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ソーシャリー・ヒットマン外伝16「蒼き偽りの色」

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俺は根来内ねらいうち だん。殺し屋だ。

殺し屋と言っても、人を殺めるなんてマネはしないのさ。

俺が殺めるのは……そうだな、「社会的地位」とでも言っておこうか。


ワールド・ブルー株式会社の本社ビル2階。そこには、社内の反乱分子を探る秘密チーム「はよ開けんかい委員会」の本部がある。同委員会のSBスーパー婆ザー・すぬ婆からの電話を受け、俺はここに来ていた。

すぬ婆を使って俺を呼び出したのは、中世ヨーロッパ貴族のような見てくれの委員長・蒼下葉あおげば 十年とおとし。物腰が柔らかく、俺に対しても礼儀正しいこの小綺麗なじーさんは、俺に依頼したいことがあるらしい。

両脇には、仏頂面の事務局長・蒼見鳥あおみどり 緑青ろくしょうと、生意気なショートウルフ女こと諜報員・蒼久内あおくない あかねが冷ややかにこちらを見ている。いや、睨みつけている。

この三人の温度差に風邪を引きそうになりながらも、俺は蒼下葉の話を聞いていた。

社会的抹殺ソーシャルヒットをお願いしたいのじゃ。そのためには、スットン共和国に行ってもらわなければならぬ」

「スットン共和国?」

「そうじゃ」

俺が聞き返すと、蒼下葉は頷いた。

「まぁ、社会的抹殺ソーシャルヒットというより、ストーカー行為を止めてほしいというのが本音じゃがの」

「ストーカー?」

少し嫌な予感がする。

「そうじゃ。我が社ワールド・ブルー蒼座あおざ メルという優秀な社員がおってな。彼女はスットン共和国への出向を命ぜられたのじゃが、どうやら彼女はストーカー被害にあっとるらしい」

嫌な予感がどんどん強くなってきた。ま、まさか。

「そのストーカーなんじゃが……こりゃお恥ずかしいもので、こちらも我が社ワールド・ブルーの社員でな。彼女の同期で、蒼友あおとも いさみという者なのじゃよ。彼女を蒼友 勇から遠ざけるためにこっそりスットン共和国へ出向させたのじゃが、どうやら彼に情報が漏れてしまったようでな」

やっぱり蒼友 勇あいつかーーーーー!!!!!

あの野郎! 探偵としての俺に蒼座 メルを探させたのは、ストーカーするためだったのか!

てことは、俺はストーカーの片棒を担いでしまったのか! くそっ、「佐藤・野中の砂糖」に釣られている場合じゃあなかった。

「あ」

「根来内殿? いかがなさったかな?」

「あばばばば」

「はて、わしはなにかまずいことでも言ったかの?」

蒼下葉は両脇の二人に尋ねた。蒼見鳥は首を横に振るだけでなにも話さず、蒼久内ショートウルフ女は俺を見下しながら「こいつがイカれてるだけでしょう」と吐き捨てた。

「あば……いや、なんでもない。失礼した」

「話を続けても?」

蒼下葉はニッコリしながら俺に尋ねた。

「ああ」

「君にお願いしたいのは、ただ一つ。スットン共和国へ行き、蒼友 勇のストーカー行為を止めてもらいたいのじゃ。蒼見鳥くん、例の物を」

蒼下葉がそう言うと、それまでほとんど動かなかった蒼見鳥が俊敏に動き、小さめのアタッシュケースを一つ俺の前に置き、開けた。ケースの中には、茶色の粉末が詰められたビニール袋が入っている。

「すぬたさんの発明した新薬、恋の原因消失カカオCacao the Eliminate Love CauseCaELCaカエルカ』じゃ。これを摂取した者はたちまち恋心を失くしてしまうという、恐ろしい薬での。恋する気持ちというのは、本来素晴らしいものじゃのに」

「こいつを飲ませればいいんだな? だが本当に効果があるのか?」

「心配には及ばぬ。すでに検証済みじゃ」

「人体実験でもしたのか?」

「実は、君と君の友人との会話を聞いてしまってな。これまた我が社ワールド・ブルーの話で恐縮なのじゃが、社長秘書・ゆにのストーカーをしていた蒼野あおの 樹生たつきに使わせてもらった。社内食堂で働くすぬたさんが、彼の注文した食事に『CaELCaカエルカ』を入れたのじゃ。すると、ストーカー行為はピタリと止んだそうなのじゃよ」

ほう、さすがすぬ婆だ。かつて俺と同じソーシャリー・ヒットマンだったすぬ婆。ずば抜けた製薬技術でターゲットの体調を崩しまくった「内臓破りインターナル・ブレイカー」の異名は伊達じゃあなかったってことか。

「そういうことで、君にはスットン共和国へ行ってもらいたい。一人だと心細いじゃろうから、案内兼護衛役としてこちらのあかねくんを同行させる」

ええぇ……蒼久内ショートウルフ女も一緒なのか。こいつが同行した方が逆に危ない気もするのだが。ほら、向こうも明らかに嫌そうな顔してるし。

「報酬は……そうじゃな。社内食堂の永久無料パスと、宇津串うつくし 憩絵いこえの収録現場見学ツアー招待券でどうじゃ?」

「やりましょう」

俺は食い気味で答えた。まったく、俺の嗜好をよくわかっているじゃあないか。



蒼久内ショートウルフ女とともに、俺は本社ビルを出た。そして身支度を整えるため、ダッシュ探偵事務所に戻ることにした。

事務所に到着し、蒼久内ショートウルフ女には外で待っててもらい、俺は出張の準備をした。といっても、すぐに出かけられるよう常にキャリーケース内には外泊用品を詰めてある。ヒットマンの心得の一つ、「備えあればうれいなし、うれいなければ嬉しいな」だ。

ちなみに、パスポートは持っていなかったのだが、蒼下葉委員長がすでに偽造してくれていた。良い子はマネするんじゃあないぞ。


キャリーケースをひっつかみ外に出ると、蒼久内ショートウルフ女が背を向けていた。

「待たせたな」

俺の声は聞こえているはずだが、彼女はなにも答えなかった。ただただ、茜色の夕陽が広がっている西の空を見つめているようだった。

俺は、この女に会ったときから一つの疑念を抱いていた。この女は、明らかになにかを隠している。

「お前、本当はあの会社ワールド・ブルーの人間じゃあないな?」

彼女は、こちらを見ずに答えた。

「……なぜそう思う?」

「不自然に蒼い髪、燃えるようなオレンジ色の瞳、『蒼』が入っていながらそれを否定する名前、必要以上に他人に敵意を向ける用心深さ。これでも裏社会に生きる人間の端くれだ、それくらいわかるさ」

「……なるほどな。さすがSBスーパー婆ザーの認めた男だ」

「俺はワールド・ブルーの人間じゃあない。だからお前がどういう思いを持ち、どういう理由でワールド・ブルーに潜んでいるのかは、正直どうでもいい。知ったとしても他言する気はまったくないしな。ただ、素性の知れない奴は信用ならないんでな。俺の任務に同行する以上、少しでいいから話してほしいんだが」

しばらく沈黙が続いた後、彼女は振り返った。背に受けた夕陽が、後光のように差し込んでいる。

彼女は、おもむろに口を開いた。

「私の本当の名は、橙井とおい 香子かこ。ワールド・ブルーに対抗するレジスタンス『Citrusシトラス』のリーダーよ」




社会的殺し屋ソーシャリー・ヒットマン・根来内 弾。

彼は、たまに鋭い。

(続く?)


【あとがき】
どうも、ワールドブルー物語のファンが心の支え、アルロンです。
固定の読者がいるのって、ありがたいですね! いつもありがとうございます! ご新規さんもぜひ!

一人で暴走するのも楽しいんですが、だれかに乗っかるのがワーブルの醍醐味なので、今回は小花さんの作った設定に乗っかっちゃいました。
橙井 香子、この時点で20代前半くらいなので、35年後は50代後半くらいですねぇ……(意味深)。

【参考記事】

↓「橙井とおい 美星みらい」という人物がいてだな

↓「スットン共和国」とか「蒼座 メル」とか「蒼友 勇」とか「佐藤・野中の砂糖」とか

↓「ゆに」と「蒼野 達生」

↓「内臓破りインターナル・ブレイカー」のすぬ婆

↓「宇津串 憩絵」という声優がいてだな


【ワールドブルー物語】


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