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社長の膝の上で絶対にしてはいけないこと

想像してみてほしい。ビールと焼肉をたらふく胃に詰め込んで、狭い車に揺られたら。



役場職員3年目の頃に、町内で植樹のイベントがあった。役場や地元の林業会社など関係機関が協力し、未来のために木を植えようという趣旨だったかと思う(僕の働いていた町は林業が盛んである)。

このイベントには、とある林業会社の、当時30代のバリバリな若手社長も参加していた。地域のお祭りの手伝いなどで、僕が新人の頃からお世話になっている人だ。いつもMAMMUTのTシャツを着ていて、ウルトラマンタロウに出てくるZATの荒垣副隊長に似ている。せっかくなので、仮名をアラガキ社長としよう。


植樹イベントは土曜日の午前で終わったので、我々スタッフは打ち上げを始めた。森林公園でBBQだ。真っ昼間から飲むビールは美味いし、焼肉はいつ食べても美味い。なにより、これがすべて他人のお金だから余計に美味い。

BBQが終わってからも、町内の飲食店に場所を変えて二次会だ。もうすでに黒ラベルとジンギスカンでお腹パンパンだが、アラガキ社長が「飲め」といえば飲むし、「食え」といえば食う。アルハラ? そんな言葉は存在しない。

しかし、僕は良くても、僕のはらわたは限界に近かった。もう出そう。うんこが。うんこがもう出そうだ。

「お店のトイレを使えば良かったのに」といわれたらその通りなのだが、もう帰るし、家も近いし、大丈夫だろうと確信していた。肛門括約筋には少々自信がある。そんじょそこらの柔な輩と一緒にしないでいただきたい。この程度の便意、ファッションショーで花道を歩くかのごとくエレガントに乗り越えてしんぜよう。


ところが、予想外の出来事が起きた。アラガキ社長の奥様が車で迎えに来たとき、「アルロンくんも乗っていきなよ!」と声をかけてくださったのだ。僕は当然「いや、すぐそこなんで大丈夫っす」と、それはそれは丁重にお断りした。徒歩1分の距離を乗せてもらうのは忍びない。

しかし、とっても優しいアラガキ社長は屈しなかった。「いいから乗れ」と後部座席から手招きをする。僕は「あっはい」と返事をするしかなかった。

乗せてもらうのは良いとして、一つ問題があった。運転席にはアラガキ夫人、助手席にはアラガキ家の姫がオン・ザ・チャイルドシートしている。つまり、後部座席に座るしかない。
アラガキ社長は、うん、なんというか、ふくよかな人だ。そして、後部座席にはもう一人、町役場の林業担当係長が座っている。この係長は、身長が180cm台で、がっしりした体つきの人だ。
ということは、いくら僕が細身で小柄でも、スペース的にかなり狭い。どうがんばっても、アラガキ社長の膝の上に座るしかない。それはさすがに失礼だろう。

しかし、とっても優しいアラガキ社長は「俺の膝の上に乗ってもいいから座れ」と語気を強めた。僕は「あっはい」と返事をするしかなかった。

たった数分、いや数秒のドライブとはいえ、アラガキ社長の膝の上に全体重を預けるわけにはいかない。僕はアシストグリップに掴まり、なるべくアラガキ社長の迷惑にならないように努めた。

そう、迷惑にならないように努めたのだ。

そのまま歩いていればなんともなかったはずのマイはらわたは、自動車のGに耐えられず、断末魔の声を上げた。


「ベッ」


「ベッ」? いや、。屁だ。
僕はアラガキ社長の車の中で、しかもよりにもよってアラガキ社長の膝の上で、オナラをしてしまった。

すぐにでも土下座をしたかったが、両手はアシストグリップ、両脚はアラガキ社長の膝の上だ。まるで身動きが取れない。口だけは開けたので、僕は「ごめんなさい」をしぬほど繰り返した。車内のほかの人たちは、アラガキ社長も含め、大爆笑だった。

不可抗力だったとはいえ、アラガキ社長の膝の上でオナラをしたのは事実だ。
同乗した係長は、この出来事が僕の二大エピソードに入るほどお気に入りだったようで、飲み会で僕に会うたびイジり倒してくるようになった。ちなみにもう一つは、「僕がこの係長を業者の人だと勘違いして、名刺を渡そうとしたこと」だ。

いずれにしても、放出されたのがうんこじゃなくて本当に良かった。
いや、どっこいどっこいか?





【あとがき】

タイトルを見て、「あ、こいつまたうんこの話だな」と思ったあなた。
アルロン検定3級を授与します。




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