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ノグ・アルド戦記外伝⑦【#ファンタジー小説部門】

第6章「蒼き炎」

 エルド王国は、4つあるノグ・アルド大陸の国家の中で、最も軍事力の高い国である。第一王子イグニが率いる【炎の騎士団フレイム・ナイツ】は、エルドの精鋭たちを集めた大陸最強の軍であり、その中でも特に優れた四人は【四炎】という称号を得る。その筆頭である【炎天】のブレンネンのほかに、【爆炎】のヴォルカノ、【陽炎】のモエル、そして【蒼炎】のアズールがいた。

 ギャリーは混乱していた。アズールがエルドの将軍で、しかも【四炎】という高位にあったなんて。

 呆然と立ち尽くすギャリーに、アズールが謝罪した。

「隠していてすまなかった、ギャリー。私は生まれこそユベルだが、エルドの軍人だ。エルドは今、ユベルを攻撃している」

 その言葉に、ギャリーは激昂した。

「じゃあ、俺たちを助けたのも、全部芝居だったのか!? セルリアン城を落とすために、反乱軍や俺たちを利用したのかよ!!」

「いや、それは違う」

 アズールは首を横に振った。

「正直、私は悩んでいた。我が故郷ユベルを侵すなど、できるはずもない。だが、攻撃命令を無視するわけにもいかなかった。私が身分を隠して単独行動していたのは、できる限り戦火を広げないように収拾したかったからだ」

 ギャリーもブレンネンも、黙ったままアズールの話を聞いている。

「セルリアンの近くまで来たときに、君たちギャリー隊に出会った。最初は子供たちを安全な場所まで保護するつもりだったが、スレナとの一件で君たちは壁にぶつかった。私と同じように、大切なものに手をかけなければならない状況に陥った。

 だが、君たちは諦めなかった。スレナと戦わずに済む方法を、夜通し考えた。そしてそれを実現させた。私は、君たちに感謝しているんだ。大切なことを教えてくれた、君たちギャリー隊にね」

 アズールが微笑んだ。そして、ブレンネンに向き直り、毅然とした態度で言い放った。

「ブレンネン将軍、私は只今をもって【炎の騎士団フレイム・ナイツ】を脱退する」

「アズール!?」

「……正気か?」

 ブレンネンもさすがに動揺したらしい。アズールの決断に、一瞬だけ言葉を詰まらせた。

「そうなれば、お前は反逆者だ。私は今ここでお前を討たねばならん」

「わかっている。だが、おいそれとやられるわけにはいかないな」

「ククク、面白い。このブレンネン、手加減が出来ぬ男と知ってのことだろうな?」

「無論だ。私も同じなのでな」

 二人の将軍は、それぞれ戦う構えを取った。

 ただ、長槍を持つブレンネンに対し、アズールは丸腰だ。これではいくらなんでも不利だと、ギャリーは思った。

 しかし、アズールの様子に変化が見えた。全身から青いオーラが滲み出て、瞬く間に炎に変わった。

「闘気を蒼い炎に変えて戦う『格闘魔法グラップスペル』。【蒼炎】とはよく言ったものよ」

 ブレンネンが、これから楽しい宴が始まるかのように、ニヤリと笑った。

 【炎天】対【蒼炎】。ギャリーは、史上最大の一騎打ちの見届け人になろうとしていた。

 ところがこの勝負は、始まる前に中止となった。

「ブレンネン将軍!」

 エルドの伝令兵が、馬を駆ってやってきた。戦うはずだった二人は、攻撃の構えを解き、伝令の方を見た。伝令は、慌ただしく馬から降り、ブレンネンとアズールに礼をした。

「あ、アズール将軍もご一緒でしたか!」

「なにかあったのか?」

「は、はい! 全軍に撤退の命令です!」

「なんだと?」

 ブレンネンの右眉がピクッと吊り上がった。

「イグニ王子の命令にございます! 『ユベルを攻撃する理由がなくなった。直ちに撤退せよ。詳細は改めて説明する』とのことです!」

 ブレンネンは伝令書に目を通した。そして、先ほどの命令が真実であることを確認した。

「わかった。ご苦労だったな、持ち場へ戻ってくれ。私もすぐ行く」

「はっ! 失礼いたします!」

「ああ、それと」

 今にも馬に跨りそうな伝令を引き留め、ブレンネンは言伝ことづてを頼んだ。

「アズール将軍だが、セルリアン城の攻略時に大怪我をしてしまったらしい。見た目ではわからないが、思った以上に傷は深く、とても戦える状態じゃないようでな。断腸の思いで軍を抜けることになった。イグニ王子に、そのように伝えてくれるか?」

「はっ!」

 ギャリーとアズールは目を丸くした。真実を知らない伝令は、アズールに惜別の言葉を贈った。

「アズール将軍、誠に残念ではありますが、将軍がそう決めたのなら致し方のないことなのでしょう。どうぞご自愛くださいませ」

「ああ、ありがとう」

「では、失礼いたします!」

 伝令は今度こそ馬に跨り、風のように去っていった。

 呆気に取られたギャリーとアズールを尻目に、ブレンネンもまたこの場を去ろうとした。今度は、ブレンネンをアズールが引き留めた。

「ブレンネン将軍! その、感謝する」

 ブレンネンは立ち止まり、振り向かずに答えた。

「お大事に」

 去っていくブレンネンを見送りながら、ギャリーが口を開いた。

「かっこいい人だね」

「ああ、私の尊敬する武人の一人だ」

「それじゃ、俺たちも行こうぜ、アズール」

 二人は、仲間たちの待つセルリアン城へ歩き出した。



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