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速報:2024年4月ドバイの大雨事例(3)

これまで2回の記事でお伝えした通り、2024年4月のドバイの大雨の特徴として次のように確認、推定してきました。
ドバイ国際空港では15日14時から16日16時の間に5回雷雨があった
•地上天気図からアラビア半島南部とペルシャ湾を東北東進する2つの低気圧により、暖かく湿った空気がアラビア海からオマーンを通って、UAE付近に流れ込んだ
・UAEでは925hPa面では相当温位345K以上の暖かく湿った空気が流入
・衛星観測から5回の雷雨のうち、雷雨をもたらせた対流雲の発生地域は、3回はベルシャワ湾沿岸、2回はUAEの西側国境に近いサウジアラビア東部で発生

今回は高層の気象状況と安定度について考察しました。


高層の気象状況と安定度

300hPa面の天気図(JET解析)

図11に、300hPa面の天気図にJET解析を示します。4月15日00時に東地中海東岸にあるトラフが東南東へ進み、16日12時には切離した低気圧が発生して、イラン西部で停滞しました。UAE付近では15日12時頃から分流場となり、トラフの接近により次第に高気圧性の曲率をもつ流れとなり、複数のJET軸が出現しています。その後16日18時から17日0時頃にかけてトラフが通過しています。長波のトラフは17日0時でもUAEの西に残っています。

このように、300hPa面では切離した低気圧が西ないし北西方向から接近するタイミングでUAEでは大雨となったことがわかりました。その際にUAE付近ではジェット気流が分流しており、300hPa面の収束発散が強まり、対流雲の発達期にはこの発散が寄与した可能性が考えられそうです。

図11 GSMの初期値の300hPa面天気図
2024年4月15日00時から17日00時の6時間ごと
等高度線(黒線)、等風速線(紫線:kot)、等温度線(赤点線)、ジェット軸(青矢印)

500hPa面の天気図(渦度と高度)

図12に、500hPa面の天気図の渦度分布と等高度線を示す。ただし図11の300hPa面天気図より狭い範囲の図にしています。500hPa面でも切離した低気圧が接近しています。17日00時にはUAEの北にまで進んでいました。

UAE付近では15日12時頃に、北西から南東に軸を持つリッジが通過しました。その後、対流雲活動に伴って西から接近してくる渦度が強まり、明瞭な孤立した正渦度の極大域が何度か通過しているます。17日0時は東西にのびる高渦度域がUAEにかかり、図13からこの高渦度域では500hPa面で気温が高くなっていることなどから、力学的圏界面の下降に伴うものと推定しました。

図12 GSMの初期値の300hPa面天気図
2024年4月15日00時から17日00時の6時間ごと
等高度線(黒線:単位gpm)、相対渦度(シェード:単位1/sec 0以上を灰色、8*10-5以上を赤)

500hPa面の気温と700hPa面の湿りの天気図

図13に500hPa面の等温度線、700hPa面の湿数の分布を示します。500hPa面の気温を見てみると、UAE付近では大雨が降り始める頃には気温が上昇しています。大雨前の15日0時はマイナス9度以下でしたが、大雨が降り始めていた16日0時にはマイナス9度以上となり、大雨が終息した17日0時にマイナス9度線がUAEにあります。このように不安定性降水が顕著な時間帯では500hPa面の気温は上がっており、上層(500hPa面)には明瞭な寒気トラフの通過が解析できない状況となっています。

この要因について考えています。切離低気圧の南側にある寒気トラフ(マイナス9から12度)があって、UAEへ西から接近しています。この前面では700hPaの湿り域が次々と東北東進しています。このことから、UAEより西では500hPa面でも寒気トラフが接近し、これにより大気の状態が不安定となって対流活動が強まったと考えられます。この対流雲域はUAE接近時や通過時に凝結等により500hPa面でも気温を上昇したと推測しました。UAE付近では切離低気圧が接近しても寒気が入りにくかったと推測しています。

図13 GSMの初期値の高層天気図
2024年4月15日00時から17日00時の6時間ごと
500hPa面の等温度線(青線)、700hPa面の湿数(カラー)

850hPa面の相当温位と風

図14に、850hPa面の相当温位をカラーで、風を矢羽で、低気圧循環の中心を星印で示しています。16日00時までサウジアラビアを東進する低気圧の循環中心はその後不明瞭になり、その東側で新たな低気圧循環が発生し、16日6時から17日0時にかけてベルシャ湾を東北東進しました。これら低気圧循環の東側では南よりの風が吹いて、暖かく湿った空気が低気圧の東側広い範囲に流れ込みました。

地上の低気圧は、図4の通りどちらかというとUAEの南西象限を東進するものが主体でしたが、850hPa面ではUAEの北西象限にありました。下層において暖かく湿った空気がアラビア海からオマーン、UAEへ流れ込んだのは、この低気圧循環の影響と推測できます。

図14 850hPa面の相当温位と風
2024年4月15日00時から17日00時の6時間ごと
相当温位(カラー)、風(矢羽)、低気圧の循環中心(星印)

SSIと300hPa面の気温分布

図15に、SSIの分布と300hPa面の等温度線の推移を示します。
①  15日0時にサウジアラビアからオマーンにかけて東西にのびるSSI負領域があって、北上しています。この領域は850hPa面の相当温位345K以上と対応がよく、下層の暖かく湿った空気の影響により不安定となっていると考えられます。
②  15日12時にUAEを東西方向にのびるライン状のSSI負領域(①の領域よりスケールが小さい)が北上しました。この不安定域は925hPaの相当温位の傾度が大きい領域の暖湿側と対応(図5参照)がよく、雷雨期間Aでは東西にのびる対流雲域によりドバイ国際空港では雷雨となっていました(図6参照)。
 また、雷雨期間Bの対流雲域は、①の北上してきたSSI負領域の北端と対応がよいです。
② 15日18時は、SSI負領域ではマイナス6以下になったところがあり、SSIが最も低下した時間帯です。この時UAE付近では雷雨期間Bの対流雲域が東進中です。
③ 15日0時から6時の間に、雷雨期間Cの対流雲域がUAE付近を東進している。この対流雲域はSSI負領域の中に含まれている。300hPaの寒気マイナス36度以下の寒気トラフがペルシャ湾を進んでおり、この影響で雷雨期間Cの対流雲がさらに発達した可能性もありそう。
④ 15日6時から12時の間に、雷雨期間Dの対流雲域がUAE付近を東進。③と同様に対流雲域はSSI負領域の中に含まれています。
⑤ 15日12時ではSSI負領域は南北にのびる形となり、西側では安定度が回復してきている。南北にのびるこの領域は雷雨期間Eの対流雲域を含んでいます。

図15 GSMの初期値のSSIと300hPa面の気温
2024年4月15日00時から17日00時の6時間ごと
SSI(カラー)、300hPa面の等温度線(青線:3度毎)

鉛直時系列図

GSM初期値におけるドバイ国際空港に最も近い格子点の時系列図を図16に示します。時間間隔が6時間ごとのため、5回の雷雨時の気象状況を十分には表現できていませんが、下層の暖かい湿った空気(相当温位は336K以上)が16日12時以降から南よりの風により流れ込んで、対流不安定が強まっていることがわかります。一方上層(300から500hPa面)では、雷雨があった15日14時から16日16時にかけて、気温の変動はありますが高くなる傾向にあり、明瞭な寒気が入ってはいないようです。ただし、16日6時は上層の気温が低下が見られます。この直前に雷雨期間Cに対応する対流雲域が通過していることから、この寒気トラフの前面でこの対流雲が発生・発達した可能性はありそうです。ただし、平面図からはこの寒気トラフは明瞭には解析できないため、総観スケールの寒気でない可能性もあります。

図16 GSM初期値によるドバイ国際空港に近い格子点の鉛直時系列
(2024年4月15日0時から17日6時、ポイント北緯25.5度 東経55.5度)
温位(黒線)、相当温位(赤線)、温度(黄色)、湿数(カラー)

まとめ

GSMの全球解析を使って、2024年4月15日から16日にドバイ国際空港で発生した大雨の環境場について調べ、次のことがわかりました。

  • 大雨時に、上層では切離した低気圧がゆっくり接近していました。この接近時にUAE付近ではジェットの分流が明瞭となっており、これに伴う上層発散により対流雲がさらに発達した可能性がありそう。

  • UAEでは大雨の前後で、300hPa面と500hPa面の気温の明瞭な低下は見られませんでしたが、UAEから西に離れた地域では寒気トラフの東進を確認できました。UAEでは気温低下がみられなかった要因として、UAEの西の地域で対流雲が発生、東進して、この対流活動が活発だったため潜熱の放出により空気が暖められたことなどが考えられます。

  • 下層で暖かく湿った空気がUAEに流れ込んだ要因としては、850hPaの低気圧循環がサウジアラビアを東進したことにより、UAEからオマーンにかけてはこの循環の南東象限にあたり南東から南西の風が吹いて、主にアラビア海を起源とする相当温位が345K以上の暖かく湿った空気がUAEに流れ込んだと推定しました。

  • 上記とSSIの解析から、UAEで大気の状態が不安定となった要因は、上層の寒気というよりは、下層で暖かく湿った空気が流れ込んだことが主だったことがわかりました。ただし、16日6時頃に上層の寒気トラフ通過した可能性はある。

GSMの初期値からでは6時間毎で空間解像度も高くなく、今回のような組織化した対流雲域を解析するには不十分であることから、雷雨をもたらせた対流雲の2つの発生地域での気象状況を解析することはできなかった。

上層の切離した低気圧が接近した、この南東象限ではしばしば雷を伴って短時間強雨となることは知られているが、ドバイ国際空港のようにほぼ1日で雷を伴った嵐が5回も通過して、総降水量も多くなった事例は珍しいと思われます。この環境場としての要因はわかりませんでしたが、大雨期間中に500hPaや300hPa面で気温が高いことにより切離した低気圧の前面でリッジが強まったことでUAEの西ではトラフが持続しやすかったことや、850hPa面の低気圧循環がUAEの北西側を東進したことにより持続的に暖かく湿った空気が流入したことが影響しているのではと感じています。

日本においても、上層の切離した低気圧がゆっくり接近、停滞した際に、この南東象限にあたる地方では対流雲が組織化しやすい環境場が持続し、ほぼ同じ場所で対流雲が発生・組織化すると、これらが通過する地域では雷を伴った嵐が何度も通過することが全くないとは言えないと思います。

以上、記事を読んでいただきありがとうございました。

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