速報:2024年4月ドバイの大雨事例(1)
UAEでは2024年4月16日は記録的な大雨となり、1日で平年の年間降水量の2倍を超える雨が降ったところもあると報道されています。ドバイ国際空港は日降水量が100mmを超える大雨となり、空港が冠水して、航空機は水飛沫を上げながら滑走路を移動していました。飛行場での観測から、雷雲が5回も通過していました。
この現象について、飛行場の観測と気象庁全球数値予報システム(GSM)の初期値を利用して、大雨などの要因について推測します。今回の記事は地上実況、地上天気図、925hPa面の状況について考察し、2回目は上層の状況や安定度について考察する予定です。
この記事で示す図はPytonを利用して作成しています。この作図コードの一部はダウンロードできるようにしています。興味のある方は実行してみてください。
この記事では、時刻は世界標準時で示します。
UAEの地形とドバイ国際空港の位置
まずはUAEの地形を確認しましょう。図1を見てください。ドバイ国際空港の位置は赤の+印で示しています。空港の北西側はペルシャ湾となっており、東側には標高300m以上の南北に連なる山地となっていることがわかります。この山地は所々高度が低いところがあり、東風が吹くとオマーン湾から海洋性の気団起源の空気が、ドバイ周辺に流れ込む可能性もありそうです。
図1で使用した標高データは、NOAAのNational Centers for Environmental Informationが作成している、陸の標高や水深データ(version ETOPO 2022)を利用しています。
図1の作図に興味がある方のために、pythonで記述したjupyter notebookのコードを公開します。少し修正すると様々な図法で地形図が書けます。参考にしてください。
ドバイ国際空港では雷雲が5回やってきた
ドバイ国際空港の飛行場実況気象通報(METAR,SPECI)から、風、気圧、気温、露点温度、雷の期間を示した時系列図を作成しました(図1)。紫の枠で囲った期間が雷を観測した時間帯(気象通報で連続して雷を観測している時間帯)です。およそ26時間の中で、5回雷の期間があり、最後の雷が少なくとも2時間28分と最も長時間となっています。雨量データは入手できていませんが、少なくともおよそ1時間以上雷が続いた期間が5回もあり、雨のピークは何度もあったと考えられます。この5つの期間を、早いものから順に、雷期間A,B,C,D,Eとします。
雷期間A(15日14:04から15:00)は、この期間前までは北寄りの風で気温が30度以上、雷雨の際は東寄りの風に変わり、降水に伴って気温は急下降しています。
雷期間B(15日20:43から22:15)は、この雷を観測している時に東風から南よりの風に変化しました。
雷期間C(16日03:48から05:38)は、この期間前に降水を伴って南東風が強まって、36knotの突風を観測しています。雷が観測されている04:00まで気圧は1006hPaまで下がっていましたが、04:40に1011hPaとなり、40分で5hPa気圧が急上昇しています。風は北寄りに変化しました。
雷期間D(16日10:00から11:43)、雷期間E(16日13:38から16:00)は、16日に最も気圧が低くなっている前後にあたります。気圧と風の変動も大きくなっていますが、風は基本的に東よりの風が卓越しています。
雷期間AとB、Cは明瞭な風の変化、気温が低下した傾向がみられ、何らかの擾乱が通過した可能性があります。
地上の気圧配置
図3に、気圧と10m高度の風、気温の天気図を15日00時から17日00時の6時間ごとに示します。ドバイ周辺に影響を与えた二つの低気圧があることがわかりました。その2つの低気圧の位置を示した図4を見てください。
ドバイの南側を東北東進んた低気圧(図4のX印で示した低気圧、以後低気圧Aと呼ぶ)は、明瞭でそれほど発達していないことがわかります。もう一つの低気圧(図4の+印で示した低気圧、以後低気圧Bと呼ぶ)は明瞭ではなくて、図3では16日18時のみLスタンプがあります。その前後の時刻は、風の低気圧循環から推定した低気圧の中心位置を図4に示しています。
雷の期間は16日18時までに発生しています。低気圧AやBの接近によりUAEやオマーンでは南から東よりの風が吹くことになります。ドバイ国際空港では東寄りの風で湿った空気がオマーン湾方面から流れ込む場合、あるいはアラビア海からオマーン、ルブアリハル砂漠を通ってUAEに流れ込んだ可能性もあります。この流れ込みを確認するために、下層の相当温位や風を調べます。
本来は、小低気圧や前線、局地的な前線についての考察が必要ですが、UAE周辺の他の観測実況も参考にする必要があることから、ここでは行いません。
925hPa面の湿った空気の流れ
図5に925hPa面の相当温位と風の天気図を示します。
15日12時にドバイ国際空港の南では、東西に伸びる相当温位339K以上の空気があって、北上しています。この空気は15日18時頃にドバイ国際空港付近を通過し、相当温位のピークがありました。このタイミングは雷雨期間Aと対応が良いです。この925hPa面の湿った空気は、南または南東風によりもたらされており、アラビア海からオマーン、砂漠を通ってUAE東部に流れ込んだものが主と推測されます。ただし、12時過ぎに一時的に湿った空気が、オマーン湾から弱い南東から東の風により地形の低いところを通って、ドバイ付近に流れ込んだ否定はできません。
この後、さらに相当温位339K以上の暖かく湿った空気が北上し、この先端部には東西に伸びる南東風と南風のシアーが見られます。このシアーは16日6時頃にドバイ国際空港を北上し、その後この空港付近では12時に相当温位が約345Kとピークとなり、18時でもおよそ342Kと高くなっています。この相当温位がピークのタイミングは、雷雨期間D、Eと対応が良いです。この高い相当温位の空気も、風向きなどから先程と同様に、アラビア海からオマーンを通ってきたものと推測できます。
今回の記事は、ここまでです。次回は、安定度や上層の状況についても確認していく予定です。
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