近づいてきた。

「よう、殺し屋。今回もよろしくな」

男は声をひそめて、周りに気づかれないように話しかけてきた。

「またお前か」

俺が聞き返すと、男はコクリと頷く。席に着くよう手振りで促すと、男は俺の真正面にそそくさと座り込んだ。
この男――今日もぴっちぴちのアニメキャラクターTシャツに安物のジーパンという出で立ちの小太りで不潔なキモオタ野郎――は、以前にも依頼をしてきたことがあった。つまり、常連だ。

「まさかまた来てくれるとは思わなかったぜ」

「御託はいらん。ターゲットは?」

俺が尋ねたまさにそのとき、先ほど俺を案内した小娘がやってきた。
毎度のことながら、なんてタイミングの悪い奴だ。くそっ、小娘がなんの用だ。

「おまたせしましたぁ~☆『ベリーキュートプリンセスのラブリーベリーパンケーキ』ですぅ~☆」

小娘の持っているトレイの上を見ると、志茂田景樹をスイーツ化したようなパンケーキのようななにかがその存在を知らしめていた。パンケーキの上部は、生クリームやらストロベリーソースやらなんかチョコバナナとかについてるあのカラフルなやつやらがたっぷりと乗っかっている。くそっ、美味そうじゃあないか。

ドンっと皿を置く小娘。この重さじゃあ無理もない。なに味かわからない水色のクリームがちょっと俺のシャツにかかったが、それくらいは許してやろう。ただし、次はないからな。


注文したブツが届き、これでようやっと本題に入ることができる。

……ん? なんだ小娘。まだなにか用があるのか?
小娘は両手をハート型にして、なにやらつぶやいている。

……なに? 美味しくなるおまじない、だと?
バカバカしい。前にも言ったが、そんなものあるわけないだろう。俺は騙されんぞ。

……いいから見てろと言うのか? フン、勝手にすればいい。

……おいおい、またしても店中の小娘全員が叫んでいるじゃあないか。そこまでして俺の「ベリーキュートプリンセスのラブリーベリーパンケーキ」を美味しくさせたいとでも言うのか……!?

参った。俺の負けだ。しかたねえ、俺も付き合ってやるよ。


「おいしくな~れ! 萌え萌えキュン☆」



「殺し屋の旦那、今回のターゲットなんだがね……ちょいと厄介そうな奴でさ」

「ふぁっふぁい?」

「蒼広樹っつう奴で、ワールド・ブルー株式会社の社長をしている。会社の名前くらい聞いたことあるだろ?」

「ふぁーふふぉふふー?」

「旦那、パンケーキ食べ終わってからで構わんぜ」

「ふぁあ、ふぉうふぁふぇふぇふぉふぁう」

頬張っていたパンケーキを飲み込み、話の続きだ。

「あの会社に就職しようと思って面接を受けたんだ。でも、会社の入口で止められて、面接どころか出禁になっちまった。せっかく一張羅を着てきたってのによ!」

そう言うと男は、今まさに身につけている女児向けアニメ「ピーチパイン・ポーキュパイン」のTシャツを愛おしそうに撫ぜた。実にキモい。
そもそも、面接にTシャツでやってくる時点で間違っているだろう。

「社長の奴もそうだが、ゆにっていう秘書も頼みたい。そいつに門前払いされたんでな。あの高慢ちきな女の顔を歪めて、そして、ぐへへへへ……」

キモい。キモすぎる。こんな奴の依頼を聞かねばならんとは、俺にも焼きが回ってきたようだ。
しかし、これも仕事。なんとかワールド・ブルー株式会社とやらに潜入し、任務を遂行しなくては。

ラストオーダー後に報酬33,800円を契約した俺は、後ろ髪を引かれながら帰路に就いた。



数日後、取材の記者を装って、ワールド・ブルー株式会社の本社ビルにやってきた。

案内をしてくれたのは、社長秘書のゆにだ。ほう、こいつが例の女か。なかなかいい女じゃないか。特に声がいい。スタエフでずっと聞いていたい声だ。

「朝早くからお越しくださり、ありがとうございます」

礼には及ばん。なぜならそれが俺の仕事だからな。わかったら、さっさとこのわけのわからん会社の社長について、説明してくれ。

「蒼は、ワールド・ブルー株式会社の前身、を創業しました。挨拶製造機を作る小さな会社だったのが、大胆な経営方針転換で、世界に通用する会社を目指し、今があります」

なにを言っているんだ、こいつは。
挨拶製造機? なんだそれは。

「おかげさまで人工肉製造からバイオ兵器生産まで、幅広い分野に参入しております」

人工肉? バイオ兵器? 一体なんの話をしているんだ。この会社はなんなんだ。なにを目指しているんだ。

「あ、私がどうして秘書になれたかですって?」

いや、聞いていない。別にそこは興味ない。
おい、聞いていないと言っているだろう。なに勝手にべらべらと話し出しているんだ。「なんのはなしですか?」じゃあない。それはこっちの台詞だ。

社長秘書ゆにのペースに翻弄されながら、俺はようやく経営理念の話にこぎつけた。

「弊社の経営理念、ご存知ですか?
 『挨拶で世界を笑顔に』です。
 創業当時から変わっていません」

なるほど。「挨拶で世界を笑顔に」か。なかなか高尚な理念じゃあないか。挨拶製造機というものはよくわからんが、社会貢献活動に力を入れているらしいことはわかった。

「誰よりも早く出社して、社長室で朝から社員やお客様を楽しませる挨拶を…そうですね、多い時は100パターンぐらい考えていると聞いております。挨拶にかける熱意は相当なものです。挨拶で、相手との壁を取り払おうとしているのです」

そんなにいるだろうか、挨拶のパターン。いや待てよ、俺があまり人と接する機会が多くないからそう思っているだけで、一企業の社長ともなれば挨拶の100や200は必要なのかもしれない。

ふむ、この会社のことは大体わかった。そろそろ社長の蒼広樹とやらに会わせてもらおうか。

「そろそろ社長の取材時間ですね。
 ご案内いたします。

 あ、ひとつお伝えし忘れました」

なんだ。まだなにかあるのか。

「社長は、無茶振りをすると大変喜びます。
 過去、取材にいらっしゃった方も、ひとつは必ず無茶振りをしております」

無茶振り? な、え? 無茶振り?

「え、顔面蒼白になってしまいませんかって?
 大丈夫です。
 何事も楽しんでおりますので、ご心配なく」

秘書はあやしく微笑んだ。いや、こっちが大丈夫じゃあないんだが。

「こちらが社長室です。どうぞ、お入りください」




社会的殺し屋ソーシャリー・ヒットマン、根来内 弾。

彼の任務は、始まったばかり。

(続く?)




【あとがき】
どうも、「しょーもないことを一生懸命がんばる」でお馴染みのアルロンです。
ワールドブルー物語、参戦しました。生ぬるい目で見守ってください。

【参考記事】

↓「ワールドブルー物語」の概要はこちら。

↓こちらの記事を(勝手に)ベースにさせていただきました。ゆにさん、すみません(土下座)。




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