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MetPy 1.6を利用したEmagram 、ホドグラフなどの図の改良


はじめに

 2023年末にMetPyのversion 1.6が公開され、ゾンデ観測から混合を考慮したCAPEやメソスケール対流系の移動を算出する関数などが追加されました。Skew-Tやホドグラフ、安定度などのパラメータテーブルのサンプルコードも新しくなりました。以前、エマグラムなどのコードを紹介しましたが、新しいサンプルコードを参考に、安定度などのパラメーターのテーブルを追加し、ホドグラフにスーパーセルの推定される移動ベクトルの追加、さらに混合を考慮したパーセルや最も不安定なパーセルのCAPEやCINを算出する際の温度プロファイルも重ねて表示、Skew-Tへの表示切り替えをできるよう改良しました。今回は、この図について紹介し、jupyter notebookのコードを添付します。このコードを実行する際は、MetPyのVersion 1.6以上を利用してください。
 なお、MetPy 1.6.1では、残念ながら混合を考慮したパーセルのCAPEを算出する際に利用する mixed_layer_cape_cin()ではエラーが出現する場合があり、この発生時には値なしとして表示させています。

改良点の概要

 今回紹介するSkew-Tの図を図1に、エマグラムを図2に示します。以前記事にしたエマグラムの表示コードからの主な改良点は次の通りです。
・右下に、安定度などのパラメータテーブルを追加
・ホドグラフに、メソ対流系の移動に関するベクトル追加
・混合したパーセルを持ち上げた気温プロファイルの追加(橙色実線)
・最も不安定なパーセルを持ち上げた気温プロファイルの追加(黄色点線)

図1 Skew-Tのサンプル
図2 Emagramのサンプル

パラメーターテーブル

 このテーブルで示している値の説明は以下のとおりです。
SBCAPE:地上のパーセルを持ち上げた場合のCAPE(通常のCAPE)
SBCIN:地上のパーセルを持ち上げた場合のCIN
MLCAPE:混合を考慮したパーセルを持ち上げた場合のCAPE
(地上から50hPa分の気層を混合した際のパーセルを持ち上げる)
MLCIN:混合を考慮したパーセルを持ち上げた場合のCIN
MUCAPE:下層で最も相当温位が高い高度のパーセルを持ち上げた場合のCAPE
MUCIN:下層で最も相当温位が高い高度のパーセルを持ち上げた場合のCIN
TT-INDEX:Total Totals Index ( = T850 + Td850 - 2 * T500)
(詳しくは、この説明をご確認ください。)
K-INDEX:K Index
 (= T850 - T500 + Td850 - T700 + Td700)
SSI:Showalter Index

SRH:0-1,0-3,0-6kmの気層でのStorm Relative Helicity
 
(supercell stormの移動速度はBunkers methodによるright-moverを利用、
 詳しくは気象庁が作成した教科書(P120からP121)を参考)
SHEAR:
地上の風と1,3,6kmの風の鉛直シアーの大きさ
SIG TORNADO:significant tornado parameter
(詳しくは、このMetPyの資料をご確認ください。)
SUPERCELL COMP:supercell composite parameter
(詳しくは、このMetPyの資料をご確認ください。)

ホドグラフの改良点

 右上のホドグラフには、Bunkers methodによるSupercell Stormの移動ベクトルを表示しています。この移動ベクトルは、気層の平均した風ベクトルの右に進むStormと、左に進むStormの2種類があり、右に進む場合の移動ベクトルを灰色の矢印で示して、RMと表記しています。また、矢印は表示していませんが、気層(0から6kmの高度)の平均した風ベクトルの終点にMW、左に進む場合の移動ベクトルの終点にLMと表記しています。
 このベクトル計算には、次のMetPyの関数bunkers_storm_motion()を利用しています。

エマグラム / Skew-Tの改良点

 通常のエマグラムの通り、温度や露点温度の鉛直プロファイルを示し、それに加えて地上のパーセルを持ち上げた場合の気温プロファイルを黒の実線で表示、CAPEやCINの量に比例する面積部分を赤や青で塗りつぶしています。これに加えて、MLCAPEやMLCINの算出に必要な混合を考慮したパーセルを持ち上げた場合の気温プロファイルを橙色の実線、MUCAPEやMUCINの算出に必要な下層で最も大きい相当温位のパーセルを持ち上げた場合の気温プロファイルを黄色の破線で示しました。
 なお、図1と図2では地上のパーセルが下層で最も相当温位が大きいため、黒の実線と黄色の破線が重なっています。

 MUCAPEの計算では、混合を考慮したパーセルの気温や露点温度は次のコードで求めています。

# MetPy 1.6 later
import metpy.calc as mpcalc
# 地上から50hPa分の気層を混合したパーセルの気温、湿度を求める
#  pは、高層気象観測の気圧の配列
#  Tは、高層気象観測の気温の配列
#  Tdは、高層気象観測の露点温度の配列
parcel_pressure, parcel_temp, parcel_dewpoint = 
        mpcalc.mixed_parcel(p, T, Td, depth=50 * units.hPa)

 mixed_parcel()のコードを確認すると、当然のことですが、混合する気層の平均の温位と混合比を求めています。図3に、十分に混合した気層の温度と露点温度のプロファイルを黄色太線と緑色太線で示しました。これらの線はそれぞれ等温位線、等混合比線に沿ったものになっています。このことから、十分に混合した気層において、どの高度(一部の高度も飽和していない場合に限る)からパーセルを持ち上げても、CAPEとCINは同じ値になることがわかります。

図3 図1のSkew-Tの下層部分を拡大したものに、
地上から120hPa分の気層が十分混合した場合の気温と露点温度のプロファイルを表示

最後に

 図1や図2の作図用のjupyter notebookのコードを、下からダウンロードできます。MetPy1.6以上で利用してください。安定度のテーブルについては、サンプルコードの表示と同じとしており、竜巻が発生するアメリカでは利用しやすいものになっています。冬季の日本海の不安定も表現できるようなテーブルに改良できたらと思っています。

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