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ソーシャリー・ヒットマン外伝7「蒼き記憶はまざまざと」

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俺は根来内ねらいうち だん。殺し屋だ。

殺し屋といっても、人を殺めるなんてマネはしないのさ。

俺が殺めるのは……そうだな、「社会的地位」とでも言っておこうか。


「喫茶 花」の近くに現れた黒猫。近未来的な首輪をした、目つきの鋭い黒猫。ワールド・ブルー株式会社に向かって逃げていった、あの黒猫。

間違いない。あいつは……



あのクソ猫、いや黒猫と出会ったのは、俺が高校3年の頃だったと思う。当時の俺は、大学受験を控えていた。

第一志望は、助駒志すけこまし大学。この大学は、兵金ひょうきん大学と衛慈簗えいじやな医科大学と三つ揃って「助兵衛」と呼ばれる、いわゆる御三家の一つだ。

結果として助大すけだいには合格できたのだが、受験勉強は相当きつかった。
呪文のように「サインコサインタンジェント」とつぶやいていたあの凄惨な日々を思い出すと……うっ、吐き気がするじゃあないか。


受験ノイローゼ一歩手前だった俺は、夏のある日、近所の公園でぼーっとしていた。記録的な猛暑で、気温は35℃を優に超えていた。

暑い。なにも考えられない。暑い。そしてだるい。我が家にエアコンはない。テレビはある。ラジオもある。でもエアコンはない。暑い。

早くどこかいい感じでエアコンが効いている場所に行きたい。現代っ子だのなんだのと揶揄されようが、暑いもんは暑い。それを我慢して熱中症になるなんて、狂気の沙汰、愚の骨頂、バカ・オブ・ザ・バカだ。

思い立ったが吉日。俺は灼熱のベンチから立ち上がり、公園を出ようとした。そのときだった。

「ふにゃ!」

猫だ。猫がいる。全身真っ黒で、ヒゲがピンとしていて、心なしか目つきが鋭いように見える。その首には、いかにも近未来的な首輪が。

「にゃにゃ!」

黒猫が立った。あれ猫だよな? レッサーパンダじゃあないよな?

「んにゃ?」

黒猫が寝た。焼けつくようなアスファルトをものともせず、気持ちよさそうにへそ天している。


ぐにゃあ


「ぐにゃあ」というのは、その黒猫の鳴き声をスーパースロー再生したときの音声ではない。黒猫の周囲がじわじわと歪み始めたのだ。つまり擬態語だ。
そんなことはいい。なんだって空間が歪んでいるのだ。陽炎か?

俺は避けようとした。だが、遅かった。


「ぐおおおおお!!!!!」


俺は、歪んだ空間に引きずり込まれてしまった。




次に気がついたときには、見知らぬ場所にいた。

人通りの少ない場所に、白を基調とした建物がそびえ立っていた。どでかいピンクのリボンがかけられており、看板には「ラブリーメイドカフェ☆冥土の土産」と書いてある。

暑さで意識が朦朧としていた俺は、ふらふらと建物の中へ入っていった。


店内はピンク色。給仕服に身を包んだ小娘たちが「おかえりなさいませ、ご主人様」と言いながら、俺を席まで案内してきやがった。なんなんだこいつらは。俺はお前たちのご主人様などではない。俺はこれまで一匹狼でやってきた。そしてこれからもな。だから小娘どもよ、俺をご主人様などと呼ぶんじゃあない。

俺が席に着くや否や、小娘の一人が近づいてきた。

「ごご、ご主人様、はじめましてっ☆ こここ、今月からここで働かせていただくことになった、いよ……やのーて、『もも』ですぅ~☆」

なんなんだこいつは。噛み噛みじゃあないか。初めての出勤で緊張しているといったところか。あと、俺はご主人様じゃあない。

「ここここ、こちら、期間限定メニューですぅ~☆」

緊張しすぎだろう。「こ」を連呼してニワトリみたいになっているぞ。まあいい。
渡されたメニューを見ると、なんとも涼し気な飲み物の写真が、でかでかと載っている。しかたねえ、こいつをもらうとするか。

「はい! 『ジュラシックジュブナイルジューンジュライジュテームジュース』ですね! かしこまりましたぁ~☆」

小娘が店の奥に消えるや否や、「アタシ、初めて噛まずに言えてん!」と先ほどの声が聞こえた。よくわからんが、なによりだ。


しばらくして、先ほどの小娘噛まずに言えてん子が戻ってきた。

「おまたせしましたぁ~☆ 『ジュラシックジュブナイルジューンジュライジュタッ、ジュテームジュース』ですぅ~☆(ああ~、今度は噛んでもうた~)」

小娘の持っているトレイの上を見ると、阿波連ビーチのようにきれいなエメラルドグリーンの液体が、バカでかいジョッキの中でその存在を知らしめていた。水色のゼリーがふんだんに入っており、ジョッキのフチには輪切りのパインと恐竜を模したフラッグが添えられている。くそっ、美味そうじゃあないか。

ドンっとジョッキを置く小娘。この重さじゃあ無理もない。角切りのナタデココがちょっと俺のシャツにかかったが、それくらいは許してやろう。ただし、次はないからな。

……ん? なんだ小娘。まだなにか用があるのか?
小娘は両手をハート型にして、なにやらつぶやいている。

……なに? 美味しくなるおまじない、だと?
バカバカしい。そんなものあるわけないだろう。俺は騙されんぞ。

……いいから見てろと言うのか? フン、勝手にすればいい。

……おいおい、店中の小娘全員が叫んでいるじゃあないか。そこまでして俺の「ジュラシックジュブナイルジューンジュライジュテームジュース」を美味しくさせたいとでも言うのか……!?

参った。俺の負けだ。しかたねえ、俺も付き合ってやるよ。


「おいしくな~れ! 萌え萌えキュン☆」



そうだ。なんか最近「冥土の土産」に行っていない気がする。

たまには、あの小娘にも顔を出してやらないとな。


……そういえば、俺は今なぜ走っているのだ? まあいい。忘れてしまったことは、覚えておくに足らないことだ。「ヒットマンたる者、過去を振り返るべからず」だ。

俺は踵を返し、どでかリボンの白い建物を目指して駆け出した。




社会的殺し屋ソーシャリー・ヒットマン・根来内 弾。

彼は、鳥頭とりあたまである。

(続く?)




【あとがき】
どうも、根来内 弾がワールドブルー関係者に「弾ちゃん」と呼ばれているのをニヤニヤしながら眺めているアルロンです。弾ちゃんは、みんなのアイドルですね☆
弾ちゃん過去編でした。シリアス方面に進みがちだったのですが、本領を発揮できる土俵に戻すため、弾ちゃんには鳥頭という設定をつけて強引にシリアスを離脱してもらいました。
今後は思う存分ふざけ倒します。たぶん。

【お知らせ】

弾ちゃんこと根来内 弾のビジュアルを描いてみました!

あなたの想像した弾ちゃんに近いですか?

画力がアレで申し訳ないのですが、なんとなくこんな感じで想像しています。
右目が隠れているのがポイントです。
ネクタイがピーチ柄である理由は、このシリーズのファンならわかりますね?

イラストを心得ている人は、ぜひ弾ちゃんを素敵なイラストに仕上げてください(他力本願)。


【参考記事】

↓「ラブリーメイドカフェ☆冥土の土産」


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【ソーシャリー・ヒットマン外伝シリーズ】


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