ノグ・アルド戦記⑮【#ファンタジー小説部門】
第14章「大いなる力」
アイオル一行の出発を見送った者たちは、それぞれの国へ戻っていった。
アネモスは、エメラ女王に同行すると言って聞かなかったが、ルド王弟への報告という重要な任務を与えられ、不本意ながらも本国へ帰還した。【四炎】のヴォルカノとモエルは、イグニに同行するかと思ったが、「お前らはエルドに戻って父上に報告し、侵攻を中止させてくれ」という主君兼上官の命令に従った。
◇
ノグ・アルド山。大陸の中心に聳え立つその山は、神聖の象徴として人々に崇められていた。その【頂の祭壇】は、元々は古の巨竜の亡骸であり、ユベルの魔法で祭壇に姿を変えたとのことだった。アイオル一行は、祭壇の守り人たちに導かれながら山頂を目指した。険しい山道ということもあって、一行の足取りは軽くなかった。ましてや熾烈な戦いの直後である。それでも誰一人として弱音を吐かない。ノグ・アルドの危機を救うという大義のため、皆ひたすら歩き続けていた。
ユベルを発って2日ほど経過した頃、アイオルがオードに尋ねた。
「今更なんだけどさ、エリフは転移魔法で【頂の祭壇】に向かったんじゃないの?」
「転移魔法は、行ったことのある場所へ移動する魔法だ。あの者が【頂の祭壇】へ行ったことがあるとは思えぬ」
オードはにべもなく答えた。
「それに、麓から頂上まで転移魔法を使ったとしても、術者の体が持たぬであろう。いくら肉体を鍛えたとて、生身の人間には限界がある」
「なるほど……」
「もうすぐ山頂ですよ」
キブの声に、全員が顔を上げる。そこには、荘厳なオーラを放つ、白く巨大な祭壇があった。
祭壇の中央には、竜をかたどった4つの石像が、中心を囲むように並んでいた。
一つは、大きな口を開けた竜の像で、剣を差し込めるようになっている。
一つは、四肢の間に長い槍を納めるくぼみのある、竜の全身像だ。
一つは、背を向けた竜の像で、盾を飾る台座のようにも見える。
一つは、竜の頭を模しており、両目にあたる場所がくぼんでいる。
アイオル一行は、その石像の傍に黒いローブ姿を見つけた。
「エリフ!!」
イグニが叫んだ。エリフはハッとして振り返ったが、すぐに冷ややかな笑みを取り戻した。
「なんと、こんなところまで追いかけてきましたか。過保護な兄上」
「やめろ!! もうやめるんだ!!」
「なぜですか? 母上が戻ってくるのですよ。兄上は嬉しくないのですか?」
「母上は死んだんだ!! 死んだ人間は戻ってこねぇ!! お前がやろうとしてんのは、母上を冒涜することなんだよ!!」
「黙れ!!」
エリフは激昂した。
「兄上にはわかるまい!! 武術の才があって、人望もあって、父上から寵愛を受けている兄上に、私の気持ちなどわかってたまるか!! 私には母上しかいない。母上のいない世界など、私には必要ないのだ!!」
エリフは【竜の神器】を取り出し、それぞれ対応する竜の像にはめていった。全員がエリフを止めようと駆け出した。
「邪魔をするな!!」
エリフの放った無数の火の礫が、辺り一面に降り注ぐ。その威力たるや、拳サイズの石が灰と化すほどだった。エメラの魔法壁やオードの結界、【影の衆】の瞬発力のおかげで、死傷者はいなかった。
しかし、足止めには十分すぎる攻撃だった。火の雨が止んだ頃には、すべての【竜の神器】がセットされていた。
「遅かったか!」
アイオルの声が虚しく響いた。
それまで淡く光っていた【竜の神器】は、突然眩しく輝き始めた。そして、その光は線となり、轟音とともに勢いよく天に昇っていった。エリフは恍惚の表情を浮かべていた。
「これが大いなる力か……! 素晴らしい……これで母上が戻ってくる……私のところに戻ってくる!!」
突然、辺りが真っ白に閃いた。その直後、激しい地響きが起こり、エリフを含む全員がその場に倒れ込んだ。そして、【頂の祭壇】が崩れ始めた。いや違う。祭壇は姿を変え始めたのだ。白い壁はエメラルドグリーンの鱗となり、四本の柱の根元から金色の爪が生え、屋根の突起部分は真紅の牙と蒼い双眸を持つ頭部となっていった。
「古の……巨竜……」
誰かが絶望したようにつぶやいた。
ノグ・アルドの空には、禍々しい暗雲が立ち込んでいた。
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