700hPa面湿数、500hPa面気温の天気図(2)
500hPa面の気温について
現象に伴う特徴的な500hPa面の気温の分布には、主に次のようなものがあるでしょう。
・トラフに伴うサーマルトラフ
・発達した低気圧の前面のサーマルリッジ
・気団の縁や前線帯に伴う等温度線集中帯
・熱帯低気圧や台風の暖気核
・寒冷渦などの寒気コア
・太平洋高気圧に伴う暖かい領域
500hPa面気温場の把握対象としては、上記の項目に加えて、解説で利用される大雪の目安となるマイナス36度以下の寒気、夏季の西日本・東日本では大気の状態が不安定となる目安のマイナス6度以下の寒気を示す、特定の等温度線があります。さらに、実況から500hPa面の寒気と対応がよい対流雲域があれば、その温度にも着目することになります。
700hPa面湿数と500hPa面気温を重ねるメリット
この気温と700hPa面湿数と関連が深い現象として、前回示した前線帯に伴う中層雲や対流雲、上空寒気により大気の状態が不安定となって生じる対流雲域、台風や熱帯低気圧に伴う雲域、低気圧の最盛期に見られる低気圧後面から流れ込む冷たく乾燥した気流などが考えられます。
これらの特徴的な気温分布と、湿数で想定できる中層雲域や発達した対流雲域の対応関係を把握することで、どのような現象で雲が出ているかはある程度イメージできそうです。さらに他の天気図も利用して現象を特定した後、その低気圧や台風など現象のステージ(発生・発達・衰弱・温帯低気圧化など)の予測において、この湿数と気温分布の対応関係の時間推移は参考になります。
話は変わりますが、デメリットとしては次の点もあるでしょう。500hPa面のトラフの特徴やトラフが深まるか簡易的に判断するために、トラフとサーマルトラフの位置関係を確認します。この作業では500hPa面の渦度や等高度線に温度も重ねた図の方がいいように思いますが、等温度線と等高度線がほぼ平行に位置する領域が広いなど、これらの線を重ねると見づらいというデメリットがあります。
以上から、気象庁が作成する数値予報天気図において、500hPa面の気温と700hPa面の湿数を重ねた天気図を作成している理由としては、次の2点と考えました。
現象の特定やそのステージ把握の参考となる、上層の気温分布と中層雲域や中層の乾燥域との対応関係を確認するため
500hPa面の高度・相対渦度の天気図に気温を加えると視認性に課題
今回の考察は、予報作業や事例解析において、どの要素を組み合わせた天気図が適切かを検討する上でのいい頭の体操になりました。将来、現象別の最適な天気図、ある季節に特化した天気図を皆さんに提案できればと思います。
サンプルプログラム
気象庁数値予報天気図(500hPa気温、700hPa湿数)のカラー版天気図を作成する、JRA-55用、GRIB2用のコードを添付しています。MetPyなどのインストールが必要です。