卒業式 静心なく 花の散るらむ
3月。
それは、別れの季節。
いわゆる卒業シーズンを迎え、学校や職場を離れる人も多いことでしょう。
特に高校生は、大学進学を控えている人もいれば、就職するという人もいますよね。
かくいう僕も、高校を卒業し、生まれ故郷を離れ、新天地で大学生活を始めた者の一人です。
まあ、15年前の話なんですけど。
つい先日、母校の高校で卒業式が行われていました。
もちろん出席なんかするわけないんですが、たまたま近くを通ったところ、正装した保護者の方々が校舎に吸い込まれていくのを目撃しました。
「ああ、今日は卒業式かあ」なんて思いながら。
卒業式には、どんな思い出がありますか?
高校3年間、勉強も部活もそれなりにがんばってきた僕ですが、いかんせん恋愛には恵まれなかったわけでして。
そんな僕にも後輩はたくさんいたのでね、卒業式の日くらいは声をかけてくれるんです。
断っておきますが、女の子の後輩ですからね。
卒業式が終わり、同じ部活の同級生(便宜上、以後「池照くん」と呼びます)と、玄関で座っていたときのことです。
大勢の卒業生が泣き合ったり笑い合ったりと、外では祝福ムードの中でしたが、ちょいとニヒルを気取っていた僕らは、ほとぼりが冷めるのを待っていました。
すると、部活の後輩(女の子ですからね)がやってきて、池照くんにこう言ったんです。
「池照先輩! 第2ボタン下さい! 」
出た!
学ラン制服校出身者だけに許された最大の卒業イベント、「第2ボタン授与の儀」だ!
中学の時はさっさと帰ってしまったがために成し得なかったこのイベント(中学時代も学ランだった)、3年の時を経て実現するとは!
池照くんの第2ボタンをもらった後輩は、僕の目の前に移動しました。
きたこれ!
ついに僕にも、モテ期到来か!?
思い起こせば3年間、僕にも好きな女の子の1人や2人いたわけですが、お察しのとおりモテなかったのですよ。
必死になって好きな女の子からメールアドレスを聞き出し、メールを送ってはセンター問い合わせをして返信を待っていました(時代を感じる)。
メールのやり取りや学校での会話がはずんで「これワンチャンあるのでは…!?」と思ったころに、すでに彼氏持ちだったことを知るという…。
いかんいかん、過去の切ない恋物語を思い出している場合ではない。
話を戻そう。
僕の目の前に移動した後輩は、少し照れ臭そうにしていました。
うんうん、やっぱり恥ずかしいよね。
でも大丈夫だよ、第2ボタンでも袖のボタンでも、なんなら学ランまるごとでもあげちゃうよ。
そして、後輩が口を開きました。
「アルロン先輩! 握手してください! 」
おおおおお!?!?!?
握手ね!?!?!?
いいよいいよ!!! 全然いいよ!!!!!
そう言って握手すると、その後輩は満足げに立ち去っていきました。
後輩よ、それで良いのか?
本当に、それで良いのか?
こうして僕は、入学したときと変わらないボタン数の学ランで、無事帰路に就くことができましたとさ。
15年経った今も、花は散ったまま。
誰か咲かせてください。