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ノグ・アルド戦記⑰(最終話)【#ファンタジー小説部門】

エピローグ「動乱その後」

 後に「ラピスの変」と呼ばれる、ユベル国内のクーデターに始まった一連の動乱は、アイオル一行の活躍によって幕を閉じた。


 ユベル聖王国内のみならず大陸全土を悲しませた、聖王サファーの訃報。その勇敢な最期はアイオルによって広まり、彼の命日に黙祷を捧げる風習が根づいていった。

 サファーの死にともない、ラズリが新たな聖王となった。弱冠18歳で聖王継承という前代未聞の事態だったが、意外にも反対の声はほとんど上がらなかった。サファーの死を誰よりも悲しんでいるはずのラズリだが、人前では毅然とした態度を示し、ユベルの民を勇気づけた。慇懃無礼な性格は、アイオルの影響で少しだけ治った模様。

 ターコイズは、クーデターを起こした罪で王位はく奪となる。しかし、ラズリ新聖王の温情により国外追放はされず、国立学術機関での魔道研究を命ぜられた。左瞼には、青紫の痣が残っていた。


 エルド王国では、動乱の黒幕が第二王子エリフだったことから、ガルネ王がユベル聖王国に謝罪し、政権をユベルに明け渡すと表明した。しかし、新聖王はこれを拒否。「これからの国政で汚名返上してみせよ」との言葉を送り、エルド王国は解体を免れた。

 エリフ王子は、重度の精神障害のためエルド城で療養している。彼への非難があちこちから殺到し、処刑を望む声も多かったが、兄であるイグニが一蹴。「弟のやったことは許されることじゃねぇ。でも、あいつは今も生きている。生きている限り、人はやり直せる。だから、俺たち兄弟は一生をかけて償っていく」との名言を残し、人々を説き伏せた。


 エメラ女王は、心配性な王弟と側近が待つニアーグ王国へ帰った。しかし、新生ユベル聖王国や混乱しているエルド王国に助力するため、すぐに大陸中を飛び回ることとなる。自由奔放な姉王に、王弟ルドは今日も頭を抱えているのだった。


 ウォレー王国に戻ったキーロは、引き続き隠密部隊【影の衆】の頭領として暗躍している。風の噂では、エルド王国のイグニ王子と夜な夜な密会していると、まことしやかに囁かれている。エルド王国が新たな王妃を迎え入れる日は、そう遠くないかもしれない。

 【頂の祭壇】の守り人であるキブ・マヤ兄妹は、【影の衆】を除隊し、守り人の里へ帰った。キブの首飾りには、【死せる賢者】オードが今も宿っている。

 いつどんなときもアイオルの傍に仕えてきたヴェントスは、戦いの後もアイオルに仕える。しかし、不治の病に侵され、動乱の1年後に帰らぬ人となった。波乱万丈だった彼の生涯は、吟遊詩人のサーガとして後世まで語り継がれることになる。

 ユベル聖王国ラピス王子は、その地位を放棄し、グランド商会のアイオルとしての道を歩む。グランド商会は新たにユベル支部騎士養成所を設立し、アイオルはその責任者となった。商才はないが、秀でた武術と気さくな人柄が功を奏し、大陸随一の育て手として歴史に名を残すことになる。

 グランド商会の当主テラは、帰ってくるなり退職を宣言した息子に度肝を抜かれるが、歴史学者を目指すという真っ直ぐな気持ちを受け止めた。奮闘する息子を見る彼の顔は、鷹のような鋭い表情ではなく、穏やかな父親の愛情で満ち溢れていた。


ノグ・アルド戦記
~完~


 本書は、「ラピスの変」(ノグ・アルド暦618年)について、我が友アイオルを主人公として書き記したものである。

 彼の生き様に生きる希望を見出してもらえたならば、これ以上の幸せはない。

 今を生きるすべての者に、幸あれ。

著者:ソルム・グランド



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