短時間の大雪事例と寒気質量について(2)
前回の記事「短時間の大雪事例と寒気質量について(1)」の続きです。寒気質量と短時間強雪の対応関係を中心に事例解析を示します。
2010年12月31日の岩手県の大雪事例
前回の記事で示した通り、2010年の大晦日は鳥取県西部の大山や米子で6時間降雪量がこれまでの一番の記録を更新しました。この同じ日に、鳥取県から遠く離れた岩手県でも6時間降雪量がアメダス奥中山で48cm、区界で46cmを観測し、これらの地点ではこの観測が通年1位の記録となっています。
盛岡地方気象台が平成23年1月5日に作成した、「岩手県災害時気象資料:平成 22 年 12 月 30 日から平成 23 年 1 月 1 日の低気圧による大雨と大雪、暴風及び高波」に、災害の概要や気象状況などが記載されています。下に、この資料にある、天気図と衛星赤外画像・レーダー画像を図1とし、また、大雪による災害状況と気象状況の一部を抜粋します。
この通り、2010年大晦日は岩手県でも大雪による道路通行止めや雪崩、倒木による停電が発生しています。また、鳥取県でもこの日大雪による雪の重みで多くの漁船が沈没しましたが、岩手県でも同様の被害が発生していました。
岩手県では、2つの低気圧の影響で、日降水量が150mm以上となった地点もあるなど、12月としては記録的な降水量となっています。北部の山沿いでは、この多量の降水量の影響で湿った雪による大雪となり、31日6時から9時ごろが一番降雪量が多くなっています。
図2に前回の記事で示した、2010年12月31日9時の寒気質量などの図を掲載します。
岩手県北部では寒気質量が100から150hPa程度ですが、沿岸部では寒気層内の平均風は東45kt程度と強く、内陸に向かって吹き込んでいます。発達する低気圧の前面での内陸の大雪事例では、寒気質量が100から150hPa程度でもコールドコンベヤーベルトにあたる湿った下層空気の流れ込みが強く持続すれば大雪となることが示された事例です。
2017年2月10日の西日本日本海側中心の大雪事例
2017年2月10日は、西日本日本海側を中心に大雪となりました。9日から11日の天気図(図3)から、9日に前線を伴う低気圧が日本の南岸を発達しながら東北東に進み、また別の低気圧が日本海にあって、9日から11日にかけて上空の寒冷低気圧の影響で動きが遅く、西日本や東日本では強い寒気が流れ込みやすい状況となった。
2017年2月10日に福井県小浜で6時間降雪量61cmを観測。これは全アメダスの中で4番目の記録となっています。16時から21時にかけて1時間降雪量が7から13cmとなっていて、強い雪が降っています。この期間を含む、気象衛星ひまわりの可視画像(2月10日11時から19時)を図4に示します。
図4の衛星画像から、日本海西部に日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)があって、山陰から福井県付近にかけての地域に到達している。福井県小浜の大雪はJPCZまたはその近傍の雪雲によってもたらされていたと考えられます。
小浜で強い降雪が降っている期間(2月10日15時から21時)は、寒気質量はおよそ300から350hPa、寒気層内の平均風は15から20knotとなっていて、寒気質量の等値線にほぼ直交する風となっていました。
この事例では、2010年12月31日の鳥取(以下、A事例と略す)と同様、6時間降雪量が多くなった要因としては、発達した雲域を伴うJPCZが停滞したことが主要因と考えらます。JPCZ周辺の寒気質量などからみた環境場は、A事例では寒気質量が250hPaと、この事例の方が値は大きいが、A事例より平均風速は5knotほど弱かった。
図5からわかるように、日本の陸地の寒気質量のピークは島根県や山口県付近となっており、寒気層内の平均風速も25から30ktと強いが、福井県のような大雪とはなっていません。大雪となるかどうかは、寒気質量の値より、JPCZの有無や、大陸から日本海へ流れ込む寒気が日本に到達するまでに海上を通過する距離などが重要のようです。