食べるのがダメなら作ればいい
発想を、逆転させる。
ゲーム『逆転裁判』シリーズのファンである僕は、「発想の逆転」という考え方が好きだ。これは、あらゆるアイディアに通用するのではないかと思う。
◇
役場職員時代、地域のお祭りの手伝いをよくしていた。というか、自ら志願して実行委員会になった。
子どもたちに楽しんでもらうためのお祭り。小規模ではあるものの、露店やふわふわドーム、パトカー・消防車に乗って写真撮影など、さまざまな出し物に子どもたちは喜んでくれていたと思う。
実行委員会の方も、おじさんおばさんだけでなく(僕を含む)移住してきた若者も増えてきて、ますます活気づいてきた。
と、思っていた。
その年は、いやその年もまた、企画会議は難航していた。
お祭りの中で行う、ミニイベントがなかなか決まらないからだ。
毎年行っているお祭りではあったが、ゆえに少しマンネリ化している部分もあり、新しいものを取り入れる必要がある。しかし、そう簡単にアイディアがぽんぽんと出てくるわけではない。
7月に行うので、涼し気なものがしたい。鬼に扮した実行委員メンバーを水鉄砲で退治するアトラクション以外にも、なにかできないだろうか。たとえば、かき氷早食い競争とか。
いやダメだ。ただでさえ衛生管理のことは保健所にうるさくいわれているのに、子どもに早食いさせてもし体調が悪くなりでもしたら、お祭り存続の危機にもなる。大切なお客様である子どもたちに、かき氷の早食いなどさせてはならぬ。さてどうする。
ピキョーン(コナンが犯人を突き止めたときの音)
我が頭脳に、一筋の光が閃いた。
子どもにはかき氷の早食いをさせてはいけない。
でも、大人がやるには問題ないよね?
そこで考案したのが、かき氷早作り競争だ。
子どもたちにかき氷を作らせ、それを実行委員が食べるなら問題はない。少なくともお客様は、かき氷を作るだけなので危険はない。
勢いづいた我が頭脳、次々とアイディアを生み出していく。
子どもたちはチームに分かれ、一定の量になるまでかき氷機をゴリゴリ回し、その後くじ引きをしてシロップとなるものをかける。ただ美味しいかき氷だと面白くないから、シロップのバリエーションに変なものを入れてはどうだろう。運が良ければ普通のシロップだけれど、めんつゆ、酢、粉プロテインなどの可能性もある、みたいな。
それいいね、面白そうだね、と賛同の声が上がる。おかげで、かき氷早作り競争は採用された。
お祭り当日。
結果からいうと、かき氷早作り競争はかなり盛り上がった。
ときに変なものをシロップにされるので、食べる係の人は大変そうだった。僕は、発案者という立場で大いに職権乱用し、食べる係を免れた。くじは見事に粉プロテインばっかり当たる。中途半端に溶け残ったプロテインをかき込む二人の若者を、僕は子どもたちとともに嘲笑いながら見ていた。性格が悪い。
◇
考え方を少し変えるだけで、できそうもないことができるようになる。
常に多角的な思考ができているわけではないが、ブレインストーミングでアイディアを出していくことは、僕の好きな頭脳労働だ。
「その発想はなかった!」と誰かに思わせたい、という意識が潜在的にあるのかもしれない。
そしてそれは、創作活動をする上でとても大切なことだと思う。奇をてらいすぎてはいけないが、新しい風を取り入れるような柔軟な思考をこれからも目指していきたい。
柔軟な思考は、粉プロテインかき氷を食べていた人間を覚えていないくらい性格の悪い僕でも、きっと習得できるはずだから。
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