700hPa面湿数、500hPa面気温の天気図(1)
気象庁ホームページで公開されている、気象庁数値予報天気図には伝統的な主な予想天気図が5種類あります。
① 500hPa面高度・渦度の天気図
② 700hPa面湿数と500hPa面気温の天気図
③ 850hPa面気温・風と700hPa面鉛直流の天気図
④ 850hPa面相当温位・風の天気図
⑤ 地上気圧・風と降水量の天気図
それぞれの例を図1に示します。今回は、700hPa面湿数と500hPa面気温の天気図(以後「②の天気図」と略す)についての話題と、同等のカラー版の数値予報天気図を作成する、MetPyを利用したPythonのコードを紹介します。①の天気図のカラー化については、すでに記事にしています。
この予想天気図は、700hPa面の湿数と、500hPa面の気温を重ね合わせています。この2つの要素は高度も異なれば物理量も異なっています。なぜこの組み合わせなのでしょう?
この疑問について考察してみます。最初に700hPa面湿数、そして500hPa面気温のそれぞれの主に把握できる現象の特徴を考察した後、これらを重ね合わせることで何が見えてくるか考えます。
700hPa面の湿域
②の天気図のハッチで示された、700hPa面の気温と露点温度の差が3度以下の領域(以後「湿域」と記述)は中層雲に覆われ、曇りまたは雨や雪が降っていると予想できるでしょう。
この湿域に対応する雲は、700hPa面は高度3km程度なので、高層雲、高積雲、乱層雲、積乱雲、一部発達した積雲となります。ただし、孤立した積乱雲や積雲の空間スケールはこの数値予報天気図で表現できるスケールより小さいため、これに対応する湿域は表現できません。
温暖前線や停滞前線に沿って中層雲(高層雲など)がある場合、寒冷前線や停滞前線に沿って発達した積雲や積乱雲が連なる場合、これら雲域に対応した湿域が長く連なって天気図に表現されます。例を図2に示します。左図は2021年8月17日15時の衛星赤外画像で、点線領域には停滞前線に対応する積乱雲域があります。②の天気図(右図)の緑塗りつぶし領域は露点差が3度以下の湿域です。積乱雲域に対応して湿域(点線内)が東西に連なっていることがわかります。
上層のトラフと結びついて発達段階にある低気圧は、バルジ状の雲域(「傾圧性の木の葉状の雲(baroclinic leaf cloud)」と呼ばれることも)を伴っています。この雲域は絹雲や高層雲、乱層雲などからなっています。②の天気図からは、この雲域の中で中層雲が存在する領域に対応した湿域を確認できるでしょう。図2左にあるバルジ状の雲域の北西端を青実線で示しています。右図にも同じ位置に青実線で転記します。バルジ状の雲域は北側ほど高度が高くなり、上層雲が主になってきます。右図の湿域はバルジ状の雲域の南側に分布し、日本海西部にある低気圧中心(図略)周辺から前線に沿って東に連なっています。
700hPa面の乾燥域
次に700hPa面の乾燥した空気に着目します。ここでは、気温と露点温度の差が18度以上の領域を乾燥領域と呼ぶことにします。
発達後期・閉塞期の低気圧は、西から南西側には乾燥域があり、水蒸気画像では暗域に対応します。乾燥した空気が入っているところでは雲はなく、特徴的な雲域(「雲の頭(cloud had)」と呼ばれることも)が形成されます。
図3に例を示します。青点線で示した領域をみてください。天気図(右図)から、閉塞している低気圧が解析されています。②の天気図(中図)の乾燥領域(露点差が18度以上:黄色で塗りつぶした領域)に注目すると、低気圧の南西側を中心に中層の乾燥した空気が流れ込んでいるのがわかります。水蒸気画像(左図)では乾燥領域に対応する暗域がみられ、これに伴い特徴的な雲域が形成されています。
次回は、500hPaの気温について考えます。
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