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関東エリアでの「雷三日」とSSI(4)
前回の記事では、2024年6月2日から4日の事例を通じて、雷の観測データとSSI、地形との関係について考察しました。その結果、SSIと予想の降水域のみでは雷の発生を予測することが難しく、雷発生には地形や静的安定度だけでなく、さまざまな気象要因が影響を与えることがあらためて確認されました。
今回は、対流雲の発生や発達に重要と考えられる下層風の収束と、975hPaから持ち上げて計算したSSI(975-500hPa)に着目して調査します。
発雷地点の地形高度と収発散の関係
雷予測に関する知見を得るために、雷が観測された地点におけるMSMの予測発散と地形高度の関連性を調査します。
分析には、前回と同様に気象庁のメソモデル(MSM)を使用します。
• 初期時刻:6月2日、3日、4日のそれぞれの朝6時
• 予想対象時刻:6月2日は15時、3日と4日は18時
• 雷観測(気象庁のLIDEN):予想対象時刻の前後30分の1時間分を対象
図1に、6月3日18時の850hPa面(上図)と975hPa面(下図)の予測発散、および地形高度のプロット図を示します。プロットの色は、下図の左上にある地図上に示した雷の位置の色と対応しており、例えば緑のプロットは東京23区付近で観測された雷を示しています。
![](https://assets.st-note.com/img/1738384362-LM1cF6ro38SEyRxua4bpIKV0.png?width=1200)
上図は850hPa面の発散、下図は975hPa面の発散を示す。
プロットの色は、下図左上の地図上に示した発雷地点の色と対応する。
発散のデータはMSM(2024年6月3日6時初期値)による3日18時の予測値から算出。
雷の観測データは気象庁LIDENによるもので、17時30分~18時30分の1時間分を利用。
この図を見てみると、以下の傾向を確認できます。
地形高度250m以下の雷:
• 975hPa面では収束となっているケースが多い。
• 850hPa面では発散が見られるケースも少なくない。
地形高度750m以上の雷:
• 850hPa面では収束が見られるケースが多い。
• 975hPa面では発散が確認されるケースも少なくない。
この結果から、地形高度の高いほど、雷の発生に関連する下層の収束の高度も高くなっています。逆に。地形高度の低いほど、収束の高度も低くなっています。
対流雲の発生は、自由対流高度より下層での収束が重要と考えられます。この収束が強い場所で上昇流が発生し、対流発生のトリガーとなります。一般に、自由対流高度より下の気層における収束の主な高度は、地形高度が高くなればそれに応じて高くなるため、今回の結果は理にかなっています。
6月2日15時と6月4日18時についても、図2および図3に、図1と同様の発雷地点における発散と地形高度の関係を示しました。どちらのケースも、先ほど確認した傾向と同じ結果となっており、地形高度が高いほど収束の高度が上がるという関係が一貫していることが分かります。
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上図は850hPa面の発散、下図は975hPa面の発散を示す。
プロットの色は、下図左上の地図上に示した発雷地点の色と対応する。
発散のデータはMSM(2024年6月2日6時初期値)による2日15時の予測値から算出。
雷の観測データは気象庁LIDENによるもので、14時30分~15時30分の1時間分を利用。
![](https://assets.st-note.com/img/1738416051-Ue6SB4mKt1qZHahpg8ywciNx.png?width=1200)
上図は850hPa面の発散、下図は975hPa面の発散を示す。
プロットの色は、下図左上の地図上に示した発雷地点の色と対応する。
発散のデータはMSM(2024年6月4日6時初期値)による4日18時の予測値から算出。
雷の観測データは気象庁LIDENによるもので、17時30分~18時30分の1時間分を利用。
975-500hPaのSSIとの対応
これまでの結果から、地形高度が低い場所で発生する雷は、850hPa面よりも975hPa面の収束とより強く対応している可能性があることが分かりました。このことを踏まえると、SSIも850hPaではなく、975hPa面の気塊を持ち上げて計算することで、雷との対応がより良くなる可能性がありそうです。
そこで、新たにeSSI(975-500hPa)を計算し、従来のeSSI(850-500hPa)と比較しました。図4から図6では、これまでの図1から図3と同じプロットを用いながら、プロットの色を以下のように変更しました。
上図:eSSI(850-500hPa)のカラースケール
下図:eSSI(975-500hPa)のカラースケール
![](https://assets.st-note.com/img/1738453096-byw9dOp1kzhMWHtTj2A7RNIe.png?width=1200)
上図は850hPa面の発散、カラーはeSSI(850-500hPa)を、
下図は975hPa面の発散、カラーはeSSI(850-500hPa)を示す。
発散のデータはMSM(2024年6月3日6時初期値)による3日18時の予測値から算出。
雷の観測データは気象庁LIDENによるもので、17時30分~18時30分の1時間分を利用。
![](https://assets.st-note.com/img/1738453320-gPL1WcTzJfdFGqDv3rhjbEV4.png?width=1200)
上図は850hPa面の発散、カラーはeSSI(850-500hPa)を、
下図は975hPa面の発散、カラーはeSSI(850-500hPa)を示す。
発散のデータはMSM(2024年6月2日6時初期値)による2日15時の予測値から算出。
雷の観測データは気象庁LIDENによるもので、14時30分~15時30分の1時間分を利用。
![](https://assets.st-note.com/img/1738453448-v0Jq1A3nWlmgNVKp6QsIzHXO.png?width=1200)
上図は850hPa面の発散、カラーはeSSI(850-500hPa)を、
下図は975hPa面の発散、カラーはeSSI(850-500hPa)を示す。
発散のデータはMSM(2024年6月4日6時初期値)による4日18時の予測値から算出。
雷の観測データは気象庁LIDENによるもので、17時30分~18時30分の1時間分を利用。
図4から図6では、上図(eSSI (850-500hPa)と850hPa面の発散)と下図(eSSI (975-500hPa)と975hPa面の発散)を比較すると、地形高度0~500mのプロットにおいて、下図の方が赤色に近いものが多くなっています
しかしながら、6月2日の図5(下図)では、高度0mに近い一部のプロットではeSSI(975-500hPa)の値が高くなっており、必ずしも従来のSSIより優位な資料とは言えません。(このエコー域は、図2下図の地図に赤色で示した、埼玉県付近のエコーに対応します。)このようなケースでは、eSSI(975-500hPa)の適用に課題がある可能性があり、さらなる検討が必要です。
eSSI(975-500hPa)の分布図
図7と図8にMSMの予測eSSIの分布を示しています。図7はeSSI(850-500hPa)、図8はeSSI(975-500hPa)を実線で示しています。
![](https://assets.st-note.com/img/1738456462-MT6Eca09VXnfWeRudqK8BoxS.png?width=1200)
MSM予測前1時間降水量(カラー表示)
MSM予測eSSI(850-500hPa)の等値線
(0, 1, -1, -2, -3は紫実線、3は赤実線)
MSM予測の地上予測風(矢羽)
LIDENによる前後1時間の雷の観測(赤丸:落雷、赤X:空間放電)
MSMの初期時刻は3日6時
![](https://assets.st-note.com/img/1738456470-2jBMGXH6845UalKrD3dkcEI9.png?width=1200)
図7とeSSIのみ異なり、eSSI(975-500hPa)を使用
図7と図8を比較すると次の点が確認できます。
・東京湾付近ではeSSI(975-500hPa)が-3以下の領域となっており、実際に東京湾で発生した雷との対応が良いように見えます。
・一方で、平野部ではeSSI(975-500hPa)のマイナス領域が広範囲に広がっており、雷発生との対応が明確とは言えません。
以上の結果から、地形高度の低い地域で発生する雷予想において、従来のSSIでは確認できなかった不安定域を、SSI(975-500hPa)を用いることで把握できる可能性があることがわかりました。
ただし、この不安定域は、晴れた日の日中などの条件下では平野部で広範囲に拡がることがあり、雷の発生域を適切に絞り込むことが難しくなります。そのため、975hPaの収束域や他の指標も併せて確認しながら活用することが重要です。
おわりに
雷予報の知見を深めるために、これまで4回にわたる記事で、伝統的にしようされてきたSSIの活用について深掘りしました。その結果、SSIと予想の降水域のみでは、雷の発生を予測することが難しいことを、実際の事例を通じてあらためて確認しました。
また、今回の事例からも、雷予報には潜在不安定を顕在化させる下層の収束が重要であることを確認し、この収束の高度は地形高度を考慮して設定する必要があることを示しました。さらに、この収束の高度の気塊を持ち上げて計算するSSIが従来のSSIよりも雷予報に適しているケースがあることも確認しました。
実際の予報業務では、限られた時間の中で数値予測資料や実況資料を確認しながら予測を行う必要があります。このため、予報の効率化と精度向上のためには、現象ごと・地域ごとの知見をスムーズに活用できる、適切な要素を重ねた予測天気図が重要だと考えています。
今回の事例を踏まえると、関東平野部での雷予報には、従来のSSIに加えてSSI(975-500hPa)、975hPa面の風と収束域を重ねた予測天気図も有用と考えられます。(風と収束については、予報誤差があることから、ある程度大きなスケールの収束が適切と考えられるので、スムージングをかけて細かな変動を取り除いて表示する方が良いかもしれません。)
また、雷発生の要因を考察するためには、以下の要素を組み合わせた天気図が有効でしょう。
• 上層の寒気の動向を把握するための thickness (300-500hPa)の等値線
• 975hPa の相当温位の等値線
• 975hPa面の風とその収束域
• Qベクトルの収束
これらの要素を解析することで、雷発生の要因がより明確になり、発生前のタイミングでの実況監視の着目点を明確になるでしょう。その結果、適切な予報の修正にもつながると考えられます。
今後は、特定の現象を予測する上でどのような天気図が有効かを、現象別に考察していきたいと考えています。
長い記事を読んでいただき、ありがとうございます。当初、このシリーズは秋までに完結させ、冬には雪に関する記事を掲載する予定でしたが、思った以上に時間がかかり、予定より遅れてしまいました。
次回からは、プログラムの紹介を中心とした内容をお届けする予定です。引き続き、よろしくお願いいたします。